カドヤは、オンボロ食堂で、店にはテーブルが一つあるだけです。メニューだって、ちょっとしかありません。ひやしコーヒーと、ソフトクリームと、それから、ひやしコーヒーの中にソフトクリームをいれた、クリームコーヒー。そしてさいごにもう一つ“うな丼”っていうのがありました。

　だけど、カドヤをりようしている人ならだれだって、これがまぼろしのメニューだということを知らないものはいませんでした。

　 ぼくはずっと、ある男の人が“うな丼”をちゅうもんするのを見たことがあるけど、そのときのカドヤ食堂のおじさんの目つきといったら、どんな人だってちぢみあがらすのに十分でした。すると、おきゃくの男の人は、あわてて注文を変更しました。ぼくの友だちも、なんどかおなじようなばめんを見たそうです。

　 ある日、ぼくは勇気をだして“うな丼”を注文してみました。