子どもに適しているのは「デジタル」?「紙」?<続き>

9月 21st, 2015

 先日、子どもの学習に活用できるデジタル教材、特にタブレット端末の優れた点について書かせていただきました(「子どもに適しているのは『デジタル』?『紙』?」)。
 しかし、だからといって、全てをタブレットに置き換えてしまえばいい・・・とは言い切れません。それは、どれだけデジタル化が進んでも、紙教材ならではの素晴らしい点や、紙でなければ得られないものもあると考えられるからです。

 その一例が、前回ご紹介した実験結果の中にもあった「紙教材は学習した実感をもちやすい」という点です。
 タブレットが「もう一度やってみたい」という学習の動機づけに適しているのに対して、紙教材はしっかり取り組めばそれに応じた実感を得やすいという特長をもっています。その点をうまく活かせば、他の学習ツールよりも大きな達成感を得ることができると考えられますし、「しっかり勉強した」という実感が支えとなって、基礎知識を習得する際にも効果を発揮するはずです。
 つまり入口や導入はタブレットに優位性があるとしても、一度習慣化されて流れができた後は、紙教材の長所が際立ってくるということになります。

 さらに、上記のような心理面での効能だけでなく、紙教材を使った筆算の練習や漢字の書き取りなどでは、筆記用具を通して紙と接触する感覚が脳を刺激することによって学習効果を高めているといわれています。もちろんタブレットでも指やタッチペンなどを使って「書く」という動作は可能ではありますが、どうしても「紙+鉛筆」の組み合わせとは異なる面があり、現段階では感覚的なものも含めた違いを埋めることは難しいようです(今後の技術の進歩如何ではこの点も変化する可能性はありますが・・・)から、この点も紙教材を使って学習することの見逃せない長所でしょう。
 この他にも、紙教材には、文章の読みやすさや課題に取り組む際の疲れにくさなどの長所がありますから、それらを活かして長い文章を読んで設問を解くことや、反復的な筆算や漢字の書き取りに少し長い時間取り組むなどの用途にも向いているということができます。
 このように紙教材にも多くの優れた点があるのです。

 150918新しいツールや学習法が登場すると、そちらへの興味・関心が高くなるのは当然のことですし(まず試してみないことにはわかりませんからね)、反対に、「新しいものは信用できない」という理由でそれを避け、従来通りのものにこだわりをもたれる方もいらっしゃることでしょう。
 ですが、デジタル教材を採用する流れは世界規模で進められており、これから先、日本でも学校をはじめ教育現場のデジタル化が進んでいくことは間違いないでしょう。加えて、上記のように紙教材にも優れた点が多くあることをふまえれば、少なくとも今後しばらくの期間は、両者を複合的に取り入れる形になることが予想されます。
 家庭学習に関しても、最初から「どれか一つのツールが最高で、他はダメ」と決めつけるのはあまり好ましい対処とは思えません。お子さんの性格や特性に応じて各ツールを使い分けることや、それぞれの教材の特長を考慮しながらバランスよく組み合わせるなどの柔軟な発想や対応が、これからの学習には求められるのではないでしょうか。

 

 そしてもうひとつ、保護者の方々にご注意いただきたい点があります。
 それは、デジタル教材であれ紙教材であれ、家庭学習で子どもを指導する際のコミュニケーションの取り方には十分注意を払っていただきたいということです。

 ある研究において、ほぼ同じ学力レベルの小学生達を2つのグループに分けて同じ内容を学習させ、1か月後に算数の計算や漢字の問題などのテストをして比較するという取り組みが行われたそうです。ひとつは、正解・不正解のみを表示するタブレット端末だけを使って勉強するグループ、もうひとつは、母親など家族に質問しながら従来通り紙教材を使って勉強するグループです。
 元々この実験は、「◯×しか表示できないデジタル機器での学習が、指導を受けながら進めることのできる学習にどこまで近づけるか」という趣旨で実施されたものでした。ですから、当然「家族に質問しながら勉強する」グループの方が高得点だと予想されていたのですが、実際に行われたテストの結果は意外なものでした。
 驚いたことに、単純な答え合わせ機能しかもたないタブレットで勉強したグループの方が良好な成績をおさめたのです。

 この成績差が生まれた背景としては、もちろんタブレット学習の効能もあるのでしょうが、それ以上に大きく影響したのが、紙教材で勉強したグループの「親に質問すると叱られる」という点だったと考えられています。
 実験終了後、家族に質問しながら紙教材で勉強したグループの子ども達に家庭学習の様子を確認したところ、「お母さんに質問したけど、『なんでわからないの!』といつも怒られるから嫌になった」「『なぜこんな問題ができないのか』と叱られて、質問する気が失せた」といった答えが多数返ってきたのです。子ども達にとって、頑張っているのに叱られることや親の不満げな表情を目にすることは、かなり大きな心理的負担になります。「解き方を教えてもらえるとしても、質問するたびに叱られるのなら、最初から一人で勉強した方がよい」ということになり、結局、物言わぬ機械が黙々と答え合わせをしてくれたグループの方が、より多くの問題を効率よくこなすことにつながったというわけです。
 家族による助言の優位性を前提に実施されたこの実験によって、「質問して叱られるぐらいなら、単純な機能しかもたない機械を使って勉強した方がましである」ことが証明されたという皮肉な事実は、教材・教具の種類に関わらず、親の関わり方がいかに重要かを示しているといっていいのではないでしょうか。

 今の教育現場は、昨今のデジタル技術の発達によって、その昔印刷技術が発達して紙教材を大量生産できるようになった時代以来の大きな変革期を迎えているのかもしれません。そう考えれば、現在はその過渡期にあたりますから、技術の進歩や科学的な検証がより一層進むことで、今後はさらに進化を遂げることになるでしょう。
 ただし、いくら教材が進化したとしても、「それさえ与えておけば、子どもだけでどんどん勉強できるようになる」ような魔法の道具はありません。どんな教材を使っても、一定の年齢までの家庭での子育てと知的発達が不可分なものである以上、子どもはお母さん・お父さんとの関わりの中で成長していくものです。
 それを忘れず、子どもとのコミュニケーションを大切にしながら、わが子にはどんな教材・勉強法が適しているのかを保護者の方がしっかり見極めてあげてくださいね。

(butsuen)

Posted in 勉強について, 勉強の仕方, 小学1~3年生向け

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