“受験”と子どもの“内面の成長”は両立する?

12月 14th, 2020

 12月6日には、模擬試験の最終回(第5回)が行われました。毎年恒例のことですが、最終回は広島の代表的な私学である修道と広島女学院のご理解ご協力をいただき、実際の入試会場と同じ場所での実施となっています。そういう理由もあり、最終回はいちばん参加者の多い模擬試験となっています。受験生のみなさんにとって、本番に向けての貴重な疑似体験となったことでしょう。

 先日のブログにも書きましたが、心身ともにまだ大人の域には程遠い12歳前後の小学生が受験生ですから、高校や大学への進学をめざす生徒と違って、心血注いで勉強に取り組める期間はそう長くありません。やっと目の色が変わってきた起こさんも少なくないことでしょう。それは、これから入試本番までの期間こそ勝負のときだということを意味します。やっと子どもたちに気合の入った密度の高い学習を期待できる段階に至ったのです。

 模擬試験最終回の答案や成績資料を手にしたら、すぐに現在の仕上がり具合や欠落部分を点検しましょう。理科や社会などは、まだまだ埋め合わせや補強が可能です。アタックなどの一問一答式の補助教材は、冬休みまでにやれる限り反復して知識の抜け落ちているところを埋めておきましょう。算数にしても、苦手単元はまだあきらめるには及びません。今から気合を入れてやり直せば、かなり変わってきます。なにしろ、真剣さが伴ってきた今からの時期は、これまでよりもやったことがはるかによく頭に残ります。

 ただし、焦ってあれもこれもと手をつけると頭が混乱して逆効果を招きますから、教科ごとの対策ポイントを絞り込み、決めたことを時間枠の中で集中して取り組んでいきましょう。そうして、冬休みの講座で最終的な仕上げをしていくことになります。保護者におかれては、わが子がやるべきことを心得ているかどうかを確かめ、「今からやれることを精いっぱいやっていこう!」と励ましてあげてください。あとは健康面の配慮も忘れぬようよろしくお願いいたします。

 さて、ここから今回の本題に入ろうと思います。上述のように中学受験の主人公は12歳前後の小学生です。さらに言えば、受験勉強を始めた頃は9~10歳頃ですから、まだまだ幼さが多分に残っていることでしょう。そんな状態のわが子を見るにつけ、「受験勉強をやり切れるだろうか」と心配される保護者もおありだろうと思います。それどころか、「難しい勉強を無理にやらせたり、試験に追い立てたりすることがよいことだろうか」と、疑問や不安がよぎる保護者もおありでしょう。

 そこで今回は、これから受験生となるお子さんをおもちの保護者に向けて、受験は決して子どもの内面の成長をスポイルするものではないこと、それどころか高い教養を有し、前向きかつ柔軟な生きかたのできる人間に成長するうえで、大変有効な経験を与えてくれるものであるということをお伝えしたいと思います。

 まず、中学受験というと、詰込み学習、連日夜間の塾通い、深夜遅くまでの勉強、常に競争をあおられる等々…、ネガティブな連想をするかたもおられるという話を耳にします。また、「わが子には勉強面だけでなく、バランスのとれた健全な成長を」と望んでおられる保護者は、「学校が疎かになってはいけない」、「家庭のしつけがおざなりになりはしないか」、などと心配されるケースもあるかもしれません。

 しかしながら、これらは程度を逸した受験勉強や生活、偏った考えに基づいた学習指導によって生じる弊害であり、「小学生にふさわしい受験勉強・受験生活をこころがけたなら、決して子どもの健全な成長がスポイルされることはありません。これまで何度もお伝えしましたが、中学受験は大人が準備学習をお膳立てし、指導、サポートをしていく点に大きな特色があります。ですから、子どもに過度の負担を与えず、なおかつ鍛錬として妥当な負荷を考慮して受験対策の学習指導を行えば、弊害どころか、将来の歩みに様々な可能性を与えてくれるものです。

 たとえば、弊社は子どもたちの負担を考慮して週3日の通学を原則としています。授業ではどんな指導をしているかというと、決して暗記や問題を解く練習に明け暮れているわけではありません。算数であれば、問題解決に向けて、どこに着眼するかを子どもに考えさせ、発表をさせ、複数の考えかたが出てきたら比較検討し、最終的に最もスッキリする解決法へと収束していくような手法をしばしば用います。子どもは、試験でよい点を取りたいという気持ちを強くもっていますが、授業の時間にそんな観念が入り込むことはありません。何しろ考えて解決に至るプロセスは勉強の醍醐味です。それを授業の度に味わうことをくり返せば、自ずと考える姿勢が育ちますし、算数の面白さを知った子どもに成長していきます。それとテストでの成績を巡る競争とは別物であり、子どもの健全性が損なわれるということはありません。

 考える楽しさを味わえる点では国語も同じです。テキストの文章もテストの文章も、限られた時間内で読んで内容を問う形式になっていますから、ある場面が唐突に現れ、読み進めながら最初の場面がどういう流れを受けて登場したのか推理していく思考が促されます。よくできた文章は、それを考えるプロセス自体が楽しいものです。ある授業で、「みんな、この文章が始まる前、どういう出来事があったのかわかる人はいるかい?」と子どもたちに語りかけたときがあります。するとあっという間に手が10本以上上がりました。みんな口々に「ボクに当てて!」「私に当てて!」と言わんばかりに手を高くつき出していたものでした。考えてみれば、テキストの素材文も、テストの素材文も、文学作品や児童・生徒向けの説明文などです。「この場面お前に何があったのだろう」「この後、主人公はどうしたのだろう」と、様々な思考を促す機会をたっぷりと与えてくれます。

 「これって、学校の授業と同じじゃない?」と思われるかたもおありでしょう。確かに似ている面もあります(限られた時間内に、問題も扱いますので、かなりのテンポで授業を進めていきます)。ただし、受験をめざしている、相当に学力レベルの高い子どもたちの集団で行われる授業ですから、扱う内容や要求される思考のレベルもおのずと高くなります。一生懸命に考え抜いて、やっと理解できる課題にたくさん出合います。みんなで一緒に考え、気づきを与えあう時間は実に刺激的で楽しいものです。こういう授業を2年、3年に渡って経験すると、脳内で生じる新たなシナプス結合はものすごい数になります。おそらく、受験をめざすことになったからこそ生じた脳の変化は莫大なものになるに相違ありません。しかも、人間形成期での体験ですから、知識を得ることや考えることへの志向性を高めるうえで多大な貢献をするのは間違いありません。

 弊社では、通学日以外は家庭での自主学習(テキストの学習・授業の復習など)の日と定めています。家庭における勉強の意味は、授業で学んだことを再点検して深め、定着させることにあります。この勉強を成果に結びつけるには、学習計画を立て、それに沿って反復させる必要があります。それを続けていると、先々まで続く学びの生活に必須の要素が備わっていきます。たとえば、確かな学習習慣が身につく」「「何をいつまでにやるのか、見通しを立てて学ぶ姿勢が身につく」「反復して学び、知識や考えを定着させていく姿勢が身につく」などです。これらを育てることなく、何となく小学生時代を終えた場合や、同じ受験をするのでも、大人の指示や命令に基づく勉強をした場合と比べると、学びの姿勢や習慣、自立度で莫大な違いが生じることでしょう。

 長くなりましたが、受験をめざしたことでもたらされる子どもの成長について、授業と家庭学習の2つの側面から考えられることをお伝えしました。以上を簡単にまとめると、次のようになるでしょう。

★受験めざしたことで得られる子どもの成長

1.勉学に向いた頭脳の持ち主になれる

2.中学・高校以後の学習の発展を支える基礎学力が身につく

3.中高一貫校の授業(教育環境)への適応性が育つ

4.自己管理の下で勉強を進めていく姿勢が育つ

5.時間枠の中で行動を切り替える(勉強路遊びなど)力が養われる

6.目標を立て、それを達成するための戦略を編む力が備わる

 結論としては、「中学受験は、子どもの内面の成長にとっても多くの収穫をもたらしてくれる」ということです。ただし、受験をめざしての勉強法を間違えないこと重要です。

 家庭学習研究社は、「子どもの望ましい成長に資する学習指導の実践」を旗印に掲げていますが、この視点を学習塾はもちろんのこと保護者とも共有し、ともに子どもたちの成長を応援してまいりたいと考えています。ご理解ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

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