「子どもに相談する」という選択肢はあり!?
6月 18th, 2018
前回は、受験勉強においておかあさんが子どもにどう接するのがよいかを一緒に考えていただきました。おかあさんの命令や指示で勉強させたり、事細かにアドバイスしながら勉強させたりするより、「どうしてこういう成績になったのかな?」「今の勉強のしかたをどう変えたらいいと思う?」などと声かけをし、自分で考えながら勉強を進めていく方向に導いていくような接しかたをお勧めしました。
ただし、これは日本の親にはなじめないやりかたかもしれません。というのも、子どもに関わる問題について、子ども自身に考えさせ、子ども自らが行動していくような接しかたをする習慣が、日本の親にはあまりないように思うからです。次の資料をご覧ください。
この資料は、大学の先生がたが中心となって実施された国際比較調査の一項目です。子ども自身に関わる重要な決めごとにおいて、母親が「子どもに相談する」というアプローチによって、子どもの意志決定の姿勢を引き出しているかどうかを調査したものですが、日本の母親が一番この方法を採っていないことがわかりました。
子どもが一番よい行動の選択肢を採るかどうかはとりあえず置いておき、まずは子どもの考えを引き出すために親が子どもに対して「相談する」のですが、日本のおかあさんがたはこういう方法で子どもの自主性や自律性を育てることをあまりしないようです。
西欧先進国の中心的存在であるアメリカでは、およそ半数の母親が「そうである」と答え、「かなりそうである」も含めると、全体でも7割以上がこういう接しかたをしています。家父長制の色濃く残るトルコのような国においても、アメリカと大差ない結果が判明しています。隣国では、中国も前2カ国と遜色ない状態であり、韓国が一番日本に似た傾向を示している(これは、歴史や思想的な背景に基づくのか、受験事情が似ているからなのかはわかりません)ようです。しかし、それでも日本の倍近い割合のおかあさんが「相談する」と答えておられます。
以上の結果に鑑みると、日本のおかあさんはもっとわが子に「相談する」というスタイルをとってもよいのではないかという気持ちになります。というのも、「受験」や「勉強」に関する決めごとは、お子さん自身にとっても大変重要なものであり、うまくやれる自分を強く求めているはずだからです。
勉強は、ほとんどの子どもにとって楽なものではありません。その楽でないものに、「逃げずに向き合う姿勢をもってほしい」と親は願うわけですが、それが子どもにとって辛く難しいのです。大人ですら、困難なことに正面切って向き合える人は少ないのですから。成績がよければまだしも、よくない状態が続くとますます気持ちが後手に回ってしまいます。ですから、「もっと勉強しなさい」の言葉も効果がなくなってしまいます。「じゃ、無理にでもやらせるしかない」という強制的な手段が望ましくないことについては、これまで幾度となくお伝えしてきました。
ではどうしたらよいのでしょう。「子どもに相談する」という方法は、この点において大変優れていると思いますが、いかがでしょうか。子どもも児童期後半ぐらいになると自尊心を強くもっています。同じことでも、「これは親に言われたことだ」と思うか、「これは自分で決めたことだ」と思うかでは、実行に移す際の意気込みが随分違ってくるのは間違いありません。
親には予め「こうしてほしい」という願望が強くあったとしても、先にそれを言ってしまうのではなく、子ども自身に考えさせ、対処の方法を子ども自身で決めさせるようにすれば、気持ちのうえでも行動のうえでも明らかな違いが生まれることでしょう。子どもの考えを聞いたら、「やってみる価値がありそうだね」と笑顔で承認し、あとは子どもを信じて見守るのです。穏やかで落ち着いた雰囲気のもとでお子さんに問いかけると、お子さんだって本当はどうすべきかがわかっていますから、親が思いもしないようなことを言い出すことはありません。
子どもに相談するという方法で、何事も子どもに決めさせるよう導いてみませんか?今までの流儀が親にも染みついているため、急にすべてがうまくいくとは限りませんが、どこかの時点で方向転換は必要です。もうすぐお子さんには、親の手の届かない世界へ足を踏み入れていく時期がやってきます。それより少しでも早い段階から、自己決定の習慣を築いておくほうがよいのではないでしょうか。
ある年のことです。催しで今回話題に取り上げたアプローチ法について、おかあさんがたにご提案したことがあります。「『どうしたらよいと思う?』という問いかけを発して子どもに考えさせ、そこから自己決定への流れを築きましょう」ということを申し上げました。しばらくして、一人のおかあさんから「あの方法をやってみたんですけど、『おかあさん、そんなこともわからないの!?』と子どもに言われてしまいました」という報告を受け、「えっ!?」と、言葉を失ったことがあります。でもこれは笑い話として言われたようで、どうやらうまくいったご様子でした。みなさんも、ぜひがんばってみていただきたいですね。
最後に。中学受験と長くかかわっている筆者が強く感じているのは、「よくできる子どもほど、親がかりで勉強をしていない」ということです。子どもに相談するスタイルを採っているかどうかはともかく、子どもに「自分のことは自分でやらせる」という方針を徹底しておられたからでしょう。自分でしでかしたミスは、自分で取り返す。それぐらいの強い姿勢がなければ、先々の大成は見込めません。負担の多い受験勉強だからこそ、「自分で決めたことは自分でやる」という信念をもたせ、子どもを信じて見守るのです。それがうまくいくと、大人もかなわないほどの意志の強さや実行力を携えた中学受験生に成長できるのだということを、多くのおとうさんおかあさんの子育てから教えられました。
できなかったことも、子ども自らが状況を改善したいと願って積極的に粘り強く行動すれば、やがて必ずできるようになります。勉強は、精神的エネルギーに加え、反復や継続が命なのです。というのは、あきらめずに繰り返し情報を頭にインプットしながら思考を巡らすことで、脳はその種の学習領域に対する適応性を自ら育んでいきます。つまり、自分で考え行動すればするほど脳は鍛えられ成長していくのですね。さらに、「親が自分を信じて応援してくれている」という気持ちがそこに付加されると、子どもの学習活動はさらに活気を帯び、安定した成果を引き出せるようになっていきます。こうなると、学力形成にとって理想的な好循環の連鎖を引き起こしていくようになります。どうでしょう。こうして考えてみると、勉強ができる、できないは、先天的な要因よりも、「よい学力形成の流れが築けたかどうかによって決まるものなのだ」ということがわかりますね。無論、親から授かった優秀な遺伝子が作用する面もありますが、少なくとも学問で「優秀」と言えるレベルに漕ぎつけられる可能性は、すべての子どもに平等に与えられているのです。やらずにおいて、「頭の差」という結論は何物ももたらしません。
それはそれとしても、「どうしてもあの学校に」という親としての願望を捨てられないかたもおありでしょう。弊社は受験塾ですから、保護者の夢、お子さんの夢が叶うよう、学習指導のありかたについての吟味は必死で行っています。そのうえで、「受験する子どもたちの望ましい取り組み」をどこまで実現できるかにこだわっています。なぜなら、結局受験をするのはお子さんがたのより善い人生の実現のためにあるのだと確信するからです。親としての、塾としての最善の行動を共に模索しませんか?
敢えて言わせていただきます。受かるためだけの受験勉強に終始するのではなく、将来の大成の礎となる受験をめざしましょう。受かっても、間違った勉強法が染み付いては意味がありません。今から受験までの道程においては様々な問題が生じるでしょうが、「この方法は、ほんとうにわが子のためになるのか」という視点も忘れず、お子さんの受験と生活をサポートしてあげてください。きっと親子共々努力されただけの結果が得られると思います。