読書は受験勉強の邪魔になるだけ?
9月 19th, 2016
このごろは朝夕の気温がだいぶ下がってきたようで、随分しのぎやすくなりました。山もそろそろ秋景色の様相を呈しつつあるのかもしれませんね。
秋と言えば読書ですが、みなさんのお子さんは本をどのぐらい読んでおられるでしょうか。近年は子どもの読書離れ(大人も?)がしきりに喧伝されています。かなり前の調査によるものですが、本を全く読まない子どもは、小学生で10数%、中学生で約50%、高校生で60%以上もいるそうです。今はもっとその傾向が進んでいるのでしょうか。ちょっと心配してしまいます。
驚くべきことに、1955年の学校読書調査によると、月に1冊も本を読まない高校生は、全体の4%弱だったそうです。読書離れがいかに進んでいるかを思い知らされるデータですね。
子どもは、なぜ学年が上がるにつれて本と無縁になるのでしょうか。その理由については、みなさんおおよそ想像がつくのではないかと思います。中学・高校生になると忙しくなります。友達との交流や部活、それ以上に勉学の負担が増し、勉強にかける時間が必要になります。さらには、見たいテレビ番組があったり、音楽鑑賞に趣味が向けられたり、インターネット関連にかける時間もあります。
ことの良し悪しを云々するよりも、子どものライフスタイルが大きく変わり、抗いがたい時代の流れがもたらした傾向だと見るべきかもしれません。パソコンやスマホなどは、昔の子どもにはありませんでした。しかし、今の子どもたちには手放すことのできないメディアです。読書時間が削られていくのは必然の成り行きかも知れません。
一方、時間が少ないなかでも読書に精力的に取り組む子どもも一定数います。このような子どもは何に惹かれて本を手にするのでしょうか。専門家の調査によると大きく3つの要素に分けられるそうです。
① 空想・知識…空想したり、夢を描いたりできるから。感動が味わえるから。物事を深く考えるきっかけになるから。いろいろな人も考えにふれられるから。新しい知識を増やすため。
② 暇・気分転換…友達と同じ話ができるから。ゲラゲラと笑えて楽しむことができるから。気分転換になるから。暇つぶしになるから。
③ 成績・賞賛…先生や父母にほめられるから。国語の成績が上がるから。
以上の3要素のうち、低学年児童は③の「成績・賞賛」が読書の動機づけに強い作用を果たします。つまり、親にほめられるとか、国語の成績が上がるなど、本を読んだ結果がわかり易い形で跳ね返ってくることが主要な動機づけになります。
子どもの年齢が上がると、それにつれて低学年期のような外的要因ではなく、空想の楽しさ、心の充足、エンターテインメントなど、子どもの内面に関わる要因が読書の動機づけに変わっていきます。「ほめられたい」「成績が上がるから」といった具体的な目的に動かされて読書をするのではなく、読み進めるプロセスのなかにも意義を見出していくようになるのは、子どもの成長の証しに他なりません。
小学校の中~高学年は、外的な要因による読書から、内面の充実に意義を見出す読書へと変わっていく段階にあります。弊社の教室に通っているお子さんは、ちょうどこの年齢にあたりますが、受験勉強でかなり忙しい生活を送っています。読書をどう位置づけるのが望ましいのでしょうか。空想の楽しみや感動を得る、新しいことを知る、ゲラゲラ笑える、暇つぶしなどといった意義に基づいて読書に勤しむのは時間の無駄なのでしょうか。それとも、読書は受験生活にプラスの作用をもたらしてくれるものなのでしょうか。
これについては、先ほどの子どもの読書の動機について調査された先生の著書に、次のような興味深い記述がありました。「小2から小5までの読解力・語彙力の伸びを最も確実に予測できる活動は、家庭での読書時間である」というのです。この見解は外国の学者によるもので、それを紹介したものでした。
この報告は、みなさんのお子さんの読書を考えるうえで重要な示唆を与えてくれると思います。右の資料を見てください。
これは、語彙の増加の状況を調査した有名な資料です(児童心理学者の阪本一郎氏による)。これによると、9歳~11歳が最も語彙の増加していく時期にあることがわかります。
この著しい語彙増加の推進力となるのは読書です。親との会話を軸にして、少しずつ語彙を増やしていた子どもが、小学校に入学後、正式に文字を学び始めて次第に本を読めるようになり、それによって新しい語彙を、書物から獲得するようになります。話し言葉による語彙獲得に比して、書き言葉による語彙獲得は圧倒的な数の違いをもたらします。語彙の爆発的な増加を可能にするのです。それが、子どもの内面の著しい変化を引き出すことになります。
こうしてみると、本を自分で読めるようになってからの数年間の読書は、子どもの成長にとって実に大きな役割を果たしていることがわかります。
はじめは親に喜ばれる、成績が上がるからという理由で読書をしていたのが、いつのまにか空想したり感動を味わったりするための読書、エンターテインメントとしての読書に移行していきます。しかしながら、そのことがむしろ子どもの読書を一層活性化し、内面の充実に寄与しているのです。目的意識など眼中にない、夢中になって読みふける読書をすることが、子どもを大きく成長させるのです。
以上からわかるのは、中学受験のための勉強をしている子どもであっても、4、5年生までのうちは大いに読書に勤しむべきなのです。それが語彙の発達、思考のレベルアップにつながり、すべての教科の学習の推進力となっていくのですから。ちなみに筆者は、6年生であっても夏休みまでは本の紹介を子どもにしていました。それは間違いではなかったと今でも確信しています。
先ほど、子どもの読書の動機づけ要因として、暇つぶしや気分転換というのがありましたが、そういった意味合いにおいても、受験生にとって一挙両得の恩恵がもたらされるのですから、読書は中学受験生にとってもよいことがたくさんあると言えるでしょう。
前述の読書心理学の先生は、「本を介して物語り合う世界のなかで、子どもは、人との関係や世界と自己との関係を創りだし、物語る方法を学んでいく」と、著書で述べておられました。こうした内面の成長を促す作用も、受験生にとって重要なものだと言えるでしょう。
さて、読書の秋は少しずつ本格化していきます。受験生だからと言って読書から卒業する必要はありません。時間を決め、その枠内で大いに読書を楽しんでいただきたいですね。そして時間が来たら、次の読書時間を楽しみにして、勉強に移りましょう。メリハリのある受験生活は、子どもの一層の成長を促すことでしょう。