子どもの頃のほめられかたが人生を決める?

8月 10th, 2021

 早いもので夏休みも後半を迎えています。高学年部門(4~6年生)では、前半の講義形式の講座を盆前に終了し、盆明けからは演習形式の講座へ移行します。低学年部門(1~3年生)の夏の講座は盆前にすべて終了します。3年生には、「ぐんぐんワーク」という家庭学習用教材を配布していますので、盆明けからの家庭学習に組み入れていただきたいと思います。

 蒸し暑い夏休みとは言え、エアコンのある部屋で勉強すれば問題ないように思えますが、冷房の効いた部屋と、そうでない場所とを行き来すると体がダメージを受けてしまい、結局ダラダラと集中力を欠いた勉強に陥ることになりがちです。無用の外出は控えめに! 勉強にあたっては予め学習に必要なものを整えておき、決めた時間になったらウロウロせず集中して取り組むようお子さんを促してあげてください。今の時期は、長くやってもその割に効果は薄いものです。「集中型」の勉強を心がけていただきたいですね。

 さて、弊社では子どもたちの自律的学習の増進に向けて、ご家庭との連携を深めるため、ワークショップ形式の催しを定期的に実施しています(現在はコロナ禍にあって、実施していません)。そのとき、保護者の方々に「将来、お子さんにはどんな人間に成長してほしいですか?」とお尋ねすることがよくあります。その願いと呼応した家庭教育のありかたを考えていただくためです。

 すると、多くの保護者は「何事もあきらめず、やり通す人間になってほしい」「責任感のある人になってほしい」「信念をもって生きていく人に」「困難に負けない人間に成長してくれたら」など、いろいろな回答をくださいます。これらは「前向きな人間に」という共通の願いが込められているように思います。みなさんはどうですか? 今一度、お子さんの成長に対する期待がどのようなものかを、振り返ってみてはいかがでしょうか。

 アメリカの心理学者アンジェラ・ダックワース氏の著書に、「おとなになって成功や失敗をしたとき、その原因を自分の才能に結びつけるか、それとも努力に結びつけるかは、子どものころの『ほめられ方』によって決まる確率が高い」という指摘がありました。子どものころ、自分のしたことを努力と結びつけ、「がんばったからだね」とほめられるか、それとも「才能があるんだね」とほめられるかで、子どもの内面に宿るものが変わってくるというのです。

 以下は同じ書物からの引用ですが、どのような対象年齢にも適用できる声かけの例として紹介されていました。ちょっと目を通してみてください。

 左側が、能力を軸に置いた声かけで、右側が努力を軸に置いた声かけであることがわかりますね。能力という視点から大人が子どもを評価すると、たとえそれがほめ言葉でも子どもによい影響を与えません。「いつもほめられないといけない」というプレッシャーを子どもが感じ、無難な結果を得られる行動を選択するようになりがちです。失敗を恐れるあまり、冒険したり挑戦したりする姿勢を失ってしまうのです。いっぽう、努力という視点から評価された子どもは、たとえ失敗をしても、「つぎにがんばればうまくやれるかもしれない」という気持ちを支えに、「きっとがんばればやれる!」と、希望をもつことができます。このくり返しが、何事も最後までやり抜く姿勢につながるわけです。

 また、「何事も才能で決まる」と教えられた子どもは、たとえ人生で成功者になれたとしても、他者の気持ちを斟酌する姿勢を欠き、うまくいかない人、弱者に手を差し伸べる思いやりをもたない人間になるおそれが多分にあります。政治家などに、そういう傾向を感じる人物をよく見かけますね。いっぽう、「努力すればやがてはうまくやれる」と教えられた子どもは、成功者になってもうぬぼれることはありません。うまくいかないで苦しんでいる人に手を差し伸べる温かさを携えた、すばらしい人格のもち主になることが予想されます。上表の対応例は、実場面で応用できる要素が十分にあると思います。ぜひ参考にしていただきたいですね。

 さて、筆者はかつて地元新聞社のカルチャースクールで、知育をテーマに掲げた講座をもっていたことがあります。そのときも、「努力の度合いを尺度に置き、結果に関わらず努力の跡が感じられたなら子どもを大いにほめてやりましょう」「たとえ成績が上がっても、努力によるものでなければ、親は単純には喜ばないということを姿勢で示しましょう」といったことを参加された保護者にお伝えし、実践の結果をレポートに書いてもらったことがあります。以下はその一部です。

今までよくないほめかたをしていたと思います。そこで、サッカーでがんばっていたり、勉強でいい点を取ったりすると、具体的に子どもの努力を見つけて声かけをしました。すると、本当に嬉しそうに笑顔になってくれます。「今度もがんばるよ」という一言が印象的でした。
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運動会で「よくがんばったね。とってもカッコよかった!!」と言うと、満足そうに「うん」と言っていました。本心そう思ってほめるときは上手くいくのですが、「これぐらいでもほめなきゃ」と思ってほめると、「あっ、そう」で終わってしまいます。
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私は自分でもよくほめるほうだと思っています。しかし、この講座で学び、私のほめ方は悪いほめ方で、子どもに評価を下し、レッテルを貼るほめ方だったと気づきました。「いい子だね」ではなく、子どもがしてくれたことを素直に喜び、頑張りを具体的にほめるようにしました。すると不思議なことに、自分から進んで手伝いをしてくれるようになりました。お皿を洗ってくれた時、「ありがとう。水切りがおかあさんより上手よ」と言うと、照れ笑いし、「また洗うよ」と言ってくれました。
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「いい子」とか「優しい子」とかを言わないようにし、よいほめかたをするようにしたら、子供にプレッシャーがなくなったのか、伸び伸びしてきたように思います。
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「褒める」にも言われて嫌な褒め方やプレッシャーになる褒め方があるんですね。仕事で疲れている私を見て、子供は「僕にできることは手伝うよ」と言ってくれます。「ありがとう。助かるわ」と素直に感謝の言葉が出たときは、お互いプラスのエネルギーが湧いてきます。しかし、二人とも疲れているときは、私に余裕がないために余計なことを言って嫌な気持ちにさせていました。私は子どもの言葉で癒されていたのに、子供は私の言葉で癒されることはあまりなかったのではないかと反省しました。

 親子関係は毎日の積み重ねで築かれます。また、子どもの人間性も、毎日の親子のやりとりを通して確立されていきます。努力を見てほめる親の元で育つと、子どもは「自分はほんとうに努力していたか」を自らに問いかけ、自分の行動を適切に評価しコントロールできる人間に成長していけるのですね。

 上述のダックワース氏の著書に、アメリカの某有名人が言ったとされる言葉が紹介されていました。それは、「子どもは大人の言うことを聞くのは得意じゃないが、まねをするのは抜群にうまい」というものでした。大人のほめる姿勢が一貫していればそれはそのまま子どもの価値観として受け継がれるし、行き当たりばったりのほめかたをくり返していると、子どもはその場その場を適当にやり過ごしてしまうタイプの大人になるかもしれません。

 お子さんの受験生活を見守り応援する生活は楽ではありませんが、成長の途上にあるお子さんとのやり取りは、そのままお子さんに写し取られるものです。今こそ親のがんばりどころと心得、悔いの残らぬ家族生活を送っていただきたいですね。

 夏休みは、家族が一緒にいる時間がいつもより多い時期です。イライラすることも多いでしょうが、一緒の時間を大切にお過ごしください。

※上表は「やり抜く力」アンジェラ・ダックワース/著 ダイヤモンド社(2016年)より引用しました。
※今回の記事内容は、7月5日に掲載した記事と内容的にリンクしています。よろしければ、そちらもお読みください。

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