「スローリーディング」をしてみませんか

7月 24th, 2015

 比較的時間を取りやすい今の時期は、本好きな子どもにとっては、読書に勤しむのによい時期だと思います(夏休みの宿題として「読書感想文」が出されるのも、そうした理由が主なのでしょうし)。
 本が好きなら「この本も読んでみたい」「次はあの本を」と、どんどん読み進めていきたいものですが、それと対照的に、1冊の本をゆっくりと読み進める「スローリーディング」という読み方をご存知でしょうか。

 スローリーディングとは、「速読」ともいわれる「ファストリーディング」と対をなす読法です。後者がビジネス書や資料などを短時間で読む目的に向いた方法であるのに対して、前者は1冊の本や文書をじっくり時間をかけながら読み解いていきますから、小説や随筆(場合によっては新聞も)などを読むのに適した方法だといわれます。それぞれに用途がありますので、どちらの読み方が優れているかなどは一概にいえませんが、特定の本の読みをしっかり深める、その文書の理解をきっかけにして自らの考えを深めるという意味では、スローリーディングは非常に効果的な方法であるといえます。

 このスローリーディングを取り入れた実践例として有名になったのが、灘中学で国語を担当されていた橋本武先生の授業です。後に神奈川県知事になった黒岩祐治氏の著書で紹介され、その後も多くのメディアで取り上げられました。
 橋本先生は、当時まだ進学校として認知されていなかった灘校で、200ページほどの薄い単行本1冊を3年間かけて読み解きながら「遊ぶ感覚で学ぶ」という、教科書を全く使わない型破りな国語の授業を展開されました。灘中学・高校の6年間持ち上がりという独特のシステムによって、6年に1度の新入生しかこの授業を受けられなかったそうですが、その第2期の教え子達が京都大学合格者数日本一、第3期では東京大学合格者数日本一となり、その後も多くの卒業生が各分野の第一線で活躍するなど、その授業を受けた教え子達が輝かしい成果を残していることで知られています。
 先生は、「スローリーディングで身につけられる力」として、文章力・読解力が向上する、自分で考える力がつく、好奇心が刺激されて学ぶことが楽しくなるなどの点を挙げられていますが、何より大切にされていたのは、子ども達が「国語を好きになること」でした。追体験や寄り道満載の独創的な授業を展開するようになったきっかけは、子ども達に国語や本を読むことの楽しさに気づいてもらい、それを好きになってほしかったからだと述べられています。

 ぜひご家庭でも、もっと「国語を好きになること」を目標に、スローリーディングに取り組んでみてはいかがでしょうか。
 小学生のお子さんが取り組む場合には、与えられた作品を抵抗なく読み始められる中高生とは異なり、まずは本人が興味をもてる本を対象として選ばなければなりません。できるだけ本の世界に入り込みやすいように、お子さんのお気に入りの本があるならそれを対象にし、現時点で特にないなら好きな分野の本を図書館などで見つくろって、それをじっくり読み込むことにしましょう。

 読む本が決まったらいよいよスタートするわけですが、単に「じっくり読んでみなさい」というだけでは、普段の読書とさして変わりません。お母さん・お父さんも一緒にその本を読んで(または事前に読んでおいて)、お子さんを本の世界に導くナビゲーター役になってください。前出の橋本先生の授業でもポイントの一つになっていた「追体験」を取り入れ、お子さんに本の世界をじっくり味わってもらうために、そこに描かれた事柄を一つ一つ体験させてあげてほしいと思います。
 本の中に登場してくる事柄のうち、実際にお子さんと楽しく体験できそうなものや、「これを押さえておいたらお話をもっと深く理解できそうだな」というポイントを順に取りあげ、それを親子で一緒に追体験してみましょう。例えば、「主人公が食べていたあの料理を、今夜一緒に作って食べてみようか」とか「本に出てきた◯◯の木って知ってる?明日森の中に見に行ってみようよ」などと実際にやってみることで、お子さんは本に描かれた世界をストーリーに沿って体験することができ、お話の世界をより具体的に思い描くことができます。
 部屋の中で活字を追うだけの読書とは違い、実際に自分の身体を動かして体験したことと結びついた記憶は、鮮明な思い出とともに子どもの中に深く残っていくものです。こうして追体験を重ねながら読み進めていけば、本の世界をより味わい深く堪能することができるに違いありません。

 忙しく過ごしているうちは、長い時間をかけて1冊の本を読み続けることはなかなかできませんから、比較的時間の取りやすい夏休みは貴重な機会です。数多くの本をどんどん読み進めるのもいいものですが、この夏休みは読み込んでみたい本を決めて、ぜひスローリーディングに取り組まれることをおすすめします。親子で一緒にたくさん寄り道しながらお気に入りの一冊を読み進めることで、国語や読書をもっと好きになれると思いますよ。

(butsuen)

Posted in 家庭での教育, 小学1~3年生向け

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