しぼんだ子どものやる気を盛り返すには?
1月 17th, 2020
正月明けからすぐさま始まった広島県内の中学入試ですが、今も連日のように各中学校の入試が行われています。来週には修道と広島女学院(20日)、広島学院と清心(21日)、広島大学附属(22日)、県立広島(25日)と、受験生の多くが進学目標校にしている中学校の入試が控えています。
入試ではコンディションの調整具合がが明暗をわけがちです。受験生のみなさんにおかれては、もはや勉強そのものよりも心と体の調整を最優先させ、これまでとあまり変わった生活をせず、普段通りの生活を心がけていただきたいですね。それが本番で全力を出し切るうえで、最も有効な対策になるからです。
保護者の方々におかれても、お子さんが普段と変わりない状態で元気よく入試会場に向かえるよう、最後まで手抜かりのないサポートをお願いいたします。特に夜更かしをしての追い込み勉強は百害あって一利なしです。寝不足では頭脳の働きもよくなりませんし、詰込みで頭が混乱した状態になるとなおさらです。これではできる問題もできなくなってしまいます。お子さんにはこれまで通りの生活を維持させるとともに、「今ある力を精いっぱい出し切ればいいんだよ」と、励ましてあげてください。
さて、今回は次年度以後に入試を控えておられるお子さんのご家庭に向けた話題を取り上げてみました。「どうしたら、わが子のやる気を活性化できるか」ということに、悩んでおられる保護者はありませんか? 受験生活は山あり谷ありです。かつて指導の現場にいたころには、「うちの子は、全然やる気がないんです。どうしたらがんばってくれるでしょうか?」という保護者からの相談が絶えることなくあったものです。おそらく、それは今も変わらないことでしょう。
というのも、中学受験は高校や大学への受験と異なり、子どもに本当の意味での目的意識が育っておらず、勉強にムラがあったり、他のことに気持ちが逸れてしまったりしがちです。したがって、受験勉強が軌道に乗るまでの過程において親の苦労が避けられないからです。
残念なことに、受験生本人は「受験するからには、何とか志望校の一つにわが子を合格させてやりたい」という親の気持ちを慮ることはありません。むしろやる気のなさに苛立ち、「もっとがんばれ!」「どうしてそんなにやる気がないの?」という親の叱咤激励を疎ましく思いがちです。その結果、心配だからこその声かけなのに、「うるさいな。耳にタコができたよ!」とばかりに言い返され、途方に暮れたことはありませんか? なかには子どもの反抗に親が興奮して逆切れし、親子喧嘩に至ったご家庭もおありではないかと思います。 実際、かつて筆者自身もわが子の受験生活で同じような経験を幾度となくしたものです。
では、この問題の対策に妙案はあるのでしょうか? 先に申しあげると、「これだ!」というものはありません。あれば、とうの昔にどのご家庭も問題を解消されていることでしょう。ただし、対策を講じないわけにはいきません。そのための前提となることは承知しておきたいものです。それはどういったことでしょうか。少なくとも言えるのは、親心に基づくアドバイスとは言え、同じことを繰り返し言うのは逆効果を招くだけだということです。「そんな都合のよいことってあるの?」と思われるでしょうか。しかしながら、親がそういう姿勢でいる限り問題は解決しません。「うちの親はくどい」と、子どもに思わせないようにすることが、子どもをよい方向に変えるうえで重要なのだと心得てください。とくに、一方的に「こうしなさい」という命令型の関わりをくり返すことは厳に戒めるべきでしょう。まさに逆効果にしかなりません。
ある本を読んでいたら、脳科学者が「やる気」の活性化について次のようなことを述べておられました(だいたいのことをかいつまんで要約しています)。
やる気を生みだす脳の場所は、側坐核という部位で、脳のほぼ真ん中に左右一対あります。ここの神経細胞が活動すればやる気が出ます。ただし、側坐核の神経細胞はなかなか活動してくれません。活動するのは、ある程度の刺激が来たときだけです。つまり、「刺激が与えられたらさらに活動してくれる」ということでして……やる気がない場合でも、やりはじめるしかない、ということなんですね。そのかわり、一度やりはじめるとやっているうちに側坐核が自己興奮してきて、集中力が高まって気分が乗ってくる。だから、「やる気がないなぁ」と思っても、実際にやりはじめてみるしかないのです。
掃除をやりはじめるまでは面倒くさいのに、一度掃除にとりかかればハマってしまって、気づいたら部屋がすっかりきれいになっていた。などという経験は誰にでもあると思います。行動を開始してしまえば、側坐核がそれなりの行動をとってくれるのですから。
人間の取り組みの様子は、好循環と悪循環に大別されるとよく言われます。勉強のやる気も、なかなか高まらない代わりに、いったん好循環の流れを引き出したなら、すばらしい取り組みが継続されるのですね。
ただし、受験勉強は掃除のようにはいかないかもしれません。子どもの「がんばってみよう」という気持ちを引き出し、気を入れて勉強に取り組み始めるような流れを、どうやったら築けるのでしょうか。少なくとも、机に向かって一応のことをやろうという姿勢は引き出さねばなりません。難しいことですが、それが問題です。このことを考えていると、ふと頭に浮かんだことがありました。
私は普段あまりテレビを見ないのですが、最近たまたまテレビを見ていて感動した話がありました。それは、ブータンに招かれて農業の技術指導をしていた日本の男性が、若い国王から「農業もままならないへき地の人たちに、収穫のあがる農業のやりかたを教えてほしい」と依頼され、大変な苦労を経てこの難業に成功した経緯を取材した番組でした。
なぜ難業かというと、村は奥深い山岳地にあり、農業には向かない立地条件にありました。そこで暮らす人たちは焼き畑農業で食物を得ていたのですが、ごくわずかな耕作地しかありませんでした。しかも大半が急斜面にありました。そんな場所で焼き畑農業をすると、次の年には燃やした木々の灰が肥料になりますが、効果は1年限り。土地はすぐにやせ、ろくに作物が実らなくなります。この悪循環がひたすら続いていたのです。「まず、焼き畑をやめなければ」と考えた日本人は、焼き畑農業の欠点を指摘し、水を引いて米作りをするよう提案しました。しかし、やり慣れた方法しか知らない村の人たちはまったく応じてくれませんでした。
肝心の村人が受け入れてくれなければ何もできません。困った挙句思いついた方法は、解決策を押しつけるのではなく、村人たちに「どういうことに困っているのですか?」「何を改善したいですか?」という問題提起をし、彼らに生活の貧しさの根源がどこにあるのかを考えさせることでした。村人の意識改革から着手したのですね。それによって、「自分たちの問題だから、自分たちで何とかしなければ」という主体的な姿勢が生まれ、少しずつ村人の理解や協力が得られるようになりました。やがて岩がごつごつした斜面に人の手が加えられていき、何年もかけて竹をつないで川から水を引き、やがて棚田が稲の緑で潤う場所へと変わっていきました(工事を始めてからが、また大変な苦労でした)。
この話は、受験生のお子さんへの対応においても参考になると思います。親の考えや方針をただ押しつけるのでは、子どもの奮起は引き出せません。「今の勉強に問題があるとすればどんなこと?」「決めた時間に机に向かえないのはなぜなのかな?」「復習がいやだというけど、塾がなぜ復習しなさいと言っていんだと思う?」……など、子どもの状況に応じて働きかけかたを工夫し、やる気が出ない理由を、がんばれない理由を、子ども自身に考えさせてみてはどうでしょうか。。
そうして、親の命令でしぶしぶやる勉強から、自分自身でその必要性を自覚しての受験勉強に変えていくのです。今まで何がいけなかったのかについて、実はほとんどの子どもに相応の自覚はあるものです。親がうるさいからということを口実に、勉強から逃げるという悪循環に陥ってはいませんか? この状態から抜け出し、まずは自分からする勉強へと足を踏み出す。それに成功すれば取り組みに「積極性」が生まれていきます。好循環への流れが少しずつ形成されていくのではないでしょうか。
話が長くなってしまいました。ここまでの話を簡単に要約してみます。また、ここまでで書ききれなかったことも若干付加しておきます。
☆子どもがやる気を取り戻し、積極的に学ぶ受験生へと導く流れ
1.「ちゃんと勉強しなさい」という押しつけをやめる。
2.やる気を出すには、とにかくやり始めることが大前提である。
3.「なぜやる気になれないのか、がんばれないのか」について、 子ども自身に考えさせる。
4.一緒に、「どういう勉強をすべきか」を親子で話し合う。
5.子どもの取り組みに自発性が芽生えたら、それを何よりも喜んでやる。
6.決めたことをやらないと気が済まない状態に漕ぎつける。この域に達したらもう大丈夫。
中学受験において、親の苦労はつきものです。まだしつけの途中にある、完成の域には程遠い小学生の受験なのですから。同じ苦労をするなら、子どもの将来に向けた下地づくりになる苦労にしませんか? それなら苦労のし甲斐があるし、親も報われようというものです。今回の記事が、そのことについて考えていただくきっかけになったとしたら、それだけでもうれしいです。