高学歴の集団内で差を生み出すファクター
4月 17th, 2017
今回は、昨年の12月に新聞誌面で目にした記事をもとに書いてみようと思います。その記事は、子育てのタイプと子どもの学歴や年収との相関関係についての調査研究の結果が報告されたものでした。中学受験生のご家庭に大いに参考にしていただける点があるように思い、今回はその研究結果をもとに、子育てや受験勉強のありかたをともに考えてみようと思ったしだいです。
この新聞記事は、神戸大学経済経営研究所の特任教授西村和夫氏と、同志社大学経済学部教授の八木匡氏の研究報告を取り上げたものでした。調査対象は、インターネットの調査会社に登録している23歳~69歳の男女で、その対象者リストから無作為に抽出した方々に、子ども時代に親から受けた子育ての特徴について尋ね、その回答結果を分析したものでした(回答者は1万人に及びます)。27の質問項目に対する回答から5つの子育てタイプのいずれかに振り分け、どのタイプの子育てを受けた人物が高学歴・高収入を得る傾向が強いかが調べられました。
まず5つの子育てタイプとはどのようなものでしょうか。それをご紹介しておきましょう(以下は、新聞に記載されたままを写したものです)。
この5つの子育てタイプのうち、最も平均学力が高く高収入を得ていたのが、1の「支援型」だったそうです。
小学生までの子どもは、親が見守ってくれているか、やったことを承認してほめてくれるかどうかで、ものごとに取り組むうえでの意欲や志向性に大きな違いが生じます。何でも自分自身でやり遂げようとする姿勢を尊重し、子どもが自分でやったときには大いにほめる。やろうとしないとき、親は癇癪を起さず粘り強くやってみるよう促す。そういうことの辛抱強い繰り返しが、子どもに自立的な行動姿勢を植えつけます。それはある意味で、親が授けた一生モノの財産と言えるほど貴重なものです。1の「支援型」は、そういった子育てに当てはまるでしょう。
いっぽう、2~5のような子育てで育った人間は、自分がとるべき態度や行動がどのようなものかを自覚し、実行に移すことができません。あるいは自覚していたとしても、それを実行に移そうとしません。学業面について言うと、厳しく命令したり罰を与えたり、無理やりやらせたりする方法(どちらかというと2に近いでしょうか)や、褒美でその気にさせる方法(敢えて当てはめるなら3になるでしょうか)などでも受験の結果を得ることは可能だと思います。
しかしながら、先々の大成までも見通すと大きな違いが生じていきます。自分自身の考えをもち、どうするのが望ましいかを考えて行動するようしつけられて育った人間は、高いレベルの知力を巡る競争に強く、より優れた能力を発揮するのです。なぜかというと、高い次元での知的能力が問われる状態になればなるほど、どういう勉強で学力を獲得したかがものを言うようになるからです。東京大学や京都大学などの一流大学で学んだ人は、ただ学力が高いだけでなく、自立志向型の勉強を通して学力を高めているため、学んで得た知識の活用力が高く、結果として実社会でも有能性を発揮でき、収入も一般的な大学を出た人よりもはるかに高くなる傾向が強いと言われています。
イギリスのノンフィクション作家イアン・レズリー氏は、著書で次のようなことを述べておられます。
最近では、成績の良し悪しを分ける原因について研究する心理学者たちは、個性や性格といった要素を意味する「非認知的特質」に注目している。こうした研究によって、学習に対する「姿勢」と日常的な習慣が、従来考えられていたより大きく成績を左右することが確認されている。この傾向は、高等教育に進み、母集団に含まれる個々人の知的能力の差が狭まったときに顕著に表れる。イギリスでエリート養成校の学生を対象に長期間にわたる研究を行ったところ、試験の結果を左右する要因として、性格的な特質が知能より四倍も大きな影響を及ぼしていることが明らかになったのである。
では、どのような性格的特質が重要なのだろうか。もっとも注目されているのは、「勤勉さ」だ。また、これと関連する「粘り強さ」や「自制心」、それから心理学者のアンジェラ・ダックワースが指摘する「やりぬく力」――失敗に対処し、挫折を乗り越え、長期的な目標に意識を集中する能力――も重要だ。さらに最近では、学業成績を左右する性格的特質として、これらと同じくらい影響力のあるものが存在する可能性が濃厚になってきている。
どうでしょう。高い次元での競争になると、学びの姿勢や日常的な習慣がものを言うようになるということなのですね。また、その人の性格的な側面、たとえば「勤勉さ」、「粘り強さ」、「自制心」、「やり抜く力」(これらには、親の子育てが深く関与していることでしょう)などが、結局は高い次元での学びの成果を保障してくれるのでしょう。同じ学力を得るのでも、テストのためにしかたなくやる勉強、大人に依存した勉強では一定以上の高いレベルの学力には到達しませんし、学んで得た知識を活用する能力も育ちません。
ところで、引用文の最後に書かれていた「これらと同じくらい影響力のあるもの」とは何でしょうか。それは「知的好奇心」です。前出のイアン・レズリー氏によると、この見解を発表したのはロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの講師ソフィー・フォン・シュトゥム氏で、彼女は学業成績の決定要因に関する過去の研究を再検討するため、併せて5万人の学生を対象とした200件の研究データを収集し、その結果、
学業的な成功の裏では知的好奇心――「労力を伴う認知的活動の機会を求め、積極的に携わり、楽しみ、突き詰める」傾向――が大きな役割を果たしている
という結論を導いたというのです。
新たな知識を獲得したり、新たな考えを吸収したりするうえで、知的好奇心を強くもっているかどうかは大きな差をもたらすことでしょう。この研究結果を発表したフォン・シュトゥム氏と共同研究者は、好奇心が成績に対して勤勉さと同じくらい大きな影響を及ぼしていると指摘しています。また、勤勉さと好奇心という性格的特質と合わせると、知能と同程度の価値があるということがわかったとも報告しています。
以上のような研究結果は、「支援型」の子育ての有効性と大いに関連していると思いませんか? 子どもが何事も自分からやってみようとする姿勢を尊重し、温かく見守りサポートする。このような子育ては、わが子を将来高い知性と教養を携え、よい人生を歩む人間にするうえで最も有効な方法の一つだと言えそうですね。