読みの力をつけるために親が手伝えること

8月 22nd, 2016

 前々回から、子どもの学力が振るわない原因の一つとして、「読みの習熟不足が関与しているのではないか」ということを話題にとりあげ、対策としてどのようなことが考えられるかを書いてきました。

 文章を読むことは、大人なら空気を吸うことと同様に何の意識もなくやれることです。しかしながら、小学校への入学によって始まった文字学習が軌道に乗り、読むことが何の苦労もない作業になるまでのプロセスは子どもによって千差万別です。この流れをうまく築けるかどうかが、勉学の成果に個人差を生み出す原因になっているのではないかと筆者は考えています。

 確かな黙読力を養うプロセスとして、欠くことのできないステップが“音読”です。なぜ音読が必要かについては前回書きましたが、保護者の方々がお知りになりたいのは、そういった理屈よりも、「音読をどうやって子どもにさせたらよいのか」や、「親が子どもにしてやれることは何か」などについての具体的な指針であろうと思います。

 そこで今回は、ご自身で国語の学習塾を経営し、子どもの国語力強化のためにさまざまな工夫を積み重ね、成果をあげてこられたかたの著書の一部をご紹介し、親の望ましい関わりかたについてともに考えてみようと思います。

 読みの態勢づくりで後手を踏んだ子どもは、例外なく国語の読解力不足という問題に突き当たります。この問題の解決にあたっては、子ども個々の状況に応じた巻き返しのための対策が必須となります。それは学校や学習塾の授業では実行不可能なことであり、それを手伝える存在はおそらくおかあさんぐらいであろうと思います。20160822bそのおかあさんが、どのようなサポートをすべきかについて書かれている箇所を、まずはご紹介してみましょう。

 「国語の勉強はしているのだけれども点数が上がらない」「国語はどのように教えたらよいのかわからない」と、多くのお母様方がお子さんの国語で悩んでいらっしゃいます。しかし、我が子に国語を教えるのは決して難しいことではありません。

 子どもの性格も生活も、つまり、育ってきた環境のすべてが国語に表れます。今まで大切に育んだ子どもの長所も短所も、お母様ならばご存知です。その子らしい良さをもっと伸ばそうという気持ちで子どもに添い、「音読をしながら、印つけとメモ書き」の「丁寧に読む」練習をすることで、子どもの国語の力を養うことができます。

 「国語を何とか……」と思っていらっしゃるのなら、まず子どもの長所をはっきりと捉えます。次に、それをもっと伸ばすにはどのように接すればよいかを考えます。そして、長所を伸ばす接し方で「丁寧に読む」練習をすればよいのです。

 たとえば、活発で積極的な点が長所ならば、それを活かして歯切れ良く、リズムを持って文章を読むようにします。このような子ども達の多くは読み飛ばしをしていますが、その原因であるおっちょこちょいの面については、当分の間、目をつぶります。テンポ良く読み進めていくことで、そのうち飛ばし読みが正されていきます。しばらくすると、懸案の「おっちょこちょいの飛ばし読み」は矯正されているはずです。

 また、おとなしく、考えるタイプのお子さんならば、ゆっくりと丁寧に読み進めます。このタイプの子ども達は「丁寧に読む」ことを練習すると割合スムーズに力が伸びます。正確に読めるようになると、子ども自身が安心して時間の枠を考えていくようになります。その時に「時間がかかり過ぎる」という点が解消されます。

 みなさんのお子さんにはどんな性格的特徴があるでしょうか。「子どもは自分の長所を認めてもらうと幸せを感じます。心身が安定し、何でもできそうな気持ちになります。それが潜在的にもった力を引き出す原動力になるのです」と、著者は述べておられました。

 また、こうした練習を始めるにあたり、「いつからでも、手遅れということはありません。気がついたときから始めればよいのです」とも述べておられます。

 どのようなタイプの子どもにせよ、国語力に問題を抱える子どもに多く見られる傾向として、「読むのを面倒がる」ということがあります。字面を追って丁寧に読み進める作業は、確かに手間がかかります。また、音読は文字の音を声に出して確認していく作業ですからどうしてもスピードが鈍ります。また、声に出すこと自体がかなりの負担になります。そもそも、それがうまくできないから国語力が伸びないのですから、子ども自身で解決するのはほとんど無理と言えるでしょう。親は子どもの「面倒くさい」に寄り添い、子どものよいところを尊重しながら、少しでも楽しく能動的な気分で読みの練習を実行できるように配慮してあげてほしいですね。

 子どもの性格的な特徴、長所に合ったやりかたのよいところは、継続性が期待できるということに尽きるでしょう(おかあさんの情熱や配慮、工夫があってこそのことですが)。「気が進まない」→「どうせうまくやれっこない」→「やはり効果はなかった」→「自分は能力がない」といった負の連鎖を断ち切るには、方法のよし悪しよりも、取り組む子どもの気持ちが前向きになることのほうがより重要なことであろうと思います。また、よいやりかたというものは、一つしかないわけではありません。その子どもにとって一番受け入れやすいやりかたが、最もよいやりかたではないでしょうか。

 ところで、先ほどの引用文のなかに、「音読をしながら、印つけとメモ書き」というくだりがあったと思います。20160822「印つけとメモ書き」とはどういうものを言うのでしょうか。著者によると「印つけ」とは、文章が物語文であるときには気持ちが表現されたところに印をつける、説明文のときには「つなぎ言葉」に印をつける、といった具合です(この方法は、あるお子さんの状態を見て判断されたそうです)。また、意味のわからない言葉に出合ったときにも、印をつけるとよいでしょう。そうした印つけの際、疑問点や後で確かめたおきたいことがあれば、ごく簡単なメモを記しておくと、知りたいことが放置されることがなくなります。

 「音読を励行しましょう」と申し上げると、かなりの確率で「どんなものを読ませればいいのですか?」という質問を受けます。どんな文章をお子さんに読ませるかについては、さほど神経質になる必要はありません。よい文章であっても、お子さんが好まなければ意味がありませんし、文章が難しすぎても読むことへの抵抗感をよけいに与えてしまうことになりかねません。

 弊社の4・5年部会員家庭であれば、「テキストの素材文」や、毎回の「テストの素材文」などが適当でしょう。これらの文章では、必ず読解にあたってのテーマが掲げられています。たとえば、4年部の後期テキストでは、「場面のわけ方(物語文)」「登場人物の気持ち(物語文)」「段落の中心文(説明文)」「段落の要点(説明文)」などのような学習の目標が明示されていますから、こうした点に関わるところに印をつけたり、傍線を引いたりすることで、前出の著者の述べておられるような音読の際に付随する作業がしやすくなるでしょう。文章スタイルに即した読み取りかたを身につけるうえでも大変効果的です。

 ただし、「とにかく読みたがらない」と困っておられるご家庭の場合、お子さんの興味に極力添ったものを選択することも必要でしょう。活字を読むことには変わりありませんから、お子さんが選んだ文章でよいのです。とにかく声に出して読むことを繰り返すことを優先しましょう。「今さら、こんな易しい文章を読んだって、何の役にも立たない」と思わないことです。音読は知識を得るためにするのではなく、読みのスキルアップのためにするのですから。お子さんが読む練習をするうえで選んだ文章なら何でもよいのだというぐらいに割り切りましょう(漫画だって構いません)。

 最後に。4、5年生までのお子さんなら、できればおかあさんと交代で音読することをお勧めします。お子さんの読みの習熟度に合わせ、数行ごとに交代したり、段落ごとに交代したり、ページの切れ目で交代したりと、いろいろ工夫してみてください。おかあさんはお子さんに注意を与えたり、叱ったりするのではなく、おかあさんの読みを聞かせて参考にさせるほうが長続きすると思います。この交替音読の時間を楽しいひとときにするよう配慮してあげてください。声が出ないタイプのお子さんに、「大きい声で読みなさい!」と叱るのはNGです。読むことに慣れ、自信がついてくると、自然と元気のよい読みができるようになります。何事につけ当てはまりますが、よい流れができるまでいかに辛抱強く取り組むかが肝心です。とにかく、恥ずかしがらないで読むこと、面倒がらなくなること、この点をクリアする必要があります。おかあさんがたには、「今しか手伝ってやれないのだから」という決意していただき、お子さんを励ましながらがんばっていただきたいと存じます。

 たとえば、少しでも気の入った読みかたをしていればおかあさんが大いにほめ、躓くことなく読み切れたなら大袈裟なくらいにほめるなど、お子さんの読みに臨む姿勢を能動的にしていくための工夫をしてみてはいかがでしょうか。もし、音読の素材文としてテキストやテストの文章を使うことをお子さんが同意されたなら、各文章の学習テーマに沿ったチェックを入れる学習も可能になるでしょう。こうした作業を繰り返していくうちに、知らず知らずのうちに読みの態勢は整っていきますし、読むときのコツも少しずつ身についていきます。すでにお伝えしたように、音読が滑らかにできていれば、間違いなく黙読はより早くスムーズにできるようになっています。

 読むという行為は、すべての教科学習の基本です。また、スラスラ読めるようになれば、活字から得られる様々な情報や、活字が創造する未知の世界への興味はどんどん増していくに相違ありません。それが子どもというものです。

 中学受験を視野に入れておられるご家庭において、親がわが子の学習に関わることで最も必要性が高いのは、「読みの態勢づくりへの関与」だと筆者は確信しています。ちゃんと読めれば、子どもは自然と学びに向き合い始めます。親が勉強を教える必要はありません。

 わが子の読みの習熟に向けて親が手伝ってやれることについては、また機会があればお伝えしたいと思っています。随分長くなってしまいましたが、多少なりとも参考にしていただけたなら幸いです。

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