ごほうびは逆効果?
1月 11th, 2016
あけましておめでとうございます。
新年のご挨拶が、いささか遅れてしまいました。年末年始にかけて、次年度講座の募集に関わる仕事が多数重なり、こんなことになってしまいました。
「中学受験や子育てに関する情報発信の場を」という思いから、7年余り前に始めた当ブログですが、すでに百万ビューを超えるまでになりました。お読みくださっている方々がおられることを励みに書いてまいりましたが、ここ1~2年は筆者よりもずっと若い広報スタッフも執筆に加わってくれるようになり、心強い思いをしています。
さて、1月も10日を過ぎ、いよいよ入試本番が目の前に迫ってまいりました。受験生の子どもたちは、今最後の調整に余念がないことと思います。保護者のみなさまにおかれては、お子さんがベストコンディションで試験を受けられるよう、最後の最後まで手厚い見守りとフォローをお願いいたします。
弊社では、毎年この時期に折り込むチラシに、受験生を励ますためのメッセージを掲載しています。今年は県西部の私立一貫校の入試解禁日の直前にあたる17日を予定しています。よろしければ、ぜひ目を通してください。お子さんが心を落ち着け、メンタル面でも万全の状態で入試に臨まれますことを心よりお祈り申し上げます。なお、チラシが折り込まれていない地区のかたは、当HPにおいても閲覧いただけます。よろしければそれをご利用ください。
ここからが本日予定していた記事となります。わが子に中学受験を勧め、そのための勉強を始めたものの、なかなか期待通りにがんばってくれず、イライラされているかたはおられませんか? 4~5年生であれば、ある程度しかたがない面もあるでしょう。ただでさえ興味の対象が様々に広がっていく年齢ですから、勉強以外のものに気持ちを奪われてしまうことも少なくありません。
そこで、何とかしてがんばらせようと親は算段することになります。そうした試みの一つが“ごほうび作戦”です。がんばったらそれに報いてやりたいというのが親心ですが、多くの場合、「がんばったら(成績が上がったら)ほしいものを買ってやろう」といった交換条件のようなごほうびになりがちです。このようなアプローチをされたご家庭はありませんか?
しかしながら、この“ごほうび作戦”は心理学者には概して評判がよくありません。それは、子どもの教育上よろしくないというよりも、逆効果にしかならないからのようです。そのことを如実に示す有名な実験の例があるのでご紹介してみましょう。
1970年代のことですが、3~5歳の絵を描くことが好きな子どもたちを、3つのグループに分けて報酬のもたらす作用を調べる実験が行われました。
まず、子どもたちは3つのグループに分けられました。あるグループには、保育の自由遊びの前に絵を描いたらごほうび(賞状)をあげることを約束しました。そして、そのとおり子どもたちが絵を描いたらごほうびを与えました。もう一つのグループには、前もって何も伝えない代わりに、絵を描いたらごほうびを与えました。さらにもう一つのグループにはそういったごほうびの約束は一切せず、絵を描いても何も与えませんでした。つまり、【報酬期待グループ】【報酬期待なしグループ】【報酬なしグループ】の3グループに分けたわけです。
2週間後、実験者は子どもたちの自由遊びの時間の様子を観察しました。観察の意図は、自由時間に子どもたちが自発的に絵を描こうとするかどうかを調べるということでした。何をして遊んでもよい時間に、子どもたちが進んで絵を描こうとしたなら、自由遊びの時間の前の絵を描く体験がどのような影響をもたらしたかがわかります。さて、3つのグループに設定されたそれぞれの条件は、子どもたちの絵を描くことへのモチベーション(内発的意欲)にどのような影響を及ぼしたでしょうか。
その結果ですが、【報酬なしグループ】や【報酬期待なしグループ】の子どもたちは、実験の前と変わりなく絵を描いていました。ところが、「絵を描いたらごほうびをあげるよ」と言われていた【報酬期待グループ】はそうではありませんでした。以前よりも絵を描く子どもの数がずいぶん減っていたのです。
この結果をどう受け止めるべきでしょうか。おそらく、ごほうびが絵を描くことを純粋に楽しむ気持ちをスポイルしたのではないでしょうか。つまり楽しいから絵を描いていたのが、ごほうびをもらうために絵を描くというふうに変わってしまったのでしょう。絵を描くという行為が手段に変質したことで、絵を描くという行為が純粋に楽しさをもたらしてくれるものではなくなったのです。
実験の対象だったのは3~5歳の子どもです。まだいろいろな知識や知恵の身についていない年齢だけに、この実験の結果はごほうび(報酬)のもたらす作用を端的に教えてくれるのではないでしょうか。
この実験を紹介しておられた日本の学者は、次のように述べておられます。
この実験の興味深い点、そして功績の大きかった点は、報酬を与えることで内発的な意欲が低下するという現象を生み出すものが、報酬そのものというより、子どもが報酬を期待する点にあるということが明らかにされたことである。というのは、何の見返りも期待せず、思いがけず報酬をもらえた子ども【報酬期待なしグループ】には、こうした意欲の低下が見られなかったのである。つまり、「○○したら、○○を与える」といった交換条件つきの報酬のみが、その後の意欲に対して悪影響を及ぼす。何の見返りも期待しない人に対して、何らかの仕事が終わった後で、そのねぎらいの意味をこめて思いがけずに与える報酬ならば、問題ない!むろん、その場合も、細心の注意が必要になってくる。一度報酬が与えられると、次も報酬がもらえるのではないかと、その見返りを期待するようになるからである。
この実験結果は、保護者の方々にとって有益な示唆を与えてくれることでしょう。「成績が上がったら」式のアプローチではなく、「いつもよりがんばっていたら、それを親がちゃんと見ていてごほうびとともに励ましてくれた」といったような関わりかたをすれば、子どものモチベーションアップにつながるのではないでしょうか。無論、学者が指摘しておられたように、次のごほうびが目当てにならないように配慮することも必要でしょう。
また、ごほうびに親としての愛情が感じられるものは、報酬のネガティブな作用がなくなり、子どもに励みを与えるという効果をもたらすようです。たとえば、週末におとうさんが気分転換のドライブに連れて行ってくれるとか、おかあさんが晩御飯に大好きなメニューを用意してくれるとか、子どもの喜びそうなアイデアがどなたにも一つや二つは浮かぶと思います。ぜひ試してみてください。
筆者がかつて指導をしていた6年生の男子児童のおかあさんに、「成績優秀者リストに掲載されたら五千円あげよう!」というごほうび作戦を用いたかたがおられました。この作戦は見事に失敗し、却って子どもの成績は下降してしまいました。その男の子は、「おかあさんは、どうせボクが五千円もらえる成績なんかとれっこないと思っているから、五千円やろうなんて言ったんだ」と語っていたことを思い出します。
今回は、ごほうびの功罪についての情報をお届けしてみました。どのご家庭においても、「わが子をがんばらせるにはどうしたらよいか」と、いろいろ思案されていると思います。今4~5年生のご家庭なら、「報酬期待なしグループ」のようなやりかたが功を奏するかもしれませんね。お子さんの毎日の取り組みをしっかりと観察し、ごほうびの効果が得られるタイミングを上手に活かしていただきたいですね。