受験生よりも苦労の多いおかあさんのために

5月 15th, 2017

 中学受験に長らく関わってきた筆者ですが、指導の現場に立っていた若い頃には、大概6年生の男子のクラスを担当していました。そのせいか、やんちゃで口答えが多く、親の期待通りにがんばってくれないわが子に苛立つ保護者の様子を随分たくさん拝見したものです。

 これは、受験生がしつけの終わっていない年齢の小学生であることから必然的に生じることであり、見守り応援しておられる保護者、とりわけおかあさんがたの苦労は、並大抵のものではありません。おかあさんがたには、「どうにかしてがんばってほしい」「何とか希望の中学校に受からせてやりたい」という強い願望があります。しかし、当の受験生である子どもの年齢が、受験を理解しベストな学習生活を送るには若すぎるのです。

「このまま今のような状態では、とても志望校合格は覚束ない」――こんなふうに、大人は先を読んで考えます。わが子の無自覚で無頓着な勉強ぶりは、やがて心配を通り越してストレスと化し、さらには毎日のように叱っては親子喧嘩といった状態に至ることさえあります。そうした話を多数聞きましたし、現実に指導を担当していたお子さんの家庭でも、同様の問題がたくさんあったことは想像に難くありません。

 無論、数えきれないほどたくさんの面談も行いました。おかあさんがたと面談をすると、家庭での学習生活や親子関係の状況がかなり詳しくわかります。若い頃には、塾で掌握していたつもりの子どもの実態が、おかあさんとの面談で全く現実と異なっていることを知って驚かされるとともに、自分の見立てや認識の甘さを思い知らされることがたびたびありました。面談は家庭との連携体制を築く貴重な機会であり、勉強の場であったとつくづく思います。

 おかあさんと直接お会いし、お子さんの学習についていろいろとお話しすると、それをきっかけにして何かあったときに双方とも連絡をとり易くなります。面談を終えてしばらく経った頃、家庭でお子さんと大げんかになり、困ったおかあさんからサポートを依頼する電話を受けたことを思い出します。「先生の言うことなら何でも聞きます。うちでは先生が絶対なんです。今息子を電話口に出させますから、先生叱ってやってください!」と依頼され、どう言ったものか困ったことを思い出します。あの頃、おかあさんがたの心の内にある苦しみをどれだけ理解していたでしょうか。今更ながら未熟だった自分を申し訳なく思わずにはいられません。

 ところで、弊社には「おかあさんの勉強会」という呼称の催しがあります。この催しは、筆者が現場での指導から退いたあと、「受験生を抱えているおかあさんがたを元気づけるよい方法はないものか」と、いろいろ考えた挙句具体化したものです。一対一で何でも話し合える催しなら「面談」があります。塾の方針や指導の流れを説明する催しは「保護者説明会」などいろいろあります。

 個別に話し合える場、一方向で多数の方々に情報を提供する場、この二つの形式の催しは弊社だけでなく、どの学習塾にもあります。これらの形式では満たされないニーズに応えられる催しはないものか、おかあさんがたの毎日の子育てに元気と指針を提供できる方法はないものかと、いろいろ思案しました。その結果、受験生をもつおかあさん同士が語り合える、双方向性に基づいた催しを思いつきました。そして、この形式で世界中に広まっているのが「ワークショップ」であることを知り、ワークショップに関する情報を集めたり、自ら参加して体験したりし(様々な人生の悩みを抱えた人たちが参加しておられました)、最終的には自らワークショップのファシリテーターの資格(公的資格ではありません)を取って、この催しを企画するに至った次第です。

 今年度の「おかあさんの勉強会」は、前期・後期各1回実施する予定です。前期は、いずれも6月に実施を予定しています。「週3日通学コース」の会員家庭向けには各校舎にて、また「土曜コース」の会員家庭向けには三篠校にて開催いたします。以下は、勉強会のおおよその概要と実施日程です。

★2017年度 前期 「おかあさんの勉強会」概要

テーマ/「愛ある声かけが子どもを動かす!」(副題:子どもの奮起を促す言葉の研究)
対象/4・5年部会員の保護者
主内容/1.あなたはどんな“声かけ”をしていますか? 2.あなたの“声かけ”のパターンをチェックしてみましょう 3.子どもはおかあさんの声かけをどう思っている? 4.反省と修正を促す声かけ、自信とやる気を吹き込む声かけ
進行方法/司会者の進行と説明に基づき、グループごとにテーマに沿った話し合いをします。緊張を要する「発表」などはありません。楽しい話し合いを通じて、おかあさんがたに受験生活の充実に向けた気づきを提供できるよう趣向を凝らした催しです。
参加方法
「週3日コース」会員…校舎でチラシが配布されたら、電話予約のうえ、申込書を前日までに校舎窓口にご提出ください。
「土曜コース」会員…チラシが配布されたら、本部事務局に電話予約のうえ、申込書を当日会場の窓口にご提出ください。

 最後に、この催しに込めたおかあさんがたへの応援の気持ちについて少し書かせていただこうと思います。

 冒頭でお伝えしたように、中学受験はしつけの終わっていない段階にある小学生の受験です。受験生活を始めたばかりの4、5年生は、受験とその後に控える中学校生活とを結びつけて考えられるだけの人生経験をもちあわせていません。必然、勉強ぶりはおかあさんがたから見れば能天気で無自覚で頼りなく見えるものです。

 しかし、この段階こそ、親がわが子に深く関われる最後のチャンスなのです。中学生になると思春期が訪れ、親子間の心理的な距離は今よりもずっと離れていきます。言えば口答えをするけれども、親に全面的に頼って暮らしている今のうちにこそ、毎日の生活を通して人間として身につけておくべきことを教えておかなければなりません。無論、受験勉強にどう取り組むかも、決して子育てと切り離して考えるべきではありません。

 あからさまな例で恐縮ですが、たとえばおかあさんが「受験勉強が何より優先されるべき。生活上の面倒はすべて自分が見て、とにかく勉強だけに専念させよう」と思い、それを実行したとしたらどうなるでしょう? ひょっとしたら、この作戦が功を奏してお子さんは志望校の一つに受かるかもしれません。しかし、中学校に進学したなら、お子さんはもはやおかあさんの手を借りて問題を乗り越えることなどできません。生活面の自立も、勉強の自立もままならないお子さんには、乗り越えるに難渋する様々な問題が次々に立ちはだかることでしょう。

 よく言われることですが、苦労して手に入れたものほど価値があるものです。自分で算段して学ぶことを子どもに教えるにあたっては、当の受験生よりも親のほうに多くの負担が伴います。手っ取り早い方法を採りたい気持ちに打ち勝ち、辛抱強くわが子の自立に向けた応援をしていくには、同じ条件でがんばっておられる方々と交流するに限ります。この勉強会で、同じ立場にあるおかあさん同士が苦しみを分かち合い、互いに元気や勇気を吹き込むことができれば、随分違ってくるのではないでしょうか。

 「おかあさんの勉強会」にぜひ参加してみてください。きっと何かが変わると思います。長いようで短い受験生活。悔いの残らぬものにしてくださいね。

Posted in 中学受験, 家庭学習研究社の特徴, 行事のお知らせ

おすすめの記事