「ご褒美」が子どものやる気に与える影響について
10月 31st, 2016
いくら言っても子どもが勉強しないとき、皆さんはどのように働きかけられているでしょうか。
ほめたり叱ったり、お子さんの性格やそのときの状況などで対応はそれぞれですが、ついやってしまいがちなのが「頑張ったら、○○買ってあげる」という方法。今回は、この「褒美を与えて頑張らせる」ことについて少し考えてみたいと思います。
褒美や報酬を与えることが、モチベーションにどのような影響を与えるのかという点に関して、デシ(E.L.Deci)という心理学者が行った有名な実験があります。
当時流行していた「ソーマキューブ」というパズルが好きな学生達を集めて、
➀「普段どおりパズルに取り組み続ける(報酬なし)」グループ
➁「パズルの完成ごとに報酬を支払う→途中からは報酬なし」グループ
の2つに分け、しばらくパズルに取り組ませた後、8分間の休憩中の行動を別室からこっそり観察、比較する・・・という実験です。さて、結果はどのようになったと思われますか?
休憩中はどのように過ごしてもよいとされていたにもかかわらず、➀の「パズルに取り組み続ける」グループの学生は、休憩時間になっても、大半の学生が夢中になってパズルに取り組み続けました。元からこのパズルが好きで、普段からやり続けていたものですから、自由な時間であっても取り組み続けるのは当然のことかもしれませんね。
これに対し、②の「一度報酬を与え、その後は報酬なし」のグループでは、報酬をもらえなくなってから休憩時間を迎えると、多くの学生がパズル以外のことをして過ごすようになったといいます。実験前には夢中になっていたはずのパズルを手にする学生は激減し、雑誌を読んだり他の娯楽で時間を費やしたりするようになりました。
この結果が示しているのは、もともと興味をもっていた活動に対して一度何らかの見返り(褒美や報酬)を与えてしまうと、その活動への根本的な意欲や関心を低下させてしまう、ということ。この実験は、当時の「報酬はモチベーションを高める」という常識を覆すものとして、大きな衝撃を与えたといわれています。
この実験結果は、勉強に向かう子どもの姿勢にも通じるものです。「ここの単元、ちょっと面白いな」「この前の授業で先生が面白そうなこと言ってたな」と感じているところに、「次のテストで80点以上取ったら、○○円あげるからね」という褒美を示したとしたら、子どもの気持ちはどう変化するでしょうか。
おそらく、それまで純粋に勉強に向かっていた興味・関心が、褒美をもらうことへの興味にすり替わり、勉強をすることが褒美をもらうための手段に変わるはずです。一時的に机に向かうとは思いますが、自主的に「勉強しよう」という意欲を低下させることになるのは、先程の実験結果が示しているとおりです。
加えて、「テストで上位20位までに入ったら、○○円あげる」「志望校に合格したら、何でも買ってあげる」などの褒美の与え方をすると、大抵の子どもはその目的までの最短ルートを探そうとするものです。
本来であれば、地道な毎日の努力によって確かな学力をつけてほしいと親は願います。上位20位に入ったり志望校に入学できたりすれば、あとはどうにでもなれと思うお母さんなどいるはずがありません。ところが、このような褒美が手に入るとわかれば、「当日のテストに出題されなくても、努力した分だけこの先の自分の力になる」とは考えず、「できるだけ少ない勉強でギリギリ80点を取るにはどうするか」を考える子の方が圧倒的に多くなります。なぜなら、勉強することの目的が、勉強そのものや志望校合格・入学などではなく、その結果から得られる金品をいかに効率よく手に入れるかにすり替わるからです。
ここまでは、安易に褒美を与えることがモチベーション低下を招くことについてご説明しました。・・・とはいえ、「わが子の現状を考えると、褒美を示してでも机に向かわせないことには始まらない」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。どうしてもその方法を選択される場合は、できるだけ悪影響が少なくなるよう、「与え方」に少し工夫をしてみてはいかがでしょうか。
買ってきたものを単にポンと渡したり、お金を渡して「これで買っておいで」と本人任せにしたりするのは×。これでは、テスト結果への対価として金品を与えているに過ぎません。金品の褒美や報酬には、高価なものであればあるほど高い依存性があります。いくら良い結果を出したとしても、むやみに金品を与えていると子どもは「次はもっと高額のものを・・・」と考えるようになり、勉強の目的が完全にすりかわってしまいます。
まず基本的な評価の姿勢として、結果だけ見て判断するのではなく、努力の過程を評価するようにしてください。普段の学習の様子を見守り、「今回の単元は難しい内容だったのに、毎日頑張ってたね」と、その努力に対してささやかなご褒美(高価なものでなくてOK)をあげる方が、先につながっていくはずです。
例えば「前に行きたがってたサッカーの観戦に、来週一緒に行こう」とか、「明日一緒にケーキ屋さんに行ってみようよ」などと、与える側の親が一緒になって動く姿勢を示すようにしてください。そうすれば、そこには単なる金品の受け渡しではなく、渡す親の気持ちも含まれることになります。一見、ものを与えるという点では同じようにも思えますが、この「親の気持ちがこもっている」という点が重要なのです。
小学生の学習意欲に関する調査結果によると、どの学年であっても「親の期待」に関する事項が上位を占めています。つまり、お母さん・お父さんが自分のことを考えてくれているという点を、子どもが感じられるということに大きな意味があるわけです。ですから、評価の仕方や褒美の渡し方にも、そこに親の気持ちを感じ取れるような工夫をしてみてください。それによって、ご褒美が子どものモチベーションを低下させるような危険性を低減させてくれるはずです。
理想としては、「学んで理解する(行為)→やりがいを得られる新たな課題をもらう(報酬)→また学んで理解する→・・・」というサイクルを築くことです。つまり「勉強のご褒美は、次の学習課題」ということですね。自学自習の学習姿勢を確立させている子ども達のほとんどは、この「もっと難しい問題を解いてみたい」という気持ちを胸の内に育んでいるものです。
できることなら、この「勉強のご褒美は勉強」の状態を目指したいところ。ただ、その前段階として、ご褒美を一つのきっかけにしたいのであれば、以上のような点を考えた上で工夫をされてみてはいかがでしょうか。
(butsuen)