学習したことを記憶に残すには

4月 18th, 2016

 いくら勉強をしたとしても、そこで得た知識や気づきが記憶に残らなければ成果を蓄積することはできません。学習へのアプローチには様々な方法があります。どれが成果を得やすいかは、その人の年齢や性格などによって多少違いがありますが、ある程度の傾向は見出すことができます。今回は、この点に着目した話題をご提供してみようと思います。

 ある本(著者はヨーロッパの医者・心理学者)に、右下のような情報が記されていました。ただし、このデータがどこから出たものかはよくわかりません。筆者自身、同じものを別の書物でも見かけたことがありますので、みなさんのなかにもご存じのかたがおられるかもしれません。これは、情報がどのような感覚器官からどのような方法で入力されたかによって、記憶に残る割合がずいぶん違ってくることを示しています。20160418a

 読んだ(文字言語を視覚的に入力した)ものは僅か10%、聞いた(音声言語を聴覚的に入力した)ものでも20%しか記憶に残らないんですね。見た(具体的状況を視覚的に入力した)ものは、読んだり聞いたりしたものよりはいくらか記憶に残る割合が高いようですが、それでも30%ほどです。

 いっぽう、見て聞いたものなら70%が記憶に残ります。「見る」と「聞く」を組み合わせると、両者を単純に足し算したよりも20%も多く記憶に残るんですね。

 これはどういうことでしょうか。このことに関わる説明が上表を掲載した本にありましたので、ご紹介してみましょう。

 情報の受信と整理、そして処理の方法は、人によってそれぞれ違います。そのため、「学習タイプ」にもいろいろなタイプがあります。

 ディクテーション(聞き取り)の方が、単なる書写よりも得意な子どもがいます。これは聴覚的な学習タイプなので、聞いたものの方が読んだものよりよくおぼえられるのです。別のタイプは、数字でも、目で見た方がおぼえられる、というでしょう。これは視覚的な学習タイプの子どもです。記憶は見ることによってサポートされます。

 先ほどの表からもわかるように、長期記憶に情報を蓄積するには、いくつもの知覚を組み合わせてキャッチし、特に視覚的な情報と組み合わせるととても効率的なのです。

 聴覚と視覚をあわせると、合計は50%ではなく、70%になります。つまり、映像と音声を同時にキャッチし、リンクさせれば、記憶の効率が高まる、ということです。

 みなさんのお子さんは、どんな情報の入力方法が記憶に残り易いタイプかご存知でしょうか。よくわからない場合は、お子さんの学習の様子を観察したり、お子さん自身がどう認識しておられるか話し合ってみたりすると、ある程度わかってくるかもしれません。お子さんにとって効率のよい学びかたが見つかれば、その方法を軸に勉強されるとよいでしょう。

 ともあれ、「読む」「聞く」「見る」は学習の最も基本的なスタイルですが、「見る」という方法が最も記憶に残り易いということがわかりました。「読む」も視覚を使うわけですが、記号(文字)認識というバイアスがかかるので、「見る」ということのわかり易さには及ばないのでしょう。小学生の場合、文字習得が完成の域に達していないので、当然と言えば当然のことですね。

 tamai弊社が小学校低学年部門(1~3年生)で導入している「玉井式国語的算数教室」は、アニメーションの映像(見る)と、声優の声(聞く)に基づく学習が軸となっています。前述のように、「見る」と「聞く」を組み合わせれば70%もの情報を記憶することができます。この教育プログラムは、その点においても非常に実践的で優れたものだと思います。

 ただし、複雑な事柄を理解する必要があればあるほど、人間は文字を介して情報を採り入れることに頼らざるを得ません。そこで、受験勉強のレベルになってから有効な方法は、「学習事項を声に出して読んで理解する」ことではないかと思われます。

 たとえば、弊社のテキストに基づいて家庭学習をする場合、テキストにある文言を音読しながら、気持ちを集中させて理解するような取り組みをすれば、書かれた内容を視覚と聴覚の二つのルートから情報を入力し、情報を脳内でまとめることになります。その結果、より効率的に記憶に残せることができます。特に、基本的なことを理解するのに苦労するお子さんの場合、声に出して読む習慣をつけることを是非心がけていただきたいですね。なぜなら、文字言語と音声言語のアクセス回路が十分に発達していないことが、学習上の障壁になっていることも、学力形成で難渋する原因の一つと考えられるからです。こういうお子さんの場合、声に出して読むことは、大人が思う以上に書かれた内容を理解をするうえで助けになるのです。

 弊社の4・5年部では、音読による学習を奨励しています。子どもたちは「面倒くさい」と思うかもしれませんが、このほうがよく記憶に残るので学力アップにつながるからです。ぜひ、ご家庭でもテキストの著述内容を声に出して読んで理解するよう促していただきたいと存じます。

 ところで、先ほどの表によると、「自分で言ったことの70%」「自分でやったことの90%」が記憶に残るとされています。このことを子どもたちの学習活動に活かせないものでしょうか。

 学校でも塾(弊社の教室)でも、授業では先生が子どもたちに発問をし、自分の考えを述べる機会を与えています。これを積極的に活かすような学びかたをするお子さんは、成果をより多く得られるでしょう。自分の考えを言葉にして表すには、情報を頭の中でまとめ、論理に破たんを来さないよう集中して思考を巡らせながら言葉で表現することが求められます。それは脳を鍛える知的作業であり、そのときに扱った学習内容は記憶に深く刻まれることでしょう。ですから、授業で発言したり質問したりすることは、学力を伸ばしていくうえで大変効果的だと言えるでしょう。

 もう一つの「自分でやったこと」ですが、これはどう学習に応用できるでしょうか。学習において、ただ読む、聞く、見るのではなく、手を使うということがその一つではないかと思います。

 20160418たとえば、「あれ?」と疑問に思ったり、解決のためのヒントが浮かんだりしたらすぐメモを取るのです。また、算数では課題の内容を表にしたり、絵にしたりするのも効果的です。これによって情報が整理整頓され、解決の突破口が見つかることが数多くあるからです。漢字や計算のような単純な学習においても、実際に自分で書いて覚えるほうが頭によく残ります。

 あるとき、バスの中で某有名中高一貫校の女子生徒さんがしきりに指を空中で動かしているのが目に留まりました。どうやら、英語の長いスペルを周囲に迷惑をかけない程度の小さな声を発しながら、指でなぞって書いていたようでした。これも記憶に残すために有効なアウトプットを伴う学習です。

 近年、公教育では゛アクティブ・ラーニング”という言葉がスローガンに掲げられ、子どもの積極的な行動を伴った学習が推し進められているようです。これも、学んだことを記憶に残すうえで何が効果的かを踏まえた指導の実践であろうと思います。

 記憶に残り易い学習方法は、子どもたちの個性によって若干異なるものです。しかし、複数の情報入力ルートを使うこと、考えを言葉にして表すこと、学んだことをアウトプットすることなどは、どのお子さんにも有効な、記憶に残り易い学習だと思います。ぜひ毎日の学習活動に活かしていただきたいですね。

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