「この学校はわが子に合っているか」という視点

9月 14th, 2020

 いつの間にか9月も中旬を迎えています。入試を控えた受験生に与えられた準備期間はあと4カ月ほど。私学の入試解禁日は1月上旬ですが、公立一貫校のなかには年内に一次選抜を実施するところもあります。夏の暑さが若干収まり、秋の風を肌に感じるようになりましたが、そのことをきっかけに入試が近づいていることを改めて実感されたご家庭も少なくないことでしょう。

 9月6日(日)には、弊社主催の模擬試験(第2回)が行われました。この模擬試験は毎年5回実施していますが、今年も9月から入試直前の12月にかけて月1回のペースを予定しています。秋を迎えたことで、今回は家庭学習研究社の会員以外の受験生も増え、男女とも500名近い参加がありました。今回の結果を確認したらデータをよく検証し、弱点対策や仕上げ学習に大いに生かしていただきたいですね。受験生に残された期間は平等ですから、いかにして効率的な受験対策を実現するかが問われます。それが明暗を分けることになります。受験生のみなさんには悔いの残らぬようがんばってほしいですね。

 さて、今回は学校選びに関する話題を取り上げてみました。筆者は会員受験生全員の受験校選択、進路選択の状況を毎年調べていますが、広島にはかなりの数の中高一貫校があり、しかも国立、公立、私立と、運営母体のバリエーションも豊富です。そのほとんどは同一日に入試を行っていません(私立の男子校と女子校、共学校の入試が重なることはあります)から、その気になればほとんどの中学校を受験することができます。

 とは言え、現実に最も多いのは受験生一人あたり3校受験であり、その次が4校、さらにその次が2校受験です。5校受験も結構見られますが、6校以上の受験となるとごく少数です。これは、受験の負担と行きたい学校(行かせたい学校)のリストアップとの兼ね合いで、落ち着くべきところに収束した結果でしょう。秋もこれから少しずつ深まってまいりますが、そろそろどの中学校を受験するかについて親子で相談されている頃ではないかと拝察します。みなさんのお宅では、受験校を既に決めておられるでしょうか。受験校の選択にあたっては、いろいろな判断基準があるでしょう。たとえば、次のような要素が考えられます。

家庭からの通学距離と所要時間、男女共学か別学か、学費負担の度合い(国・公立か、私立か)、大学への進学実績、校風、学校の建学理念や歴史、6か年一貫を生かした教育実践の内容、生徒への面倒見、保護者へのフォロー、先生と生徒のつながり、設備と施設、地域に浸透しているイメージ(地域の評価)、卒業生のネットワークの充実度、家族や親戚に出身校がいるかどうか、友人と一緒に通えるかどうか、何となくの好み、周辺から聞こえてくる評判、保護者の知人の強い勧め、私立学校の設立母体(ミッション系、仏教系、無宗教など)、受験日程の都合(適当に間隔を開けたいなどの判断)、オープンスクールや説明会で得た印象、入学後にやりたい部活があるかどうか、留学制度の充実度 等々

 無論、他にもいろいろあることでしょう。みなさんのご家庭では何を重視されるでしょうか。おそらく、上述のようなファクターをいろいろと勘案し、お子さんや保護者の志向性の高いものを比較検討したり組み合わせたりして決めておられるのではないかと思います。

 おもしろいのは、同じことがらが選択の理由になったり選択しない理由になったりすることです。たとえば、「家から近いから」という理由で進学先に選ぶ受験生があるいっぽう、「家から遠いほうがよい」と考え、敢えて別の学校に進学する受験生もいます。友達や仲間と一緒に通えることを喜び選択理由にする受験生もいれば、「周囲の人とは別の学校に行きたい」という理由で学校を選ぶ受験生もいます。親やきょうだいの通った学校であることは、志望の強い動機になるケースが多々ありますが、敢えて家族とは別の学校に行きたがる受験生もいます。あくまでも筆者の体験に基づく印象ですが、そういったへそ曲がり?な選択をするお子さんは、入学後もうまくやれる確率が高い(間違いが少ない)ように思います。自分の考えを明確にもっているからでしょう。

 さて、受験校を決めたあとは合格後の進路選択も大いに悩まされる問題です。いくつかの学校を受けた結果、合格した学校が一つであれば、その学校に入学するかどうかの選択以外に迷う余地はありません。しかしながら、2校、もしくはそれ以上の学校に受かった場合、しかもどの学校がお子さんに合っているか、ふさわしいかどうか判断に迷われるご家庭が毎年多数あります。

 無論、複数の中学校に受かった場合でも、そのなかにあこがれの第一志望校が含まれていれば迷う余地はありません。また、多少迷う点はあっても、多くのご家庭では偏差値の高い学校、地域で評価の高い学校をお選びになっています。また、前述の受験校選びの理由となるファクターの中から、よりお子さんや保護者が重要視されているものを携えている学校があった場合、その学校を選ばれる傾向が強いのは間違いありません。

 ところが、それでも判断に迷われるご家庭があります。たとえば、「一応受けたが、合格は難しいだろう」と思っていた学校に受かった場合です。近年は合格を巡る競争もかなり緩和され、こういう事例がたびたび生じています。入試で予想以上の結果を得た喜びは、親子共々どんなにか大きいであろうことは想像に難くありませんが、同時に生じるのは「勉強のレベルや進度について行けるだろうか」という不安や心配です。弊社の指導担当者には、毎年このような相談が相当数あります。

 こういう場合の進路選択の判断材料としてポイントとなるのは、お子さんの性格です。優秀な生徒がたくさんいる環境で大いに刺激をもらい、「みんなに負けないようがんばろう!」と意欲を燃やすタイプのお子さんは、難易度の高いほうの学校に進学してもやっていける可能性が高いでしょう。合格を知って、「この学校でがんばるぞ!」と意欲を滾らすようなお子さんなら委縮することはありません。特に、順位や時間を競うような勝負事に燃えるタイプのお子さんなら、多少しんどくても這い上がっていけることでしょう。

 逆に、優秀で自信に満ちた生徒の集団の中にいると、場の雰囲気に気圧され、やる気や自信を失ってしまうタイプのお子さんもいます。「この中でいちばんをめざしてやる!」という意気込みをもつ生徒の集まった教室には、特有の張り詰めた雰囲気が生まれます。そういう空気が苦手で、みんなと落ち着いた気分で楽しく勉強するほうを志向するタイプのお子さんは、このような性格に照らして学校選びをするのもありでしょう。

 心理学に「小さな池の大きな魚効果」という有名な言葉があります。同じ実力レベルの生徒が、優秀な集団(大きな池)に所属するか、それほどでもない集団(小さな池)に所属するかによって自己に対する有能感が変わり、結果として実力の伸びように違いが生じるということのたとえとして用いられています。レベルの高い集団内にいると有能感が相対的に低下しがちです。そのいっぽうで、実力的に低い集団内にいると、「自分はできる!」という有能感を高めることができます。このような集団にいるほうが、高い学力の持ち主になれるということを意味しているのでしょう。「鶏口となるも牛後となるなかれ」という格言がありますが、これもほぼ同じような意味合いで用いられています。

 大きな池の小さな魚になるか、小さな池の大きな魚になるか。選択肢はこの二つではありません。大きな池の大きな魚もたくさんいます。お子さんそれぞれのタイプや性格に合わせて進路を決定されればよいのではでしょうか。入試終了後の進路選択に迷いが生じたとき、本記事が多少なりとも参考になれば幸いです。

 最後に。何より重要なのは、お子さんが行きたい学校を思い描いて最後まで努力を継続し、進学の夢を叶えることです。それが自信と意欲につながります。保護者におかれては、最後までお子さんの努力を信じてバックアップをしてあげてください。弊社の指導担当者一同、同様の気持ちで悔いの残らぬ指導を実践してまいる所存です。

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