これからの時代を生き抜くための資質とは!?
4月 26th, 2021
言うまでもなく、弊社会員の保護者はお子さんの中学受験を視野に入れておられると思います。中学受験の対象は、国・公・私立の6か年一貫校です。これらの学校がなぜ人気かというと、優れた教育環境を備え、人間的成長が期待できるだけでなく、大学への進学や社会への参入にあたってもハイレベルな選択が可能となるからでしょう。つまり、お子さんが将来知的な人生、有意義で実のある人生を送ることを願っての中学受験だと言えるでしょう。
ただし、志望校に合格したからと言って必ず期待通りの人生が得られるわけではないことも周知のことと思います。今日の高度な情報化社会、グローバル社会はある意味行き詰っています。特に先進国においては、豊かになった社会がもたらした弊害が深刻なレベルに達しています。高学歴であっても希望する職業につけず、生きる目標を失った若者が多数存在します。
そこで今回は、目の前にある中学受験をどうクリアするかということと同時に、受験の助走をもっと積極的な意味合いで捉え、「どのような受験生活を送っておくことが望ましいか」について保護者の方々に考えていただくことを提案するしだいです。とは言え、筆者にたいした見識があるわけではなく、保護者に説得力のある提案ができるわけでもありません。しかしながら、保護者が目の前の受験をクリアすることだけを考えるか、もっと先も考えるかによって、受験生活は随分と違ったものになりますし、お子さん自身の成長の内実も変わってくると思います。今からお伝えすることが、保護者にとって多少なりとも参考になれば幸いです。
では、今日の社会で求められる資質や能力とはどのようなものかをまずは考えてみましょう。以下は、ノンフィクション作家のイアン・レズリー(英)氏の著書からの引用です。
これからは豊かな好奇心の持ち主が求められる時代になるだろう。雇用主が求めているのは決められた手順をそつなくこなして指示に従うだけでなく、それ以上の貢献ができるタイプだ。つまり自ら学習し、問題を解決し、鋭い疑問を投げかける意欲のある人材が必要とされている。そういった人材を管理するには難しさがつきまとう。個人的な関心や情熱のせいで思いもよらない方向へ寄り道したり、型にはまった考えを押しつけようとするとパフォーマンスが落ちたりするからだ。しかし、そういった難しさを差し引いても、彼らの多くは非常に有益な存在である。
好奇心に満ちた学習者は深く、そして広く学ぶ。専門知識と高度な判断能力を必要とする職務、たとえば金融業やソフトウェア開発といった分野の仕事に向いている。また、異なる分野の知識をつなぎ合わせて新たな知恵を生みだす創造的な活動が得意なことが多く、複数の専門分野を横断するチームで働くのにいちばん適しているのもこのタイプである。つまり、人工知能がもっとも苦手とするような仕事を担う存在だ。ホワイトカラーの職場さえ人間の仕事が急速にテクノロジーに置き換えられつつある世界では、もはや賢いだけでは生き残れない。コンピューターは賢い。だがどれほど高性能でも、今のところ好奇心旺盛なコンピューターは存在しない。
「好奇心の旺盛な人間」のことを、前述のイアン・レズリー氏は「認知欲求の強い人」と表現しておられます。自分の周囲を取り巻く世界のことを「もっと知りたい!」という、強い願望をもつ人が当てはまります。こういったタイプの人間は、何でも近道をしたがる人間とは一線を画し、無駄に終わるかもしれないリスクをあえておかし、探求心や知的欲求を充足させることに喜びを見出します。
では、みなさんのお子さんの認知欲求は今どれぐらいの状態にあるでしょうか。簡単にチェックしてみましょう。以下の10項目について、お子さんの現状に照らし、YESかNOで答えてみてください(質問項目は、イアン・レズリー氏の文献から引用しました。多少調整しています)。
お気づきでしょうが、奇数番号の項目にYESと答え、偶数番号の項目にNOと答えておられれば、お子さんの認知欲求は強いと判断できるでしょう。
好奇心に溢れ、知らないままで済ませたくない人間は、常に探求心を稼働させて知りたいことの本質へと迫り続けます。こういう姿勢をもっていれば、中学高校、そして大学での学びも充実することでしょうし、おそらくやりたいこと、就きたい職業も自分で見つけ出せるのではないでしょうか。そういう人間に成長していけるかどうかは、今の生活の送りかた、受験勉強のありかたと決して無関係ではないように思います。
おたくのお子さんが毎日の学習生活で、「これってどういうこと?」「おもしろい!もっと詳しく知りたい」などと、常に新規の学習事項の中から興味の対象を見つけ出し、夢中になって調べたり考えたりするような傾向が強いなら、認知欲求の強いタイプの人間になれる資質が大いにあるでしょう。このまま成長してほしいですね。
いっぽう、お子さんが新たな分野に興味をもちたがらない、知りたいという欲求を満足させようという姿勢が足りないように見えたなら、もっと認知欲求の度合いを高めるような働きかけを保護者からしていく必要があるかもしれません。受験のためにしかたなくやる勉強では成果もあがりませんし、生きた学力も身につかないからです。
中学受験準備の学習は、どの教科をとっても大人になるうえでの基礎となる内容を携えており、より深く知ろうという欲求を刺激してくれる要素がたっぷりとあります。試しにお子さんのテキストを点検してみてください。算数など、大人ですら解決法を見つけたときは歓声をあげたくなるほどの喜びを与えてくれます。理科や社会は、中学や高校で学ぶ内容と遜色がありません。とても興味深いおもしろい内容がぎっしり詰まっています。国語の素材文を読むと、大人でも感激したり、悲しみに沈んだりすることもあります。そうした教科の面白さや奥行きの深さにふれる醍醐味を、お子さんと共有する時間を設けてみてはいかがでしょうか。
もうすぐゴールデンウィークがやってきます。通年であれば、行楽地に出向くプランもあるでしょうが、今年はコロナの第4波のさなかにあり、レジャーどころではありません。家の中で過ごすことが多いでしょうから、おとうさんやおかあさんが「今、どんなことを勉強しているの?」と声をかけ、お子さんの学んでいることに少しばかり関わってみてはいかがでしょうか。お子さんに「これって面白いよね」などと声をかけ、感想をやりとりすることで、よい刺激を与えることができるかもしれません。
中学受験の勉強は決して無味乾燥なものではありません。人生を生き抜くうえでの知恵を授けてくれるものであり、心豊かな人間に成長するために欠かせないエネルギーを注ぎ込んでくれるものです。お子さんがそのことに多少なりとも気づいたなら、勉強への取り組みも積極性を帯びてくることでしょう。窮屈で不便な今年のゴールデンウィークですが、転じて家族の絆を深め、お子さんの認知欲求に火をともす有意義なひとときにしていただければ幸いです。
※今回の記事は、「子どもは40000回質問する」イアン・レズリー/著 光文社 を参考(一部引用)にして書きました。