子どもを変えるにはどうしたらいい?

6月 11th, 2018

 今回の話題は、主として4・5年生のお子さんをおもちの保護者、特におかあさんに多少なりとも参考にしていただければと思って取り上げました。

 正直申し上げて、おかあさんがたの多くはわが子の勉強ぶりを不満に思っておられると思います。でも、子どもは塾に通って勉強する理由をわかっていないわけではありません。無論、受験の意味を大人のレベルほどにはわかっていませんが、勉強して学力をつけ、入学試験で受からないといけないということぐらいはわかっています。また、「受かりたい」という願望ももっています。

 「それなら、もう少しましな勉強ができそうなもの。なんでこんなに中途半端な勉強しかできないの?」と嘆いているおかあさんはおられませんか? 理由は明白。この年齢の子どもは、親にすればいささか楽観的で無頓着に過ぎ、「今のままで入試合格にめどが立つのか」「自分の勉強はこれでいいのか」などについて、真剣に考えるほど内面が成長していないからです。納得していただけないかもしれませんが、多くの4・5年生の子どもの現実は、そもそもそういうものなのです。無論、この状態をいかにして早めに抜け出すかが、入試での結果を手繰り寄せるうえでとても重要なことです。

 4、5年生家庭の保護者とお話しすると、大概わが子の勉強ぶりに似たような不満を口にされます。「やるべきことを最後までできない」「悪い成績を取っても、悔しさがなかなか行動につながらない」などの不満は、まだやろうという気があるだけましなほうで、なかには「学習の計画が全然守れていない」「悪い成績をとってもケロッとしている」などと、ため息をついているかたもおありのようです。

 こんな状態のご家庭では、どんな対応をされているでしょうか。おそらく、親の期待はお子さんに伝えておられると思います。しかし、まだ親を満足させるだけの行動力や自制心が育っていないのでしょう。では、どうしたらよいでしょうか。子どもを変えようとするのではなく、おかあさんからわが子への対応を変えることが、いちばん効果があると思います。どうすればよいか、これから一緒に考えてみましょう。

 これは「たとえば」の話です。前から勉強の甘さ、実行力のなさを懸念していたところへ、かつてないほど悪いテスト成績をもらってわが子が塾から帰ってきました。次の3つの対応で得られる効果、マイナス効果をできるだけ突っ込んで考えてみてください。

 今からお伝えすることはややアバウトで乱暴かもしれませんし、なかには当てはまらないお子さん、ご家庭もあるかもしれません。言わんとすることを斟酌いただき、参考にできる点を生かしていただければ幸いです。

 まずは①について。こういう対応をされるご家庭の場合、そもそも以前から成績を見ては厳しく叱ったり、感情的になって怒鳴ったりされていた可能性があります。また、わが子の成績を見るまでもなく、初めからわが子の勉強を厳しく管理されている場合もあると思います。それも含めて考えてみましょう。

 まずは効果について。①のように親が振る舞うと、そこそこの成績は得られるでしょう。親がこのやりかたを入試までやり通せれば(お子さんが最後まで何とかついてこれたなら)、志望校の一つに受かるかもしれません。しかしながら、こういう子どもがトップランクの成績をあげたり、中学への進学後に学力を飛躍させたりする可能性は極めて低いと言わざるを得ません。理由は申し上げるまでもないと思います。常に受け身の勉強を強いられ、自ら試行錯誤する経験をしていない子どもは、自立勉強の達成に向けた成長ができません。自己管理・自己修正の能力が育たないため、将来社会人になってからも苦労することが予想されます。何より心配なのは、表向きは親の言うとおりに振る舞っていても、常に親への不信感や反発心を抱えた人間になるおそれを感じます(良好な親子関係は生涯の宝です)。

 ②はどうでしょう。このやりかたなら、子どももある程度親の対応を受け入れてがんばる可能性があります。むしろ歓迎し、高成績者のリストの常連になれるかもしれません。子どもの性格次第の面もありますが、親子の信頼関係がしっかりと築けたうえでこの勉強法に至った家庭では、最難関校入試での合格も果たせるかもしれません。ですが、①と同様に自分で考えて工夫しながら勉強してきた子ども、自らの試行錯誤を通して入試合格を得た子どもと比べ、創造性や逞しさの点で課題を残しているように感じます。親の助言を受け入れ、子どもが実行する。そのこと自体に問題はないのですが、過保護のもたらす欠点がやがて仇になる可能性も否定できません。子どもの将来の大成を期待するなら、この方法もやや問題があるように思います。

 最後の③はどうでしょうか。「今回、成績がすごいことになってしまったけど、どうしてこうなったと思う?」「これから、どういう勉強をしたらよいかな?」などと子ども自身に考えさせるのは、忙しい親にしてみればじれったくてもどかしく、なかなか事態の改善に至らないように思えるかもしれません。また、実際のところ、①や②の方法と比べて成果が表れるまでにずいぶん時間がかかるのは否めません。ですから、現実にこのように振る舞っているおかあさんはあまりおられないかもしれませんね。

 しかしながら、筆者はこれがベストの対応だと思っています。また、そもそも弊社の学習指導は「受験勉強を通した子どもの自立」を念頭に置いていますから、この方針に合致する親の対処法は③以外にはありません。弊社の授業においては、授業の受けかた、ノートのとりかたかた、家庭勉強のやりかたかたなどの基本的なことを繰り返しお子さんにお伝えしています。なかなかその通りにはできなくても、徐々にお子さんがたが成長していくための下地は築かれているのです。この流れに合致したおかあさんの対応として、「どうしたら、もっとよい成績がとれたかしら」とお子さんに考えさせる方法はとても望ましいものです。「復習していなかった」とお子さんが答えたなら、「復習の仕方はわかっている?」と尋ねたり、「予定通りにやってたかな?」と問いかけ、少しずつ問題の核心に近づいていけばよいのではないでしょうか。

 もどかしくても、感情的になって叱ったり厳しく命令したりせず、事細かに助言したりせず、子ども自身に問題の在り処に気づかせ、対処法を考えさせるのです。①や②の対処法は、延々子どもを同じ次元に留まらせることになりがちなのに対し、③は子ども自身の少しずつの進歩を引き出します。やがて子どもがある段階まで成長したとき、すばらしい躍進が予想できるのはこの方法しかありません。「真に価値のあるものは、もどかしく長いプロセスから生まれる」「本物は、なかなかそのよさがわからないものだ」という話を耳にすることがありますが、まさにその通りだと思います。自ら考え、自ら解決する姿勢を携えた人間の育成が、もうじき施行される新指導要領の目標として掲げられています。中学受験期の子どもは、柔軟性に富んだ成長著しい年齢にあります。小学生のうちにこそ、そうした姿勢を育んでいきたいものですね。

 なお、③の対処法をいきなり取り入れるのが難しければ、親子でテスト後の振り返りをして、親の感想も交えながら子どもに自分の現状を見つめ直す練習をさせることから始めてもよいでしょう。頭ごなしに命じたり、すべてを取り仕切ったり、あれこれと手を差し伸べる方法は、子どもの大きな成長の芽を摘み取ってしまいかねません。①のような方向に走りがちなおかあさんは、今から発想の転換を図ってみてはどうでしょうか。

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