ほめ上手の親になりませんか? その2
10月 16th, 2020
前回は、親がわが子をほめることの必要性についての根拠、そしてほめることによってわが子にどのような変化が期待できるのかについてお伝えしたところで終わりました。今回はその続きで、子どもが歓迎するほめかた(子どものやる気を促すほめかた)、嫌がるほめかた(却ってやる気を失わせるほめかた)の例をご紹介したうえで、望ましいほめかたの原則をともに考えてみようと思います。
まずは本題に入る前に、直近でわが子をほめたのはいつだったかを振り返ってみてください。何とはなしにほめた言葉が、思いの外よい反応を引き出せたってことはありませんか? 逆に、一生懸命ほめたつもりなのに、子どもは喜ぶどころか、嫌そうな顔をしたことはありませんでしたか? 親のほめかたと子どもの反応には、明確な因果関係があります。そのことに気づくだけで、みなさんのほめかたによい変化が生まれると思います。まずは逆効果を招くおそれのある代表的なほめかたをちょっとご紹介してみましょう。
ケース1はよく耳にするほめかたで、特に問題ないようにも思われます。実際、このようにほめられて素直に喜ぶ子もいることでしょう。しかし、そうでない子もいます。このほめかたで気になるのは、親が上からの目線で話していることもさることながら、「やればできるじゃない!」の言葉が醸すニュアンスです。子どもによっては、「自分は能力が足りないと思われているんだ」と感じるおそれがあります。子どもがこのように受け止めると、親の言葉は発奮の材料にはなりません。
ケース2は、望ましくないほめかたとして教育心理学などの書物で頻繁にとりあげられているものです。よい点数を取った事実を指摘してほめるならともかく、「優秀な子」「自慢の息子」「すばらしい娘」など、人間としての能力全般に拡大解釈した表現は、子どもにプッシャーを与えたり重荷に感じさせたりする恐れがあります。また、「これまではたまたまよい点がとれただけで、自分にはそれほどの力はない」と思っている子どもにとっては、反発したい、否定したい気持ちに駆られるほめ言葉です。
能力をほめられた子どもが陥りやすい問題もあります。「いつもよい成績をあげないといけない」「次の試験で失敗したら親にどう言われるだろうか」などの強迫観念に苛まれる子どもがいるのです。また、「優秀な子ども」と言われ、そのようなレッテル張りに縛られていると、やがてリスクを避けて安全な道を選ぶタイプの人間に育つ恐れが多分にあります。
このように、ほめたことが却って子どもによくない影響を及ぼすこともありますから、ほめる際には子どもが親のほめ言葉をどう受け止めるかということもよく考え、子どものやる気につながるようなほめかたを工夫してやりたいものです。以下は、子どもの意欲を引き出すほめかたの原則として、教育書や心理学の本などで取り上げられているものを簡単にご紹介したものです。
★子どものやる気を引き出すほめかた★
「ほめさえすれば喜ぶだろう」と口先でほめたり、上からの目線で「認めてやる」といった態度でほめても子どもの心に響きません。親として「よい行いをした」「よくがんばった」と心から思っていることについて、誠実にほめる必要があります。親のほめ言葉を「本心から思ってくれているんだ」と受け止めた子どもは、親の動機がコントロールを意図したもの(例:親の都合通りに子どもを動かそう)ではないことを感じとり、安心と勇気をもらうことができるでしょう。
子どもに対して全体的なプラスの評価(例:能力に言及する)を与えるほめかたをするのではなく、ある行動について具体的にほめるほうが適切です。「あなたは優秀な子」などのほめかたをされると、ほめられたことと本人の自覚との間にギャップが生じ易いものです。子どもがやったことについて具体的にほめるのなら、そういうギャップが生じにくいし、親に認められるかどうかということに振り回されることなく、自分がやるべきことに集中することができるでしょう。
子どもが親に見てほしいこと、ほめてほしいことは、がんばりのプロセスです。うまくやれなかったときも、自分の努力を親が見ていて、がんばりをほめ称えてくれたなら、「次こそは、もっとうまくやるぞ!」と、子どもは奮い立ちます。困難に負けず、粘り強く物事に取り組む姿勢は、このような親のもとで育った子どもだと言われます。親が結果だけを見てほめると、「ボクは勉強していなかった。運がよかっただけなのに」と、親への不信の気持ちを抱くようになるかもしれません。「結果さえよければいいんだ」という、間違った考えの持ち主になる恐れもあるでしょう。
親がわが子をほめるとき、親に都合のよい方向へ子どもを導こうというコントロール的な意図が含まれる場合があります。いっぽう、親のほめ言葉が、「今回は何がよかったのか」「どれぐらい達成できたのか」を客観的に判断するためのフィードバック効果を子どもにもたらす場合もあります。もしも親が後者のようなほめ言葉を常日頃与えたなら、子どもは「今回はどれだけやれたのか」を自分なりに評価し、満足できる結果を得たのか、課題はどこにあるのかを自分で考えられる、自律的な姿勢をもった人間に成長できるでしょう。
上記の1~4の見出し部分に ⇔ で示した言葉がありますが、これは望ましくない逆効果を招きがちなほめかたをご紹介したものです。前回ご紹介した、弊社の4・5年部生へのアンケート調査においては、「うれしいほめかた」と「うれしくないほめかた」の事例を子どもたちに書いてもらいましたが、この1~4との共通点を感じさせるコメントが結構見られました。たとえば次のようなものです。
小学校高学年ともなると、子どもをあしらうかのようなほめかたや根拠の希薄なほめかたはもはや通用しないのだということがわかりますね。上記は、弊社に通って受験勉強をしている子どもたちの生の声です。わが子のやる気を引き出す声かけやほめ言葉を考えるうえで参考にしていただけるのではないかと思います。
なかには、「子どもにそこまで気を使う必要があるのか」と思われたかたがあるやもしれません。しかし、子どもの気持ちに沿って親が対応することや、子どもを一人前の人間として扱いながら激励することは、子どものプライドや自己意識を育てるうえでも大変重要なことです。学力形成面だけでなく、人間としての望ましい成長を促したいなら、さらには受験を通して親子の信頼関係をより強固なものにしたいなら、親は日々のわが子の様子を注意深く見守り、適切なほめ言葉でバックアップすることが求められるのではないでしょうか。
子どもにとって、親からほめられるほどうれしいことはありません。しかし、ほめて伸ばすことの効果はもうしばらくすると薄れていきます。思春期までが賞味期限です。わが子をしっかりと見守り、愛情をこめてほめてあげてください!
※子どものやる気を引き出すほめかた1~4の内容をまとめるにあたっては、「行動を起こし、持続する力(モチベーションの心理学)」外山美樹/著 新曜社 を参考にしました。