子どもの意欲の起点にあるおかあさんの存在
8月 31st, 2015
前回は、欧米人と日本人(アジアの他国を含む)の学習観の違いについてご紹介し、「学習すれば能力を伸ばせる」という考えが望ましいものであり、日本人の美徳であるということをお伝えしました。
ただし、「学習すれば能力が伸びる」という考えは、成績主義の考えかたや受験での過剰な競争を引き起こすというマイナスの側面もあるように思います(韓国や中国にも同じ状況が見られます)。それがプレッシャーになり、日本の子どもたちの学習意欲低下や自分に対する自信の喪失につながっているのかもしれません。
また、学習意欲の低下は今日の社会が引き起こした必然的現象でもあります。衣・食・住の満ち足りた今日においては、子どもの学びのモチベーションを上げる要因を見出しにくいのではないでしょうか。そのうえ、少子化の進行は子育てを過保護へと向かわせ、子どもの自立性や自己コントロール能力が育ちにくい環境を形成しています。さらには、様々な工夫されたゲームの類が子どもを誘惑してきます。今の子どもはそれらを簡単に買えるほどお金持ちですから、始末に負えません。
しかしながら、学習意欲の低下は全ての子どもに及んでいるわけではありません。弊社は中学受験の専門塾ですが、「受験に合格するため」「親に言われるから」「成績を上げるため」といった、様々な重圧につながる要素を抱えた条件があるにもかかわらず、いつも笑顔を忘れず楽しそうに学んでいる子どもがたくさんいます。今、わが子の学習意欲に不安や不満を感じておられるご家庭だって、対処のしかた一つで状況を好転させることは必ずできるはずです。
では、どうしたらよいのでしょう。まず、学習意欲のみならず、子どもの物事に向かう意欲を左右するものは何か(誰か)ということを、大前提としてはっきりさせておきましょう。それは間違いなくおかあさんです。この記事をお読みくださっているおかあさんがたには、このことをぜひしっかりと受け止めていただきたいと思います。
子どもの行動に活気を吹き込む存在。この点においておかあさん以上の存在はありません。小学生までの子どもにとって、おかあさんにはそれほど大きな影響力があるのです。
そう申し上げると、却ってプレッシャーを感じられるでしょうか。できれば、逆に受け止めていただきたいですね。「よし、私が子どもにしてやれること、今しかしてやれないことを悔いの残らぬよう実践しよう!」――ぜひ、そんなふうに思っていただきたいと存じます。実際、弊社の教室ですばらしい勉強の取り組みをしている子どものほとんどは、良好な親子関係のもと、おかあさん(もちろんおとうさんも)の適切な見守りや応援を学びのエネルギーにしているのです。決して特別な仕掛けがあるわけではありません。
「玉井式国語的算数教室」の創始者である玉井満代先生は、講演会のたびに必ずおかあさんがたに伝えておられることがあります。先日(8月28日)、西区民文化センターで実施した「教育講演会」においても、同様のお話をされました。
子どもは、おかあさんからおっぱいをもらわないと生きていけない赤ん坊のときから、ひたすらおかあさんを信じ、おかあさん大好きで育ってきたのです。子どもはこれまでの人生で、おかあさんからほめてもらう、ただそれだけのために日々がんばってきたのです。そのことをしっかりと受け止め、どんなときにもわが子をいとおしむ心を失わないようにしましょう。「子どもはおかあさんが大好き!」――そのことさえ忘れなかったら、みなさんが子育てで失敗することはありません。
脳神経外科の専門家が書いておられる書物に、これと同趣旨の記述があります。「すべての始まりは、“お母さん”との出会い」という小見出しのページに、次のようなことが書かれていました。
考えを生み出すという神経機能プロセスの形成は、生まれてだいたい三か月目、人の表情が見えるようになり、自分以外の他者を認識するようになってはじめてスタートします。外界に向けて開いたばかりの赤ちゃんの眼が、最初に認識するのは“お母さん”の表情とお母さんの姿。じつはお母さんを見て、興味を持ち、お母さんを好きになることから人間の脳を考えるしくみづくりは始まるのです。
いわば母親という存在が起点になるのです。現に、お母さんに褒められたくて勉強やスポーツをがんばり、才能を開花させたという人は少なくありませんが、その姿勢はきわめて脳の理(ことわり)にかなっていると言えるでしょう。たとえ苦手なことでも、好きなお母さんのためにそれを覚えたり、考えたりするのは喜びだと、脳が感じるからです。そうした気持ちが組み込まれた情報は脳機能を活性化し、深く、長く記憶に留まると考えられます。
この文章では、おかあさんという存在が子どもの物事に取り組む意欲の起点になるということが書かれています。そう言えば、何らかの子どもを対象とした調査の結果を説明した文章に、「この課題は、あなたのおかあさんの希望によって選んだものです」と伝えると、取り組む子どものモチベーションが上がる」といったような記述を目にしたことがあります。
子どもにとって唯一無二の存在で、大好きなおかあさん。それは、「子どもの意欲を高めるのも下げるのもおかあさん次第である」ということを意味するでしょう。その大好きなはずのおかあさんが、子どもの「ほめてほしい」という願望に応えてくれず、逆に叱ってばかりだとどうなるでしょうか。
前述の脳神経外科医の先生は、「母親という存在自体は根源的な好意や愛情の対象なので、そこに葛藤が生じます。子どもはとても苦しいのです。そうなると脳の自己防衛本能が働いて、いくらガミガミ言われても右から左へ『聞き流す』ようになってしまうのです。聞くふりをするだけで、内容は頭に入っていません。おかあさんに叱られて葛藤する苦しみから自分自身を守るために、脳がそうしろと命令するのです」と述べておられます。
「うちの子どもは、親の話を聞こうとしません」という相談がときどきありますが、それは子どもの心の葛藤の為せる業なのですね。親としては辛いところです。子どものためを思っていろいろ言ってきたのが、逆効果になってしまうのですから。
こうした状況を脱し、子どもの内心にある「おかあさん大好き!」という思いを素直に稼働させるよい方法はないものでしょうか。次回は、これをテーマにして話を進めてまいろうと思います。よろしければ、引き続きお読みください。