‟やる気”や‟学習意欲”とはどういうものか
2025 年 3 月 14 日
「うちの子はやる気がなくて、いつもイライラしてしまいます」「どうしてわが子はこんなに意欲がないんでしょうか」――ときどき、このような相談を受けることがあります。かつて国語の指導現場にいたとき、保護者面談の際にはこの種の話題が頻繁に出ていたのを思い出します。そこで今回は、中学受験をめざして勉強している子どもたちのやる気や意欲について書いてみようと思います。
「学習意欲が高いと、同じ勉強をしても多くの成果が得られるだろう」と、誰でも思います。だからわが子に「もっと意欲を!」と願っておられるのでしょう。では、その意欲とはどういうものかと問われると、「やる気があること」としか思い当たらず、堂々巡りになる人がおられるかもしれませんね。学習に向けた意欲は、学ぶことへの欲求が高まり、その欲求を実現しようとする心の働きを言います。ただし、子どもが学ぼうとするのは、単純に「知りたい」という純粋な好奇心から来る欲求だけではありません。進学目標ができたから、親に認められたいから、自分の可能性を確かめたいから、新しい何かを知ったときの喜びを体験したからなど、欲求を喚起する動機づけは様々です。そこで教育心理学、学習心理学などの書物を繙き、今更ですが学習意欲とはどういうものかを整理しカテゴライズしてみました。
学習意欲とはどのようなものか
1.自分を高めるために努力しようという心の働き(自己向上心)
2.他者に認めてもらいたいという心の働き(承認欲求)
3.途中でやめずに最後までやり遂げたいという心の働き(完遂欲求)
4.ある目的のために、他のことを我慢しようという心の働き(自己制御)
5.他者に言われるのでなく、自分から進んでやろうとする心の働き(自発性)
6.他者に頼らず、自分の力で解決したいという心の働き(自立性)
上記は、専門書の著述をもとに筆者がまとめたものです。カッコ内は、保護者の記憶に残りやすくするために簡潔な言葉で表したものです。6つがどれぐらいお子さんに備わりつつあるでしょうか。こうしてみると、学習意欲は生まれつきに備わっていた要素が年を経るほどに顕在化していくというよりも、子育ての過程で保護者が育んでいくべきもののような気がしますが、どうでしょうか。もしもそうなら、子どもに「もっと意欲をもちなさい!」と要求しても意味がないことがわかりますね。
1.自分を高めるために努力しようという心の働き(自己向上心)
子どもの勉強は親の接しかたで変わります。日々努力を奨励し、その日その日に日課として定めた勉強に一生懸命取り組んでいたなら、テスト結果がどうであろうとまずは努力したことを大いにほめましょう。「テストは残念な結果だったけど、あなたはとてもがんばっていたよね。おかあさんはそれがうれしいよ」と伝えてやるのです。子どもは誰でもよい点を取りたいのですから、親の声かけに反応し、「何がいけなかったのかな?」と振り返ります。このくり返しと取り組みの修正が結果に表われ、自己向上心を一層高めるという好循環が生じるのではないでしょうか。
2.他者に認めてもらいたいという心の働き(承認欲求)
最近、フィギュアスケートでメダリストをめざす少女(もはや年齢的に遅いとみなされる10歳頃からスケートを始めた)を主人公にしたアニメが人気だそうですが、その少女のコーチのほめ上手ぶりが話題になっていました(このコーチも、かつてオリンピックのメダリストをめざしたものの、挫折した経験がある)。うわべのほめかたではなく、子どもの演技技術上達の陰にある工夫や努力の積み重ねに目を向け、子どもの心に響くほめかたをしているのだそうです。大人の真意を子どもは見抜きます。単なるアニメのつくりごとの域を超え、真理をついた話だと思いました。みなさんも、お子さんの毎日の何気ない取り組みの中によい点を見出し、ほめていただきたいですね。そうすれば、親に信頼されているという実感が、子どもの意欲を大いに刺激することでしょう。
3.途中でやめずに最後までやり遂げたいという心の働き(完遂欲求)
みなさんは「一旦始めたことは最後までやり通そう」と日頃からわが子に伝え、うまくいかなくてもすぐにはあきらめず、試行錯誤を繰り返すよう促しておられるでしょうか。ちょっと躓くだけですぐに見切ってしまう癖をつけると、何をしても続かないタイプの人間になりがちです。だからこそ、親は結果ではなく、最後まで粘り強く努力したかどうかを評価の軸に置き、その様子を応援したりほめたりすることが肝要でしょう。これがやがて成功体験へとつながります。無論、親自身のものごとに対する取り組み姿勢を子どもは見ています。そのことも忘れないようお願いいたします。
4.ある目的のために、他のことを我慢しようという心の働き(自己制御)
幼児は、「しばらく我慢すればお菓子を多くあげるよ」と言われても、今貰える僅かなお菓子に執着しますが、成長につれて合理的判断ができるようになります。こうした姿勢は、子育てで強化することが可能です。たとえば、わが子が高価な遊具を欲しがったとき、すぐ買い与えるのではなく、しばらく小遣いの一部を貯金させます。そして、ある程度溜まったところで親が不足分を足して誕生日プレゼントとして買い与えると、子どもの喜びはすぐ買ってもらうよりはるかに大きなものになります。欲しいという気持ちを長期間維持することが、より大きな充足感につながるのでしょう。今、本音は遊びたいけど、やるべき勉強をしてから遊んだほうが気持ちよい」と考える子どもに育てたいものですね。
5.他者に言われるのでなく、自分から進んでやろうとする心の働き(自発性)
誰でもそうですが、同じことでも、人に言われてやったのか、自分から率先してやったのかによって、充足感がまるで違います。勉強もそうで、親に「凄いね。自分から机に向かったんだね」と言われたほうがはるかに気合が入ることでしょう。なかなか勉強を始めないわが子にしびれを切らし、「早くやりなさい!」と叱っておられませんか?これでは勉強の自立は遅れるばかりです。勉強に限らず、わが子がやるべきことに率先して取り組んでいる瞬間をとらえてほめましょう。そして、人にコントロールされるのではなく、自分の意思でものごとをコントロールするほうが誇らしい気持ちになるし、気合も入るということを実感させましょう。
6.他者に頼らず、自分の力で解決したいという心の働き(自立性)
これがいちばん難しいかもしれません。何事も自分の力でやれないのが児童期の子どもだからです。「自分の力でやる!」という意志は、上記の1~5の要素の進展とリンクしています。ですから、「これぐらい一人でやりなさい」と命じるより、子どもが勉強課題に難渋しているときは、「難しいことをやっているんだね。ちょっと見せてくれない?」と声をかけ、一緒に考えるのもよいでしょう。そして、「つぎは自分でやりたい」という子どもの気持ちを少し刺激して手を引けばいいのです。以前も書きましたが、自分でできないとき、他者の助けを仰げるかどうかも自立の重要要素です。親の適度なサポートは、子どもが学校や塾で臆せずに先生に質問できる力を養うことにもなります。
学習意欲は移ろいやすい面もあり、毎日の生活で生じる出来事や他者との関係性で高まったりしぼんだりしがちです。ですから、高い学習意欲をもった子どもにするための関わりは子育ての一環として常に欠かせないものだと言えるでしょう。ご承知のように、子育てには1日たりとも休みというものがなく、毎日の生活場面で継続しなければならないしんどい仕事です。しかし、その集大成として得られるのが子どもの健全な成長です。常にベストを尽くせるとは限りません。接しかたを誤ることもたびたびです。ですが、そこまで気にする必要はありません。子どもには賢い一面もあります。一生懸命な親の真意を悟らないはずがありません。「きっとわが子はわかってくれる」と信じて、日々子どもの様子を注意深く見守り、ためらうことなく子どもを導きましょう。