中学受験のほんとうの価値はどこにある? その2

3月 21st, 2022

 今回も前回に引き続き、中学受験をすることの価値について考えてみようと思います。無論、行きたい学校への進学の夢を叶えるための受験ですから、「合格」をめざす強い意志に基づいて学ぶ必要があるのは言うまでもありません。しかしながら、中学受験の勉強を通して得られるものを他にも知っていたなら、心身の成長期に受験をすることの意義はさらに高まるのではないでしょうか。そのことに立脚し、適切な見守りやフォローをするのが大人(保護者や学習塾)の役割であろうと思います。

 前述のように、受験生は成長途上の年齢期にあります。子どもが先々心豊かな人生を歩むことを期待するなら、合格以外の成果としてどのようなものが得られるのかを、いろいろな角度から検証することは決して無駄なことではありません。また、合格以外に大切なものの価値を見誤らないことが、進学の夢の実現と、その先にある人生の歩みに希望の光をともすことにつながるのだと筆者は考えています。

 さて、それでは今回みなさんにお伝えしたい事柄を順次取り上げ、子どもの成長との関わりについてともに考えていただこうと思います。

 

③ 学問に造詣の深い人間へと成長するための基盤を築ける。

 中学受験対策の勉強は、どう取り組むかで内面の成長の様相を大きく変えます。進学のための手段としての学習に終始するか、それとも新たな知識や考えを獲得する過程で得られる楽しさや喜び、興奮など、心的な充足感に惹かれて学習するかは、おのずと人間形成にも影響を及ぼします。

 テストでよい点を取りたい、受験で合格したいという思いは誰しも同じでしょう。しかしながら、学習を通して未知の世界に惹かれる体験を数多くするほうが、心の充足につながるし、将来到達する知的水準が高くなるのは疑いようがありません。そもそも人間が学ぶのは「何かのため」ではありません。「目の前の学習対象そのもの」に真の学びの目的があると言われます。すなわち、「知りたい」「解き明かしたい」という願望を成就することこそ、人間が心血を注いで学ぶ理由なのです。こうした体験を成長著しい時期に繰り返すと、将来学問に造詣の深い人間になる可能性が高いのは間違いありません。

 そこで保護者に留意していただきたいのは、テストで好結果をあげることを期待するのは当然としても、それを必要以上に子どもに要求するのは控え、それぞれの教科の勉強の中にある楽しさに子どもが気づき、興味をもって取り組むようフォローすることです。わが子が、少し難しい算数課題をやり終えたときなど、「よく解けたね」とほめた後、どのような思考の道筋を辿って解いたのかを尋ねると、一生懸命になって説明してくれるかもしれません。そういう経験を通じて、子どもは自分に自信をもつこともできるし、勉強がより好きになる可能性もあるでしょう。

 受験勉強は楽なものではありません。それどころか、かなりの負担を強いられます。だからこそ、興味をもって前向きに取り組む体験へと転じるよう、大人がうまく導く必要があるのだと思います。

 

④ メタ認知的な思考や行動の様式が身につく。

 これはテスト対策の勉強に限りませんが、ものごとで確実にスキルアップしていくためには、自分ができていることとできていないことを客観的にとらえ、問題点を見つけては修正をはかる必要があります。このように、自分の認知の状況を認知することを「メタ認知」と言いますが、それができるかどうかは、ものごとのはかどりに大きな影響を及ぼします。

 メタ認知的な思考や行動は、受験勉強のような時間や労力を要する目標の達成プロセスに大きな作用を果たします。テストで得たデータを検証して成果と課題を洗い出し、不十分な点や当面の課題を埋め合わせていくことをくり返すか、それをしないまま次の勉強に進むことをくり返すかで、同じレベルにあったはずの受験生の学力が、1年もすれば大きな違いとなり、受験での結果を決めることになります。

 そこで弊社では、テスト結果が返ってきた後、自分の答案を点検し、必要に応じて弱点や足りない点を埋め合わせるよう指導しています。まだ新年度の講座が始まったばかりですから、テスト結果を検証して必要な手当てをする習慣を定着させることを怠らないよう、ご家庭におかれても助言やフォローをお願いいたします。

 すでに出たテスト評価を覆すことはできません。そこで、どうかすると悪かった過去のテスト結果を埋め合わせることよりも、つぎのテストへの備えのほうに気を取られがちです。しかし、過去の失敗の原因をしっかり掌握し、つぎに同じしくじりをしないよう対処する姿勢を身につければ、やがて無用な失敗をしないようになりますし、自分に合った勉強法を見出すこともできるようになります。

 ぜひ、今のうちにテストと併行して、自分の勉強の現状を客観視し、より効果的な勉強をしていくための体制を築いていきましょう。それはやがて中学校進学後の学習において強い武器になり、学習の進展に寄与することにもなるでしょう。

 

⑤ 生涯変わることのない親子の信頼関係を築ける。

 中学受験は、親の協力なしには成立しない受験です。はじめから完成された取り組みのできる子どもは皆無であり、不完全、不十分な勉強を繰り返しながら少しずつ要領を理解し、自立した勉強へと前進していくべきものです。弊社はそういったプロセスを通して子どもたちの成長を促すプログラムに基づいて指導しています。

 しかしながら、このような受験生活はご家庭の保護者にとってはストレスの種にもなりがちです。取りかかるべき時間になったのにいつまでもテレビにかじりついていることもあるでしょう。やっと机に向かって勉強し始めたと思ったら、すぐにゲームをいじり始めていることもあるでしょう。散々なテスト結果をもらって帰ったというのに、少しも反省している様子が見られないこともあるでしょう。

 こういった不完全な勉強を見ていると、たまりかねて怒鳴ってしまう保護者もおありでしょう。ですが、親として何を期待しているのかをあきらめずにわが子に伝え、「どうすべきだったか」を問いかけること、少しでも進歩していることがあったら、それを見逃さずにほめて元気づけることをくり返していると、やがて子どもは親が何を自分に期待しているかを理解し、少しずつその期待に沿った行動をするようになっていきます。

 思い通りにならないわが子に癇癪を起すことなく接し、辛抱強く親の気持ちを伝える。どうすべきかを子どもに問いかけ、できるようになるまで励まし続ける。その繰り返しの中で、少しずつ受験生としての自覚を高め、やるべきことが自分でできるようになるまで温かく厳しく応援してくれる。それができるのは、世界中探しても、おそらくその子どものおとうさんとおかあさんしかいないことでしょう。

 おとうさんおかあさんのご苦労は並大抵のものではありません。しかし、それで得られるご褒美もかけがえのないものです。それは一生ものと言ってもよい「親子の信頼関係」に他なりません。やがてお子さんは親の元を離れていき、独り立ちしていきます。そのとき、「うちの子はそれなりにやっていけるだろう」と信じて送り出せる信頼関係を築いていれば、どんなに心強いことでしょう。中学受験のプロセスは、この強い信頼関係を築く絶好の媒介となるものです。

 

 他にも、中学受験のプロセスで築ける素晴らしい宝物はあるでしょう。今回は、筆者が思いつく大切なものを5つほど取り上げてみました。新年度の講座は始まったばかり、ですが、すでにスタート時の気持ちが揺らいだり混乱に陥ったりしている保護者はおられませんか。今回の記事で参考になる点が少しでもあれば、それをもとにもう一度受験生活の立て直しを図っていただきたいと思います。

 

 初心を忘れず、現状を冷静に見届けながらわが子を応援してまいりましょう!

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