勉強とは、忘れること間違えること
8月 10th, 2015
進学塾に通っての勉強というと、どうしてもテストと結びつけてとらえられ、点数や成績、取り組んだことをどれだけ覚えているかに注意が向けられがちです。
たとえば、弊社の4・5年部の「夏期講座」で学ぶケースについて考えてみましょう。授業を受け、家に帰ってからおさらいをしたり、他の問題に取り組んだりを繰り返しながら、講座の中日と最終日にテストを受けることになっています。
おとうさんやおかあさんは、わが子のテスト結果が返ってきたとき、何を真っ先にチェックされるでしょうか。おそらくほとんどの人は教科ごとの点数と順位、そして何よりも総合点と順位に目を向けられると思います。それは当然のことです。
成績が良好であれば親としてもうれしく、「よくやったね!」「これからもがんばりなさい」とほめて励まされることでしょう。
では、もしも成績が期待通りでなかったならどうでしょうか。「今回は残念な結果になってしまったね」「今回はしかたない。次、がんばろう!」と激励されるでしょうか。
成績はともあれ、いずれも親としての愛情をもとにした対応であり、それ自体には何の問題もありません。ただし、筆者にとって気になることがあります。それは、テストの結果が返ってくる前、それも通学初日からのお子さんの勉強の様子を日々見守っておられたかどうかということです(見守ってやりたくても、それができない忙しい保護者もおられるとは思います)。
たとえ成績がよくても、お子さんがやるべきことにしっかりと取り組んでいなかったケースがないとも限りません。たまたま得意とするタイプの問題が出ることもあります。直前にやったところが運よく出題されるということもあるでしょう。
そうした経緯を知らずにただほめたのでは、夏休みのテスト結果はマイナスに作用しかねません。お子さんが受験勉強を軽く見てしまう恐れがあるからです。こういうことは、4・5年生の時点ではままあることで、そのつけは6年生になってから伸び悩みという形で払わされることになりがちです。ですから、保護者の方々には「わが子は、やるべきことにしっかりと向き合って努力しているかどうか」という視点を忘れないでいただきたいのです。
一方、もしもお子さんが一生懸命取り組んだのにテストに失敗したのならどうでしょう。確かに、やったはずの勉強が実になっていなかったわけですから、こちらのほうが問題としては大きいように思われがちです。しかし、努力した結果の成績なら、いくらでも対処の方法は見つけられるものです。
人間の脳は、勉強してわかったはずのこと、覚えたはずのことの何割も忘れてしまうものです。考えてみれば当然のことですが、人間の脳が体験したことを全て記憶に留めるような機能をもっていたとしたら大変なことになってしまいます。膨大な量の体験記憶や学習記憶を脳に格納していかねばならなくなります。だから、どんどん忘れるなかで、繰り返しインプットされてきた情報を優先して記憶に留めるような仕組みになっているのです。
脳科学者の書物を拝読すると、次のような記述がありました。
(前 略)脳ははじめから物事を区別して覚えないようになっています。そうでなければ、記憶はほとんど役立たないからです。人の顔や景色を覚えても、それらはまったく変わらないということはありません。従って、前に見たときとかなり変わっていても、この人は前に会った人であり、ここは前に来たところであるとわかるためには、違うものでも同じものと認める能力が必要になります。つまり、脳の働きはあいまいなもので、そこが正確なコンピュータと本質的に違う点の一つです。
(中略)このように、脳のあいまいさは大切な性質ですが、そのために間違うことにもなり、似ている人を同じ人と認めたりします。勉強にしても、そのために間違います。しかし、脳は間違えるたびに記憶は正確になってゆくようになっています。従って、はじめから一言半句も間違えないように覚えることは困難で、間違いを繰り返す必要があるのです。そのためには問題集をこなしたり、自問自答を繰り返したりする必要があります。あるいは、脈絡をつけて記憶してゆけば、個々の事項についてたえず点検することになるでしょう。
つまり、人間の脳は1回で覚えるようにできていない代わりに、間違いを繰り返すことで正確に記憶するようにできているということのようです。
中学受験に向けての勉強は、まさに忘れることの繰り返しです。忘れてしまうことはとても残念なことですから、ついつい「忘れることとの闘い」などという言いかたになりがちですが、むしろ「正確に覚えるために、間違いは必要なものだ」と受け止めるべきではないでしょうか。
夏期講座のテストで悔しい思いをしているお子さんはおられませんか? 「ちゃんとやったつもりだったのに、いっぱい忘れていた」「できたつもりだったのに、ミスばかり」――これが多くの中学受験生の現実です。しかし、重要なのはちゃんと取り組み、頭を使ってきたかどうか。もしも、お子さんがやるべきことをやっていたのなら、おとうさんおかあさんはこう言って励ましてあげてください。
ただ悔しい思いで終わらせず、間違えたところ、ミスをしたところのやり直しをしっかりやっておこう! ここまでの勉強はこれでいいんだ。受験生がみんなたどってきた道なんだからね!
やり直しながら人間は知識を確かなものにし、記憶に留めていきます。「どうして間違えたのだろう」と振り返って考えることが、頭の働きを促進し、使える知識を増やしていき、本物の学力の形成を後押ししてくれるのです。
テスト結果が返ってきたときからがほんとうの勉強です。しっかり見直し、やり直しをしていきましょう。その努力を怠らなかった受験生には、きっと笑顔の入試結果がもたらされることでしょう。