子どもに小言ばかり言ってしまうかたへ
7月 27th, 2020
先週から弊社の夏休み講座が始まりました。ご承知のように、今年は新型コロナウィルスの感染拡大への対応で学校が長期間休校となりました。そのため、夏休み期間が大幅に短縮されており、弊社においても学校への通学がある夏休み期間は夕方から授業を行っています。また、オンラインでの受講にも対応するなど、通常の年度とはずいぶん異なる形態での夏の講座実施となっています。
現在6年生の子どもたちにとっては、コロナ関連の問題のしわ寄せが受験勉強にも少なからず影響していることでしょう。しかしながら、入試は例年と同じ時期に実施されます。残されたあと半年ほどの準備期間を有意義に過ごし、今からでき得る最善の受験対策を実現すべくがんばっていただきたいと存じます。暑い夏の期間は、集中力が成果をあげるうえでものを言います。凌ぎやすい時間帯を有効に活かし、効率のよい受験対策を実現していただきたいですね。
さて、いきなり質問です。みなさんは日常の生活においてお子さんに小言を言うことはありますか? これは愚問というほかないかもしれません。というのも、子どもに小言を言いたい場面のない親などおそらくほとんどいないからです。第一、子どもと親とでは人生経験があまりに違います。子どもの足りない部分をあげつらおうと思えば、数限りなく見つかるものです。まして受験生の親であれば、勉強面についてわが子に注文のつかない親などおそらく一人もおられないに決まっています。
小言に関する親の悩みはどういうものかと言うと、大概は同じようなことで、「毎日小言ばかり口をついて出てきます。でも、利き目はせいぜいその場限り。自分でも『これではいけない』と思うのですが、わが子の現実に直面すると結局小言を言ってしまいます」などのようなことをおっしゃいます。このように、小言は効き目がないとみなさん十知っておられます。しかし、ちゃんとやらないわが子を放っておけなくなるんですね。
なぜ小言は利き目がないのでしょう。臨床心理学者の河合隼雄氏(1928-2007)の著作(「こころの子育て」1999朝日新聞社)に、なるほどと思う記述がありました。人間は、自分の至らない点を指摘され、「こうしなさい」と命令口調で正しいことをくり返し言われ続けると、体がこわばってきて動けなくなるのだそうです。親子関係における親の小言も同じで、正しいことを言えばいいわけではないのだそうです。親に冷たい目で見られて正しいことばかり言われたらたまりません。子どもに正しいことをパッパッと言ったらいい、と思うのは親がちょっと焦り過ぎだそうです。だいいち、指導や助言をする立場のほうが圧倒的に楽です。子どもが反省して行動を改めるために必要なエネルギーは、親の想像を超えるものなのかもしれませんね。まして受験勉強は、子どもにとって楽なものではありませんから、これに関する小言ならなおさら心に重くのしかかるのは想像に難くありません。
では、小言を減らすよい手立てというものはないのでしょうか。そのことへのヒントになる著述や、子育て中の保護者にとって参考になりそうな著述を今回はご紹介してみようと思います。今回の記事は、順調に受験生活を送っておられるお子さんのご家庭には必要のないものかもしれません。ですが、親子関係の基本的なことで悩んでおられる保護者には、参考にしていただけるかもしれません。なお、文字数の都合で引用文を調整しています。ご了承ください。
質問1 「早くしなさい」「それはだめ」と、小言ばかり言っています。
回答:「何か言いたくなったときに、そこで五秒待つんです。『早くしなさい!』と言うのを、ちょっと待つだけでも違います。そうすると、子どもは何か面白いことをしますよ。とにかく一息待つ。たとえば、学校へ行っていない子に『なんで行ってないの?』と聞いたら、『学校行くと友達ができるから』とか言うわけ。『変なことを言うな』と言いたくなりますが、がまんして『はー、友達ができるからねえ』と言って待っていたら、また続きがでてきて、やがて友達ができると、父親が変な病気にかかっているということがわかるからだという理由が判明します。ほんとうは父親のことで悩んでいたんですね。子どもの行為の理由を「早く言いなさい」という気持ちでいたのでは、全然待っていることにはなりません。子どもにその感じが全部伝わっているんですから。「待っている」とか「ちゃんとそこにいる」ていうのは、ほんとに難しいことです。
質問2 思い通りにならないのは、育て方が悪いからですか。
回答:現代は、親が子どもをコントロールできると思い過ぎているんじゃないでしょうか。近代科学が発達して便利になり過ぎているから、上手にやったらうまいこと行くとみんな思っている。それで、子育てが思い通りにならないとイライラしてしまうんですね。一人の生きた人間を育てるのは、機械を扱うようなわけにはいきません。マニュアルなどありませんから。「上手に子育てをしたら思い通りになる」というのは完全に迷信です。
とにかく、相手は子どもで、生きている存在なんです。こちらの思い通りにならないのが生き物というものでしょう。イヌやネコでも思い通りにはなりません、まして人間の子どもが思い通りになるはずがありません。ところが自分の子どもというと、どうしてもなんか思い通りになりそうな気がするんですね。だから、子育てがうまくいかないと「自分が悪い」と罪悪感をもつ人がいるけど、そんなことはおかしいんで、どんなよい親でも、よい子でも、思うようにならないときというのは必ずあるんです。
ほんとは、思い通りにならないことほどすごいことなんですよ。そしておもしろいことなんです。そうやって、思うようにならなくて、あれやこれや考えてもどうしようもないときは、寝るんですよ。それが一番です。目が覚めたら、また変わっていますよ。ひと晩たつって、不思議ですよ。
質問3 ボーっとしていることがよくあります。心配ないですか。
回答:こころができあがっていく、というのは大変なことで、まあ、お味噌とかお酒とかが発酵するみたいなものです。子どもにも、そういうボーッとしている時間が必要なんです。お酒を造るには、麹でじわじわ発酵させなきゃならない。それなのに、アルコール成分をパーっと注ぐみたいなことをして、『できました!』とか言ってたら、味もそっけもないものになってしまうのは当たり前でしょう?
おとなだって、朝から晩までずっと死ぬ思いで働いている人なんていないですよ。みんな適当にボーっとしているはずです。そのくせ子どもには『ボンヤリするな!』なんて言う。ボーっとするのは、ただボーっとして何もしないから大事なんです。おとなだって本来はボーっとしている時間が必要なんです。ヨーロッパ人には、休暇で他所の場所に行ってボーっとする習慣があります。日本もかつては、おとなも子どもも適当に遊びに行ったり、気晴らしをしていました。
今は、子どもを監視するほうにおとなのエネルギーが集中しています。本来子どもは成長しながら、『親の目』みたいなものを自分のなかに取り込んでいきます。ですから、休暇をとるとかとかコンサートに行くとか、広い意味での遊びをもう一度おとながやりだせばいいんです。おとながそういうことにエネルギーを集中させていてこそ、子どもは遊んだりボーっとしたりできるんです。おとなが自分の世界をもっていることは、子どものこころが育っていくうえで大きいんです。
どうでしょう。参考になる点はあったでしょうか。筆者が少なくとも感じたのは、おとな(親)は目先のことにとらわれて、感情的になったり、拙速な行動に出たりするのではなく、子ども成長を見守り見届ける精神的なゆとりをもたなければならないということです。子どもは必ず成長していきます。それを信じて“待つ”ことを忘れないようにしたいものですね。