広島県の公立6か年一貫校 受検と進学の状況

2月 27th, 2017

 公立一貫校への受検者が、弊社でも少しずつ増えています。それに応じて合格者、進学者も増加傾向にあります。そこで、今回は広島の公立6か年一貫校である、広島県立広島中学校、広島市立広島中等教育学校の特色や受検者数推移、今年の合格者、進学者などの話題を取り上げてみようと思います。

 公立の一貫校について興味はおありでも、どういう学校なのかをよくご存じないかたもおられるかも知れません。そこで、ごく初歩的なことも含めてお伝えしてみようと思います。

 公立の6か年一貫校は、大きく二つのタイプに分かれます。中学校だけでなく、高校からも入学者を募集する「併設型」と、高校からは募集せず中学校からの入学者を6年間通して教育する「中等教育学校」とに大別されます。広島県では、前者が「広島県立広島中学校・広島高等学校(東広島市高屋町)」、後者が「広島市立広島中等教育学校(広島市安佐北区三入東)」に該当します。

 それぞれの開校年度ですが、「県立広島」は平成16年4月、「市立広島中等教育」は平成26年4月に開校されました。後者は、もともとは併設型の公立一貫校として設立されていた、広島市立安佐北中学校・高等学校が衣替えし、中等教育学校として再出発したものです。

 県立広島は開校当初から多くの注目と期待を集めました。また、最初の卒業生(高校からの入学者)の大学への進学状況もよく、たちまち人気校としてのポジションを不動のものにしたことを筆者も記憶しています。現在、全国には多くの公立一貫校がありますが、同校はその嚆矢の一つと言える存在であり、また指折りの成功例として注目されました。

 同校は、広島県内の公立学校で唯一SGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)に国から指定を受けているように、グローバルリーダーの育成を掲げた教育に特色があります。そのための教育実践として、日本の伝統文化の理解・継承(世界に目を向けるうえでの重要な前提として)、ことばの教育(論理的な思考・表現力を磨き、確かなコミュニケーション力を携えた人間を育成する。中学で「ことば科」を設置)、グローバル社会で生きていくための英語力育成(英語によるディベートの実施、中学で全員英検3級以上をめざす、海外への修学旅行、海外の姉妹校への留学、海外研修など)が掲げられていますが、その成果も各方面から高く評価されています。大学への進学実績も優秀で、昨年度は、東大に3名、京大に5名の合格者が出ています。国立大学の推薦入学枠が拡大された今年度は、早速同校から東大・京大に推薦枠からの合格者があったようです。

 市立広島中等教育学校は今年で開校4年目ですが、中等教育学校への衣替えが決まった段階から、熱心な広報活動を展開されていました。こちらも「将来のグローバルリーダーの育成」を旗印に掲げておられます。同校の教育の特色としてアピールされているのは、「6か年完全一貫教育プログラム」、「立志(LISI)プロジェクト」、「徹底した少人数指導」などです。同校の前身である安佐北中学・高校時代から、すでに大学への合格実績は上昇基調にありましたが、今後のさらなる躍進が期待されています。

 両校への受検志願者(応募者)の推移を簡単な資料で見てみましょう。なお、公立の一貫校の入学者選抜は、「適性検査」と名づけられています。したがって、この検査を受けることを「受検」と呼んでいます。

 

 両校とも、ここ4年間志願者が増え続けています。いち早く開校した県立広島は、JR沿線にあり、寮を備えて県全域から生徒を募集していることから、修道や広島女学院などの私学人気校と並んで県内で最も多くの受検生を集めています。いっぽうの市立広島中等教育は、広島市安佐北区の国道から分かれた団地の中にあり、交通の便が決してよいとは言えません。それでも120名の定員に対して、一昨年、昨年、今年と3年続けて500名オーバーの志願者を集めています。

 次に、弊社会員の県立広島と広島中等教育への受検状況、合格状況、進学状況を過去4年間について振り返ってみようと思います(市立広島中等教育は、4年前が初年度募集)。

 ご覧のように、両校とも弊社からの合格者数が年々増加する傾向を示しています。女子のほうに偏りがちであった受験者数、合格者数、進学者数も、男子の増加でバランスが整いつつあります。

 難易度について言うと、県立広島のほうが設立年度も古く、人気も定着していることもあり、合格を得るのは難しい状況にあります。単純に160名の募集定員に900名余りが受験するわけですから、倍率の高さは驚くべきものがあります。公立一貫校は、合格発表時には定数通りに合格者を出されますから、単純計算では私立の難関校以上の倍率ということになります。無論、合格者全員が入学手続きをするわけではありませんので、一定数の補欠繰上り合格者が出ます。しかし、それでも相当な倍率であり、この学校への入学は相当に困難だと言えるでしょう(弊社からの合格者で、入学を辞退した受検生のほとんどは、広島大学附属、広島学院、修道、ノートルダム清心に進学しています)。

 なお、両校とも義務教育期間内での生徒募集となるため、教科の学力試験による選抜を行っていません。資料の分析や論述などで受検生をふるいにかけています(詳細は、両校のHPにてお確かめください)。したがって、塾での学力テストの成績と入試結果との関連性は、国立・私立中学校の入試ほど高くありません。とは言え、学力試験で成績のよいお子さんの合格率が高いのは間違いありません。特に県立広島については、学力試験でもかなり成績のよいお子さんでないと、合格を得るのは難しい状態です。

 受検者の居住地域は、以前このブログで簡単にお伝えしたとおりです。県立広島は、地元の東広島市域の受検生が全体の半数前後を占めていますが、広島市の安芸区や東区など、JRの電車で通学できる地域からもかなりの数のお子さんが受検しています。そして、合格した場合にも進学校として実際に選んでいます。今年については、男子合格者19名のうち、10名が東広島校の受検生で、9名が他地区からの受検生でした。女子は、合格者20名のうち10名が東広島校の受検生で、10名が他地区からの受検生でした。なお、弊社からの志願状況ですが、県立広島が男女合わせて約100名、広島中等教育が50名余りでした。

 以上のように、公立の一貫校はもはや中学受験の対象校として確固たるポジションを得ています。弊社は基本的に広島の伝統的な私立一貫校への進学を基軸に置いた指導を行っていますが、公立一貫校への進学を希望されるお子さんの増加に伴い、予め公立一貫校への受検希望者を確かめたうえで、基礎学力の育成指導を終えた段階(6年生の8月末~9月頃)から公立一貫校への進学対策指導を行っています。「対策期間が短いのではないか」と思われたでしょうか。心配無用です。弊社では、社をあげて適性検査の内容を十分に研究しています。適性検査の過去問をもとに対策指導をしただけでは、確実な解答を引き出す力は養えません。適性検査への対応力のベースになるのは、何と言っても「確かな教科の基礎学力」と「思考力」です。これらを養うほうが遥かに多くの時間が必要ですし、また重要なことだと弊社は認識しています。

 今のところ、公立一貫校のみの指導コースは設けておりません。これは、需要の数の問題もありますが、それ以上に言えるのは、弊社が「入るための指導」のみを目的とするのではなく、「将来を見据えた指導」を眼目においているからです。中学校進学後に学ぶ内容は、進度の差こそあれ、どの学校においても同じです。そこでの学習を快適に進めて成果をあげるには、確かな基礎学力、揺るぎない学習習慣、自ら学ぶ自律的姿勢、計画的・戦略的に学ぶ姿勢、様々な観点から解決の突破口を引き出す思考力が求められます。それらの育成指導こそ、進学塾に課せられた使命なのだと弊社は考えています。

 また、公立一貫校合格のみに的を絞った指導では、大切な学力基盤を築くための指導が疎かになってしまいます。「短期間に軽い対策のみで受検したほうが、無駄なお金がかからなくて済む」と考えるかたもおありかも知れません。しかし、そういう考えに基づく受検では、そもそも合格自体が難しくなってしまうのは前述した内容でお分かりいただけることでしょう。検査の課題に答えるためには、一定水準以上の教科基礎学力が必要であり、それを養うことは中学進学後の学力伸長にも欠かせないことではないでしょうか。

 「わが子によりよい教育環境を」とお考えになる保護者の方々にとって、今や公立一貫校も立派な選択肢の一つになっています。国立、公立、私立を問わず、それぞれの学校の教育内容についてよく研究し、お子さんにふさわしい進路選択が実現するようサポートしてあげてください。

 なお、今回は広島の公立一貫校入試の様子や、弊社からの受検や進学状況についてお伝えしました。機会があれば、全国的な公立一貫校の動きや受検状況などについてもお伝えしてみようと思います。

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