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子どもの“やる気”のメカニズム研究 その2

月曜日, 3月 16th, 2020

 前回は、子どもがやる気になるのはどういうときかを、弊社でのアンケート結果をもとに考察してみました。今回はその続きですが、最終的には「進学塾で学ぶ子どもたちのやる気をどう支えるか」という話につなげていけたらと考えています。よろしくお願いします。

 唐突ですが、ある書物を読んでいたときに目が釘付けになった文言があります。それは、「教育とは“やる気”を育てることに尽きる」というものでした。確かに、やる気があれば困難なことにチャレンジする勇気が湧いてきますし、失敗しても挫けることなく立ち向かい、やがては満足のいく結果を手に入れることができます。決して勉強だけに必要なものではありません。やる気こそ、人間にとって成長の原動力となる大切なものなのですね。

 だいぶ前ですが、大学の研究者が「子どもはどんな理由で学ぶか」についてアンケートを実施し、その結果を著書で紹介されたことがあります。これは、「やる気はどうしたら高まるか」に直結する調査と言ってもよいでしょう。調査対象は、小学5・6年生300名でした。ちょっとご紹介してみましょう。調査の結果、子どもたちが学ぶ理由はつぎの4つにグループ分けされました。

 ①は知的好奇心や向上心が学ぶ理由となっています。②も①と同様に学び手である子ども自身の気持ち(~になりたいという欲求)が学びの理由となっています。③は、子ども自身の気持ちだけでなく、他者との比較や関わりもファクターになっていますから、①や②とは異なり、自己と他者の両方がからむ学びの理由と言えるでしょう。④は他者からの承認に対する欲求が学びの理由となっています。

 さて、小学校5・6年生にいちばん強くみられた理由は①~④のどれだったでしょうか。いちばん強かったのは、③の「よい成績を取りたい」という理由でした。みなさんの予想どおりだったでしょうか。つぎが②の「自己実現のために学ぶ」で、そのつぎが①の「おもしろいから学ぶ」、いちばん学ぶ理由として弱かったのが④の「認められたいから学ぶ」でした。

 この資料は、子どもの成長の過程をよく表しているように思います。児童期前半の子どもは、目の前にあるものすべてが好奇心の対象になりますから、「おもしろいから学ぶ」という傾向が強いものです。同時に、大人の庇護のもとで生きていますから、「親が喜ぶから」「親がほめてくれるから」「先生に叱られたくないから」などのように、大人の影響が多分に反映されての意欲になりがちです。

 しかしながら、年齢を重ねるうちに世の中のことがわかるようになり、自分の人生について見通す姿勢も備わっていきます。やがて中学2年生頃になると、単に知りたいからというよりも、自分の知的興味と先々の進路とを重ね合わせ、それを励みに学びの欲求を高めるようになっていきます。

 こうした変化の途上期に見られるのが、「よい成績を取るために学ぶ」という傾向です。純粋に「おもしろいから」「知りたいから」という理由で学んでいた子どもも、学校という小集団社会で教育を受けるにつれて、自分自身の満足・他者との比較の両方においてわかりやすい評価目安を求めるようになるのではないでしょうか。それが「成績」なのでしょう。成績がよければ「自分はやれる!」という自信をもつことができ、それがまた次なる学びに向けた意欲を刺激します。

 こうしてみると、中学受験をめざして学ぶ子どもたちは、最も成績に敏感な時期に受験勉強をしているわけですね。進学塾につきものの得点や順位は、順調なときには否が応でも学習意欲を刺激してくれますが、皆が同じ目標に向かって勉強している集団のなかでの勉強ですから、思うような成績が得られないことも多々あります。運悪くスランプが長引いたりすると、成績の低迷が有能感の喪失につながってしまう恐れがあるのだということも知っておく必要があります。

 そういうときこそ、大人の出番ではないでしょうか。というのも、思春期までの子どもは、まだまだ親に頼っています。上記資料では、④は学びの理由としてはいちばん下になっていますが、それは子どもの顕在意識に問いかけた場合の結果であり、実際にはまだまだ親(大人)に様々な面で依存して生きています。だからこそ、親は大切なわが子を成績のもつ負の側面から救い出してやらねばなりません。

 成績が落ちたとき、みなさんはどうわが子をフォローされるでしょうか。親自身の落胆の気持ちを抑え、やる気を引き出すべく励ましてやることが望ましいとわかっていながら、ついやる気のなさを指摘したり、能力不足に言及するような言葉を浴びせたりすることはありませんか?

 前回お伝えしたように、もともとやる気のない子どもなんていません。テストの繰り返しの中で自信を失い、あきらめの気持ちがチラついたりして、気持ちの入った勉強ができなくなっているのです。そういう状態を立て直しには、まずもって親が「あなたはやれるよ!」と、親が勇気を吹き込んでやる必要があります。成績は能力を判定するものではありません。当該のテスト範囲における、勉強の成果を問うものです。つまり、「どれだけ努力したか」を判定するものです。それはわかっておられるとは思いますが、わが子のことになるとつい感情に振り回されてしまうのが親というものです。

 そこで、親のサポートのキーワードは「努力」ということになります。ただし、「もっと努力しなさい!」と激励するだけでは、直に効果を失ってしまいます。親の基本スタンスとして「やるべきことを自分で決め」、「その日その日にどれだけやったか、を振り返らせ」、「努力の継続と積み重ねこそ、親が期待していることだ、というメッセージを送り続ける」ことが大切だと思います。すなわち、勉強の主役である子どもが自主的に行う受験勉強を尊重しながらサポートすることが求められます。

 テスト成績がわかったなら、その度にお子さんが自分の勉強を冷静に振り返り、「何が足りなかったか」を親が言わなくても自分で振り返るよう励ましてやりましょう。その姿勢が確固たるものになれば、もはや親の心配はなくなると言ってもよいでしょう。そのときが来るまで、親はもどかしい思いをすることになりますが、そうした日々は確実にわが子の成長を後押ししてくれます。また、それこそがわが子を受験させたことで得られるいちばんの収穫ではないでしょうか。

 若干話が逸れたかもしれません。今回の記事を通じて、保護者の方々が「やる気を育てる親になろう!」という気持ちを少しでも強くされたならうれしいです。もちろん、教室の指導担当者もお子さんを取り巻く環境にいる大人のひとりです。普段の授業を通じて、「子どもたちのやる気をいかにして高めるか」に挑戦するつもりで指導にあたってまいります。どうぞよろしくお願いいたします。

※今回の記事でご紹介した資料は、「自ら学ぶ意欲を育む先生」(桜井茂男/著 図書文化)より引用しました。

 

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