中学受験が子どもにもたらす価値とは!?

6月 5th, 2017

 今日は6月5日(月)です。いよいよ今日から各校舎で夏の講座の申込受付を開始します。そこで、今回は弊社の夏休み講座に参加を検討しておられる保護者に、「家庭学習研究社は、どのような考えに基づいて受験指導を行っているか」についてお伝えしようと思います。

 いきなりで恐縮ですが、おとうさんおかあさんがわが子を弊社の校舎に通わせるのは何のためでしょうか。そんな質問をすると、おそらく大半のかたが怪訝な顔をされるでしょう。弊社は中学受験塾ですから、「志望校合格」を期待されてのことに決まっています。

 ですが、私たちはそのことを十分に踏まえたうえで、おとうさんやおかあさんと共有したい「受験観」というべきものがあります。それは、中学受験を通じて子どもたちが得る収穫のうち、いちばん価値のあるものは必ずしも「志望校合格」ではないということです。私たちは、「合格」に一層の輝きを与えるものが他にあり、それを得て「合格」してこそ、受験に真の意義が生まれるのだと考えています。

 では、合格に一層の輝きを与えるものとは何でしょう。それは簡単な言葉で一つにまとめることもできますが、なるべく具体的にわかり易く保護者にお伝えしたいため、いくつかの要素に分けてこれからご説明したいと思います。

 中学受験の準備期間は平均して2年間ないし3年間です。弊社では、4年生から始めるお子さんが最も多く、その次が5年生からのお子さんです。年齢にして9歳もしくは10歳。それは、人間としての枠組みが定まっていく時期に受験生活が営まれるのだということを意味するでしょう。

 毎日の生活において、受験勉強の時間をどのように設定するか、どのような取り組みをするか。長い受験生活ですから、これらが子どもの成長に及ぼす影響は少なくありません。学習塾が連夜遅くまで教室で勉強をさせる。家では親がついて勉強をフォローしたり教えたりする。それらは合格を得ることには貢献するかも知れませんが、子どもの自律に向けた歩みにとって大きなマイナスです。

 弊社は受験までの期間を見通し、小学校中~高学年児童に無理のない範囲で「計画に基づいた学習習慣」、「自分で段取りをつけて学ぶ姿勢」が身につくよう指導しています。そのプロセスはまどろっこしいものですが、保護者の理解と協力を得て、少しずつ子どもの成長・変化を促していきます。

 こうして身につけたものの価値は、中学進学後の学びの人生ではっきりとご理解いただけることでしょう。学びに強い意欲や行動力をもった集団内で、ハイレベルな学習に取り組むとき、自己管理に基づく自律性の高い学びの姿勢を携えていることが大きくものを言うのです。

 中学受験というと、難問に数多く取り組んだり、おびただしい数や量の知識を詰め込んだりする様子を想像する人がたくさんいます。しかし、こういう勉強は子どものためにはなりません。

 単元の類似問題にたくさん取り組み、パターンを覚えて解を得られるよう訓練する方法は、テストでは有利に働きます。また、暗記で蓄えた知識が得点増強につながるという側面も否定できません。そのため、大学入試までこのような受験対策が行われています。しかしながら、本物の知性を高いレベルで発揮すべき世界においては、物量主義や暗記主義の勉強は全く威力を失ってしまいます。知的基盤が弱いからです。また、労力や時間を空費する勉強は、子どもを勉強好きにはしてくれないし、頭脳の伸びしろを摘み取ってしまいかねません。

 子どもの頭脳が柔軟なうちに、もっと豊かな伸びしろの形成に寄与する勉強を経験すべきです。学んだ知識や考えかたを理解し、それらをもとに様々な考察を経て課題の解を得る。このような学習は、子どもの知的好奇心を一層高いものにし、いつの間に知識や思考をより高いレベルに押し上げてくれます。このほうが知的基盤の強化につながりますし、合理性においても優れているのは疑いのないことです。

 このような学習で中学入試の難関校に合格すべきではないでしょうか。また、このような学習こそ将来高度な知的能力が問われる世界に参入するための、唯一無二の勉強法と言っても過言ではありません。

 勉強をするとき、「どこまでわかり、どこからがわかっていないか」が明確であるかどうかは、成果に大きく影響します。自分の状態を客観的に掌握できているからです。このような心の働きは、心理学においては“メタ認知”と呼ばれています。

 中学受験対策の勉強においても、がむしゃらに勉強するだけの受験生よりも、メタ認知的な思考のできる受験生のほうが勉強を効率的にやり遂げることができます。

 メタ認知的な思考や取り組みは、中学・高校進学後に身につけるのではなく、中学受験対策の学習を通じて身につけておきたいものです。なぜなら、人間に染みついた癖や傾向は、年齢が上がるほど修正しにくいからです。中学や高校に進むと勉強は難しくなり、学習の負担は増加します。この段階で、一から自分の勉強の取り組み方法を変えるには大変な苦労が伴います。いっぽう、中学進学までにメタ認知的な思考や取り組みができていると、成果が得やすいし、先々の余分な苦労が無用のものになります。

 中学受験の勉強は、毎日の継続的取り組みや、テストでの手応えやできばえ、成績データなどを通じて、メタ認知的な思考や取り組みを磨ける格好の場になります。受験までのプロセスを活かし、「絶えず自己の現状を見つめながら修正していく姿勢」を培えば、以後の学習活動に多大な貢献をもたらしてくれるに相違ありません。

 子どもに目標をもたせ、達成に向けて精一杯チャレンジさせる。それが成長途上の子どもにとってこれ以上ない自己鍛錬の場になります。

 しかしながら、少子化が進行し、核家族が家庭の標準形態となった今日においては、どうしても子どもの様子を見守るだけではおさまらず、親が手を貸したり口出しをしたりしがちです。たとえば、野球やサッカーのジュニアチームなどにおいても、監督やコーチに任せることができず、親が様々な形で介入するという話をよく耳にします。筆者の趣味の一つであるテニスにおいても同じで、ジュニア育成のコーチが雑誌のコラムで野球やサッカーと同様の残念な実態について書いておられました。

 背景にあるのは親だからこその愛情と期待です。しかし、それが却って子どもの成長の妨げになることもあります。中学受験においても、指導に当たる学習塾にとって保護者の理解と適切な協力は欠かせません。ご家庭と学習塾が同じ方向を向き、子どもの成長の場となる受験生活を実現する必要があります。それでこそ、子どもにとってかけがえのない成長体験になるのですから。

 保護者の方々には、弊社の方針をよくご理解いただき、「親は何をすればよいのか」「家庭の親の役割とは何か」を踏まえ、子どもたちの紆余曲折のもどかしいプロセスを忍耐強く温かく応援していただきたく存じます。そうすれば、中学受験もスポーツと同様、子どもにとって目標達成に向けた努力でかけがえのない成長体験をすることができることでしょう。わが子を優れた頭脳の持ち主にできるまたとないチャンスになるのです。

 お仕着せの勉強でもなく、時間や労力を頼みにする勉強でもなく、自分で自分の力を伸ばしていく勉強で受験に臨む。それが実現したなら、受験の結果に関わらず子どもの人生は前途洋洋です。なにしろ、状況に対してつねに主体的に関わり、自分で解決法を見出し、自らの努力で這い上がっていくすべを身につけているのですから。

 20年ほど前のことです。教育界に身を投じたイェール大学出身の優秀な若者が、とてつもない実験的な教育を実践しました。「私の学校に通ったなら、学力不振からさよならし、大学進学をめざせる優秀者に変身させてみせるよ」と、貧民層の家庭の親子に働きかけました。集まったのは、全員が黒人かヒスパニックの家庭の子どもたちでした。そして、彼はみごとに言葉通りの結果を得て見せました。八年生(中2)の全市統一学力テストにおいて、ニューヨーク市で5番目の優秀な成績をあげたのです。貧困地区の学校では前例のないほどの偉業でした。

 ところが……。その後に思いもしないどんでん返しが待っていました。9割もの生徒が一流の高校に進学し、大学にも進学したのですが、大学を無事卒業したのは僅か20%余りの生徒に過ぎませんでした。この学校を終えて高校、大学へとそれぞれの進路がばらばらになると、全員が一致団結してがんばっていたころの意気込みや意欲が次第に失われてしまったのです。いったいどういうことなのでしょうか。

 実際のところ、この青年のつくった学校での勉強は強い管理のもとで行われ、宿題をやり残すと全部提出するまでは生徒の娯楽行事にも参加が禁じられました。成功体験の喜びを味わった生徒たちはそれでもよくがんばりました。その結果、ほとんど全員が落ちこぼれることなく最後までがんばり通しました。しかしながらそのいっぽう、生徒一人ひとりにとっての「勉強とは何か」「なぜ学ぶのか」というアイデンティティのようなものが欠けたままだったのです。

 一人ひとりが自らの進路を定めて学ぶ年齢段階に至ったとき、自分で目標設定をしたり、軌道修正したり、粘り強く努力を継続したりする姿勢や能力が問われるようになります。大人に引っ張られて勉強した子どもは、学力を伸ばすことはできても、こうした状況に対応するための力が不足しているのでしょう。

 以前にもお伝えしましたが、高い目標の達成に向けた競争においては、「自制心」「粘り強さ」「計画性」「やり遂げる意志」など、負荷のかかる状態を乗り越える力がものを言います。この力を養う場こそ家庭であり、また、子ども自身の学びを尊重する教育環境であろうと思います。

 家庭学習研究社は、保護者の方々とこうした知見を共有し、高い次元の学びを自らコントロールしていける人間、そして、目標達成に向けて真摯に取り組む姿勢をもった子どもの育成に向けてがんばってまいります。ご理解ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

Posted in 中学受験, 子育てについて, 家庭での教育

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