緊張は受験生の敵? それとも味方?
12月 26th, 2021
1年が経つのは早いものですね。気がつけば2021年も余すところあと数日となりました。今回の記事も年内の最終回です。
このブログは長文であり、形式や内容はコラムに近いため、日記のように気楽に短時間で書き終えることができません。それでも2008年11月の開始以来、八百数十回も継続して来られたのは、お読みくださるかたがたくさんおられたからに他なりません。受験塾のアピールの場にするだけが目的なら、ここまで長きにわたって多くの記事を書くことはなかったろうと思います。「成長途上のお子さんをおもちのご家庭に、多少なりともお役に立てれば」という思いがあったからこそ、こんなに続けられたのだと思います。書くことの楽しさ(同時にしんどさもありますが)は、生きがいや充実感を与えてくれるかけがえのないものです。読者の皆様にはこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
さて、この11月に実施した2回のオンラインセミナー(広島学院編・ND清心編)をきっかけに、「受験での緊張をどうしたら克服できるか」について考えることになりました。当初は「緊張は厄介なもの」という前提で、その回避方法を考えたのですが、しばらくして「待てよ、緊張するのは悪いことだろうか」と思うようになりました。その理由ですが、緊張がある程度ないと集中力や気合は働いてくれません。また、「受験の際は少し空腹状態のほうがよい」とか、「多少寒気を覚えるくらいの服装で試験に臨め」という、試験で好結果を得るための教えが昔からあります。これらの教えは理に適っています。体のセンサーが危機を訴えることで、脳の神経が研ぎ澄まされ、頭脳の働きが鋭敏になるからです。つまり、人間のパフォーマンス発揮にとってマイナス要素と思われていることは、意外にもプラスに作用することがあるわけです。
そこで緊張はよいことか、悪いことかという話になります。もうおわかりでしょう。緊張するのはよいことであり、緊張は受験生の味方なのです(もちろん、程度問題ですが)。それを裏付けるかのように、有名なスポーツ選手の多くが緊張することは必要だと述べています。たとえば、世界的に名の知られる日本人アスリートが、次のようなコメントを残しています(書物からの引用です)。
①テニスの世界ランキング選手になった錦織選手
「毎試合、緊張しますけれど、それは決して悪いことではないと思うし、その緊張も力に変えられるようになったら強いですよね」
②サッカーの英国プレミアリーグで活躍した岡崎選手
「全ての試合で緊張します。重要な試合に限らず、日々の試合も全て、緊張して当然。逆に緊張しないとまずいと思います」
③アメリカのメジャーリーグで活躍したイチロー選手
「緊張しない人はダメだと思う」
どうやら緊張を恐れ、回避しようとする人ほど失敗しがちであり、緊張を受け入れて味方にできる人は高いパフォーマンスを発揮して成功できるようです。この点に鑑みるなら、緊張の呪縛から解放されるための第一歩は、「緊張は失敗のもと」という固定観念を捨てることだと言えるでしょう。
先ほどご紹介したアスリートのコメントは、精神科医の樺沢紫苑氏の著書(最近、緊張に関する書物を探して見つけた本です)から引用したものですが、この書物に面白い記述がありました。私たちは普段の生活で、「今日はテンションが上がらない」とか「調子が悪いので、もっとテンションをあげよう」などと言うことがありますが、この“テンション”という言葉は日本語にすると、“緊張”です。このこと一つとっても、緊張は物事をはかどらせるうえでマイナスになるもの、邪魔なものなどではありません。集中力や気合とリンクしており、ないと却って困るものなんですね。
今から100年余り前、緊張しない状態よりも、適度に緊張したほうが高いパフォーマンスを発揮できるということを、心理学者のロバート・ヤーキーズとJ.D.ドットソンが発表しました。この説は、今でも広く世界中に行きわたっています。二人の博士は、黒と白の目印を区別するよう訓練したマウスに、電気ショックの程度を変えながら、目印を区別する際の正答率がどのように変化するかを調べました。マウスの緊張の度合いと頭の働きの関連性を調べたわけです。
その結果、電気ショックを強めると正答率が上がるいっぽう、電気ショックが強すぎると逆に正答率が下がることがわかりました。つまり、緊張が緩すぎても、強すぎてもパフォーマンスは上がらず、中間の「程よい緊張」がパフォーマンス発揮に有効だという結論に至りました。
上図を見ていただくと、曲線がUの字を逆さまにした形、すなわち逆Uの字になっています。きわめてリラックスした状態ではパフォーマンスはほとんど発揮できず、緊張の度合いにして中間あたりの状態で最もパフォーマンスが上がります。そして、緊張の度合いがさらに上がり、ピークになった段階になるとパフォーマンスはほとんど発揮できなくなります。この状態は、試験で言うと、いわゆる「頭が真っ白」「パニック状態」のときと一致するでしょう。
わが身を振り返ってみると、このブログ記事を書く作業も、あまりリラックスしている状態だと全然はかどりません。ボーっとしたり注意散漫になったり。読者の方々にお伝えしたいことが明確に絞り込まれ、書こうという意欲とテンションが程よく高まったときに一気にキーボード上の手指が動きます。こういうときには、たくさんの情報を頭のなかで保持しながら、それらを整理整頓して文章化する作業がはかどります。他のことが頭をよぎることはなく、とても集中した状態になります。
ともあれ、みなさんが今望んでおられるのは、お子さんが入試でベストを尽くせる状態を得ることだと思います。そうすると、「なぜ程よい緊張のときに頭がよく働くのか」や、「程よい緊張状態はどうやったらつくれるか」「試験会場で強い緊張をほぐすにはどうしたらよいか」などが関心事であろうと思います。これらについては、今回参考にした本の著者が具体的に説明しておられるので、次回ご紹介しようと思います。とりあえずは、お子さんに「緊張するって当たり前のことだし、ほどほど緊張していたほうがむしろ頭がよく働くんだよ」と、アドバイスしておいていただきたいですね。
2021年のカウントダウンが間もなく始まります。年が明けたら、いよいよ中学入試本番がやってきます。コンディションを整え、万全の体制で入試に臨みましょう。みなさま、よい年をお迎えください。
※今回の記事は、「いい緊張は能力を2倍にする」樺沢紫苑/著 文響社 を参考にして(一部引用)書きました。