河合家のサンタクロース

12月 21st, 2015

 12月になると、夜の街路はライトアップされ、郊外では家の周りに光の装飾を施す家庭がたくさん見られるようになります。

 このような光景を目にするたびに、「ああ、今年もクリスマスが近いな」と思うのですが、筆者のような年齢になると子どもはすでに独り立ちしています。クリスマスは家庭のイベントになり得ず、そのままスルーして正月を迎えることになりがちです。

 いっぽう、小学生をおもちのご家庭はどうでしょうか。おそらく、お子さんがたはクリスマスの到来を心待ちにしておられることでしょう。

 そこで今回は受験ネタやしつけネタではなく、クリスマスにまつわる話をお届けしようかと、手持ちの書物に何かないかと探してみました。すると、心理学者の河合隼雄さん(1928-2007)の著作の中に、子ども時代のクリスマスの様子が書かれている箇所が見つかりました。ユング心理学の大家として有名な先生の子ども時代のほほえましいエピソードを、ちょっとご紹介してみようと思います。みなさんの子どもの頃のクリスマスを思い出すきっかけになれば幸いです。

 以下は、全て書物からの引用です。

 私が子どもだったころ、わが家にはサンタクロースが来たのである。私の両親はクリスチャンではないけれど、どういうわけかサンタクロースだけは取り入れて、十二月二十四日の夜、贈り物がとどけられることになっていた。しかも、それは二十四日の夜、子どもたちが眠っているうちに、家の中のどこかに隠されていて、二十五日の朝暗いうちから起きて、兄弟一同で贈り物を探すことになっていた。

 子どもにとって、これほど不思議でまた楽しいことはない。私は朝暗いうちに起きることなどめったにないが、今でも所用で早く起きねばならぬとき、服を着ながらふと子ども時代のサンタクロースのことを思い出すほど、その印象は強烈に残っている。朝早く起きて、兄弟で探すのだが、興奮しているのでなかなか見つからない。サンタクロースは賢いので、年々まったく思いがけないところに隠しているのだ。兄弟への贈り物がつぎつぎ見つかって、自分のだけがなかなか出てこなかったときの心細かったこと。また、それだけに発見したときの嬉しかったことなど、今なお心に残っている。

 わが家の家の構造上、煙突からはどうしてもはいってこられないことがわかって、問題になったとき、父親は「うちの家は、ここからはいってくる」と、玄関の上の小さい菱形の飾り窓を指さして教えてくれた。そこで、二十四日の夜、兄たちはひそかに細い糸を張っておいたが、二十五日の朝、それはみごとにちぎられていた! サンタクロースが通ったのだ。

 もっとすごいことがあった。小学校五年生の兄が徹夜してサンタクロースをつかまえる、と言い出したのである。私は小さかったので、そんなことをすると贈り物がもらえないのではと大変心配したが、何と父親が大賛成で協力を申し出た。二十四日の夜、父と兄は徹夜をしようと頑張ったが、兄はついとろとろと眠ってしまい、父親も「お父さんも、つい一緒に眠ってしまって、おしいことをした」というしばらくの間に、サンタクロースはすかさず、すべての贈り物を隠して去っていったのである。これには驚嘆してしまったが、この話は、サンタクロースの素晴らしさを示すものとして、河合家の伝統のようにその後も何度話をされたかわからないくらいとなった。

 ところが戦争が厳しくなり、欧米のものに対しては極端な敵意が向けられるようになった。サンタクロースが日本に来るなど考えられないし、来ても断固として排除しなくてはならぬほどの雰囲気になった。子どもたちはクリスマスが近づいてくるにつれ心配が深まってきた。そんなとき、父親が一同に対して、「サンタクロースはもう来ない」と宣言した。しかし、「よう考えてみたら、日本には大きい袋をかついだ大国主命(おおくにぬしのみこと)という神さんがおられる。気持ちが通じるかどうかはわからんけど、今年は、おとうさんは大国主命にお願いしてみよう」ということになった。

 さて、おとうさんの提案の結果はどうなったのでしょうか。「大国主命がクリスマスに来るというのも変だな」とは思いながら期待して待っていると、ちゃんと来てくれたのだそうです。そのうえ、「一同に大国主命の絵のついている箱にはいった菓子さえ来た」のです。

 おとうさんの子どもたちへの愛情が本当によく伝わってくるエピソードですね。おとうさんは、大国主命にお願いしたのだからサンタクロースではなく、大国主命からの贈り物であることをしっかりと印象づける細工までしてくれていたのですね。20151221a

 河合隼雄さんのご兄弟六人は、家庭をもつようになってからも、それぞれにおとうさんから受け継いだクリスマスの催しを楽しんだとか。そして、この催しが家ごとの楽しい物語を生み出す原動力になったといいます。

 今年のクリスマスには、おたくではどんなことを予定されているでしょうか。それぞれのご家庭の、それぞれの過ごしかたがおありでしょう。受験生のご家庭でも、この日はちょっと気分転換をし、楽しい家族一緒のひとときをお過ごしください。

Posted in 子育てについて, 家庭での教育

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