お金の教育が子どもの知性を育てる?

9月 12th, 2016

 ずいぶん前に出版された本ですが、今も文庫で読むことのできるユニークで有用な子育て本があります。その本のタイトルは、「子育てはお金の教育から」というものです。著者は、かつて“金儲けの神様”と言われた蓄財の大家、邱永漢というかたです。この本の内容は、子どもを優秀な人間に育てるうえでも大いに役立つところがあります。

「えっ、お金の教育が、どうして子どもを優秀に育てる効果をもつの?」と、疑問に思われたでしょうか。あるいは、「お金について何を教えれば子どもは立派な人間になれるの?」と、興味をもたれたでしょうか。

 たとえば、お金の使いかたにも、勉強にも共通してあてはまることとして、“自制心を求められる”ということがあります。小遣いを無駄遣いしないで有効に使ったり、少しずつ貯金をしたりするには誘惑に勝ち、自制の気持ちを働かせる必要があります。勉強については言わずもがなでしょう。「もっと遊んでいたい」という誘惑に勝ち、勉強に向かうことができて初めて学力は大輪の花を咲かせます。

 自制心が強い子どもほど学力が高いということに関しては、以前このブログでお伝えしたことがあります。かつてアメリカの学者が「マシュマロテスト」と呼ばれる実験をしました。4歳児に、「今すぐお菓子(マシュマロやクッキーなど)がほしいのなら一つあげる。でも、もし食べずに15分待ったなら、もう一つあげるよ」と伝えます(待つのをやめてお菓子を食べてもよいが、その場合はお菓子を一つしかもらえないことも伝えました)。そのときの子どもの反応と結果をすべて記録し、一人ひとりのその後の人生の歩みを調べるという大がかりな実験でした。

 多くの子どもは、「じゃ、15分待つ」と答えました。しかし、そこは何と言っても幼児のことです。15分待ち切れずに食べてしまった子どもが大半でした。しかしながら、なかにはちゃんと待ち続け、見事お菓子を二つもらった子どももいたのです。この実験の結果、待てた時間の長かった子どもほど学力優秀な人間に育ち、相対的に地位や収入が高いということがわかりました。この実験は満足遅延の能力を測定するものでしたが、同時に20160912a自制心が学力形成に大きな作用を果たすことを証明することになりました。 

 勉強を続けるには、自分自身の怠けたい、遊びたいという気持ちに打ち勝たなければなりません。そのためには、我慢してやり遂げたときの気持ちよさ、粘り強く考えて問題を解決したときの喜びを体験させることが必要です。それが勉強のよさを知り、勉強への志向性を高めることにつながります。勉強をすぐに投げ出してしまう子どもは、勉強のよさを知らないでいるから我慢や辛抱が利かないのです。自制心のある子どもは、我慢の後にある大きな喜びを知っているのですね。

 ここでお金の教育との関連性をもう少し掘り下げてみましょう。お金について子どもに何を教えるべきかというと、何でも欲しいものをすぐに買ってしまうような贅沢を戒め、小遣いはなるべく少額に留め、やりくりして有効に使う工夫を子どもに体験させることです。それによって節約する習慣を身につけさせ、お金のありがたみを知った人間に育てるのです。それが結果として、セルフコントロールのできる(自制心のある)人間に子どもを育てることになります。

 おたくでは、お子さんに小遣いをどのような方法でどれぐらいの額を与えておられますか?月決めですか? それともその都度必要に応じてですか? いずれにせよ、問題はその額や子どもの使いかたです。 総じて日本の親は、安易に高額の小遣いを与える傾向が強いと言われます。ほしいだけ小遣いをもらえる子どもは自制心を養うチャンスを失います。

 有名な芸能人の子どもが、大人になってから事件を起こし、人生を踏み外してしまう話がたびたびテレビなどで報道されています。こうした事件に至るプロセスにかなり共通しているのは、「子どものころからふんだんに小遣いを与えられ、その使い道に親が関わっていなかった」ということがあげられるでしょう。忙しくて子どもの面倒を見られないという罪悪感(?)の代償として、多額の小遣いを無条件に与えていたのではないでしょうか。その結果、お金のほんとうのありがたみや価値がわからないまま、お金の上手な活かしかたを学ばないまま大人になってしまうのは、その人にとって大変不幸なことです。

 教育現場で何十年も活躍されたかたの著書に、アメリカ大統領を出した有名な大富豪の家庭で実践された「お金の教育」が紹介されていました。その内容は、前述のような、お金に無頓着な子どもを甘やかす子育てとは対極をなすものでした。その家庭の母親のお金の教育について書かれた部分の一部をご紹介しましょう。

 (前略)彼女は、子どもたちが五歳になると、毎週10セントのこづかいをあたえました。子どもたちは、これで近所の菓子屋でアメを買ったり、クリスマスや誕生日におくるプレゼントを買う資金を、積み立てたりするようにしました。

 子どもたちが小学生になると、10セントではすぐになくなってしまうのです。それでも母親は、余分な金をあたえなかったのです。そこで、ジャックが10歳のころ、こづかい値上げの手紙を書いて父親に直訴しました。父親は、その手紙をみて妻と相談のうえ、値上げを認めてやったことがあります。あるいは、ボビーも10歳のころ、あまりにもこづかいがすくないので、新聞配達のアルバイトをやりました。20160912b2ところが、彼は、要領よく自分の家の運転手にたのんで、ロールスロイスに乗って配っていることがバレて、ただちにやめさせられました。

 こうして、彼女は、子どもたちにお金を節約して使うことを、幼いころからきびしく教えたのです。したがって、若いころのジャックなどは、むしろ普通の青年たちよりも服装などにはむとんちゃくな質素な青年だったのです。しかし、彼女が子どもの「お金の教育」にすぐれていたといわれるのは、たんにこういう節約を教えたからだけではないのです。

 彼女は、子どもたちに幼いころから、お金の責任と労働の尊さをきびしく教えました。そして、お金は自分自身の価値のある目標や公共の理想を実現するために、使うものであることを教えました。すなわち、お金は価値のある使いかたをすべきものであることを、たえずきびしく教えたのです。このことが、「お金の教育」にとって、もっともだいじな教育なのです。

 これを読むと、勉強にしても、ただ受験合格のためにするものだと子どもに思わせるのではなく、学ぶということの意義について子どもに考えさせることが重要なのだということを思い知らされます。

 さて、みなさんは今回の記事についてどう思われたでしょうか。お金に関する教育も、子どもを知的人間に育てる教育も根底は同じであり、本質は何であるかという視点を見失わないことが重要なのですね。子どもが欲望や我儘をコントロールし、より適正な行為を選択する能力を培えるよう導いていきたいものですね。

Posted in アドバイス, 子育てについて, 家庭での教育

おすすめの記事