ある町に「ライオン軒」という、古いレストランがありました。店の主人は、正吉さんという、とびきりうでのいい、コックさんです。

　 それにしても、正吉さんの若い頃に比べたら、お客さんはずいぶんと減りました。近くに大きなファミリーレストランができたからです。

　そこには、たくさんのメニューがありました。それに比べてライオン軒は、昔からオムレツにチキンライス、そしてホットケーキと決まっていましたから。

　そう、正吉さんは、五十年も同じ味を守ってきたのです。お客さんが減ったわけは、もう一つ。一緒に働いてきた奥さんが、半年前に亡くなったのです。それからというもの、正吉さんも、すっかり元気をなくしてしまったのです。

　 ある日、正吉さんは店を閉めた後、つぶやきました。
「もう、やめようと思うんだ」
　すると、
「正吉さん、もう少し、がんばってみませんか」
という声がしたのです。その声は……。