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3年生の今月の本


キワさんのたまご タイトル キワさんのたまご
著者 宇佐美 牧子(作) 藤原 ヒロコ(絵)
出版社 ポプラ社
 

 今日は夏休みの初日。午前中に学校のプールへ行ったけれど、友達は合宿や塾でだれもおらず、一人ぼっちで過ごした。親友の颯(そう)太(た)は、今日からサッカーチームの練習に行っている。颯太からは、「サッカー、いっしょにやろうぜ」と何度もさそわれた。でも、なんとなくちがう気がしたんだ。おかげで、去年の夏休みまでは毎日颯太とあそんでいたぼくは、急にひまな夏休みをすごすことになった。
 玄関でガチャガチャッと音がして、母さんが帰ってきた。うちは、駅前商店街で弁当屋をしている。父さんと母さんが帰ってくるのはいつも夜遅いから、夕方に一度、母さんがぼくのために弁当を届けてくれるんだ。母さんが、今日の弁当を開けて見せてくれた。色どりがきれいで、とってもおいしそうだ。母さんは、弁当を手にしたまま、おじいちゃんが子どもの頃に作ってくれた弁当の思い出話をはじめた。弁当の話をするときはいつも、母さんも父さんもうれしそうで楽しそうな特別な顔になる。
でもぼくは、母さんや父さんのそんな顔を見ると、すきま風がぬけていくみたいに胸がスースーする。母さんも父さんも、弁当の話になると夢中になって、他のことは全部後まわしだ。母さんは、昔おじいちゃんが弁当にこめた思いには気づいたくせに、今のぼくの気持ちにはちっとも気づかないんだ。ぼくがどんな思いをかかえているのかも知らないで・・・。
ぼくは、きれいな色どりの弁当を前にして、はしへのばしかけていた手をすっと引っこめた。

●周りの人達がみんな夢中になれるものをもっているのに、自分だけ何ももっていないと感じると、とても寂しい気もちになることがあります。主人公のサトシも、弁当作りに情熱を注ぐお父さんとお母さんや、サッカーに打ち込む親友の姿を見ていると、自分だけが取り残されてしまったような不安を抱えています。さて、複雑な気持ちを抱えて過ごすサトシは、夢中になれる何かと出会うことができるのでしょうか?

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