中学受験を生涯続く親子関係の記念碑に!
2月 17th, 2020
今回の記事の表題に「えっ?」と思われたかもしれません。これは、保護者に中学受験を「志望校への進学のため」とは別の側面から考えていただく機会になればと思って掲げたものです。早速話を進めてまいりたいところですが、低学年児童をおもちの保護者にぜひ参加いただきたい催しがありますので、その案内をまずはさせてください。
直前になってしまいましたが、2月21日(金)に弊社が導入している「玉井式国語的算数教室」の創始者である、玉井満代先生の教育講演会を開催します。詳しい案内は本HPに載せていますので、ご確認いただき、興味をおもちいただいたならぜひお越しください。
玉井先生は50代後半の女性ですが、次々と子ども向けの画期的な学習教材を提案され、民間教育に新たな息吹を吹き込んでおられるスーパーレディです。そして、仕事に追われる日々を過ごしながらも二人の娘さんを立派に育て上げられた、すばらしい子育て名人でもあります。そのうえ、外国の社会情勢や教育の現状についても通暁されており、現在お子さんの子育てにあたっておられる保護者の方々によき指針を提供してくださると思います。
子どもをもつ親は、どなたもわが子の将来に大きな期待を寄せておられるでしょう。ただし、子育てのどういうところに重きを置いたらよいのか、わが子に対してどう接したらよいのかについて、確たる信念をおもちのかたは少ないのではないでしょうか。特に近年はグローバリゼーションの進展により、伝統的な日本の子育てを継承するだけでなく、「世界の新しい趨勢に対応していける人間に育てる」という視点も求められつつあります。
子育ては、親という生身の人間が、わが子という生身の人間と毎日生活を共にしながら営む行為であり、しかも一日たりとも休むことが許されません。互いの距離があまりに近いために、親は感情抜きにわが子に接することは難しく、さらには子どもの側には甘えや我儘がつきもので、親子間の葛藤のない子育てなどあり得ないのが現実でしょう。成長途上の子どもは日に日に変わります。「昨日のわが子は今日のわが子とは違っている」――そういう驚きや戸惑いを感じた保護者も多数おられるのではないでしょうか。
そんな保護者の方々、特におかあさんがたに、子育てにまつわる確かな指針を提供し、「わが子を立派に育てよう!」という元気を吹き込んでくれる存在。それは、探してもなかなか見当たらないものです。玉井先生は、そうしたニーズに応えてくださる貴重な人物です。今回の講演会では、グローバル社会の到来をふまえ、「これからの子育てはどうあるべきか」という視点から、様々な情報や指針を提供してくださいます。ぜひ参加してみてください。
中学受験は、家族全員を巻き込む一大イベントであり、親の協力やサポートは成功に向けて不可欠と言えるほど大きな作用を果たします。それだけに苦労や心配も並大抵のことではありません。また受験生はまだ子育ての終わっていない成長途上の小学生です。だからこそ、親が受験勉強をどう位置づけるか、わが子にどう関わるかが受験の結果だけでなく、子どもの成長にまつわる様々な面に影響を及ぼします。
そのことを視野に入れるなら、中学受験を「わが子の成長を引き出す場にする」という発想からとらえ直すことも、大いに必要なことではないでしょうか。また、受験生の子どもの側に立ってみると、中学受験の思い出が「苦しく辛いばかりの毎日だった」「親にいつも叱咤激励されて嫌だった」というネガティブなものになるか、「充実感のある楽しいものだった」「親はどんなときもあきらめず、温かく見守ってくれた」というポジティブなものになるかで、学問に向き合う姿勢や家族との信頼関係、ひいては人生の歩みも随分違ったものになることでしょう。
テンプル大学(アメリカ)の心理学教授であるローレンス・スタインバーグ氏は、「人間のほとんどは人生のどの時期よりも青少年期(10~25歳)のことをよく覚えている」と著書で述べておられます。この現象は多くの心理学者が認めていること(「レミニセンス・バンプ」と呼ばれています)です。なぜこのような現象が生じるのかですが、記憶力がこの年齢期に強いからではありません。スタインバーグ教授が紹介しておられた一般的仮説は次の三つです。
1.青少年期のことを他の時期よりも頻繁に思い出すのは、他の時期よりも
初めてのできごとが多いからである。
2.青少年期に起きる典型的なできごとは、たいていより重要で感動するも
のだからである。
3.青少年期は人間が初めて一貫したアイデンティティ感覚をもつようにな
る時期で、この年頃に起きた出来事を自分とは何者かを定義するために
使う傾向があるからだ。
氏は、「これらはどれもつじつまが合っているように感じるが、どれも誤りだ」と述べておられます。研究者の調査においても、やはり確たる根拠はないという結果が導き出されています。インパクトのある珍しい体験はどの年代の人間でもよく覚えているものです。青少年期に限ったことではありません。では、青少年期のできごとがありふれたことでさえ多く記憶に残されるのはどうしてでしょうか。これについて、氏は次のように述べておられます。
(前 略)人が青少年期の出来事をそれほど思い出しやすいのは、環境に対する脳の感受性が増幅されているために、経験をより深く、より細かく、そしてよりしっかりと符号化するからだ。青少年期が、非常にたくさんの自分史やフィクションで取り上げられ、第2の誕生期として盛んに描かれてきたのは偶然ではない。小説家や、劇作家や、哲学者や、大人になる年齢をテーマにした回想録の作者は、この時期の神経生物学的な背景は意識していなかったかもしれないが、青少年期が人格形成にいかに重要かということを言いたかったのは確かだろう。
最近まで神経学者たちは、発達可塑性はおもに早い年齢の特徴だと信じていた。脳がこの段階で急速に発達するのはわかっていたし、この時期に視覚など多くの基本的な能力が増進し、言語能力などが出現し、粗大運動機能などが強化されるのだから、そう思うのも無理はない。人間の脳はこの時期に、他のどんな時期よりも多くの部分が「形成」されるのだ。
(中 略)今では、青少年期も同じくらい驚異的な脳の再構築と可塑性が生じる時期だとわかっている。この発見は、若者たちをいかに育て、教育し、扱うかにまで関わってくるので極めて重要だ。もし青少年期の脳が経験に対して特に敏感であるなら、大人たちは、この時期に若者に与える経験について、特別に心を配り注意を傾けなければならない。
長い文章を少し強引にカットしたので、わかりにくい面もあったかと思います。しかし、青少年期は幼児期までの年齢に匹敵するくらい人格形成において重要な時期だということはおわかりいただけたのではないかと思います。
ただでさえ、大きなエネルギー投入を余儀なくされる中学受験ですから、そのプロセスにおける様々なできごとの記憶は、脳に刻み付けられて年を取っても忘れ去られることはないでしょう。しかし、それに加えて青少年期の経験は人格形成においても大きな関与をするのです。そのことに思いを致すなら、「中学受験をめざした学びの生活を、わが子の人間としての成長につなげていこう」という発想から、受験生活を見守り応援することは大いに意義があると思います。
なによりも、中学受験後も長く続く親子の関係をより信頼に満ちた望ましいものにすることができるでしょう。筆者自身、息子が社会人になった現在になって、中学受験生時代のことを思い出すたびに、思うに任せない息子の勉強ぶりに癇癪を起さず接したことを、「あれでよかった」とつくづく思います(男の一人っ子だったせいか、考えや行動が成熟するのに時間がかかったのだと思います)。
お子さんの中学受験を、永遠の親子関係の構築に向けた記念碑にしませんか? それをめざした中学受験はよい結果をもたらすだけでなく、お子さんにとって貴重な原体験として脳に宿り、人生の様々な局面において大きな力になることでしょう。家族の方々にとっても共有すべきよい思い出となり、全員に幸福な人生をももたらせてくれるだろうと確信します。
※引用部分は、「15歳はなぜ言うことを聞かないのか」ローレンス・スタインバーグ/著(日経BP社)によります。