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3年生の今月の本


ふたりでひとり旅 タイトル ふたりでひとり旅
著者 高森 千穂
出版社 あかね書房
 

 その日ぼくは、算数塾に行こうとしていた。大きらいな算数を、学校から帰っても勉強しなきゃいけないなんて……ぼくは足を引きずるように歩いていた。
 交差点の信号がチカチカしはじめたので、とっさにぼくはかけ出した。そのとき、目の前に車がつっこんできた。《あぶねえ!》とつぜん、耳もとで声がして、だれかに右うでを強く引っ張られた。
「うわっ、体がかってに動いてる!」
《かってに動いてるんじゃねえよ。おれが動かしてるんだ。》
 頭の中で声がした。
「き、きみ、だれ?どこにいるの?」
《おまえの体の中。》
 しゅんかん、ぼくの背すじが、ぞぞぞと、こおりついた。

 ぼくをたすけてくれたゆうれい、真一。真一は、交差点で交通事故にあって死んだという。車にひかれそうになって、真一のたましいの真上にぴったり立ちどまったぼくは、真一を取り込んじゃったのだ。
「たすけてくれて、ありがとう。でも、いつまでぼくの体の中にいるつもり?」
《一生取りついている気はないよ。ちょっとだけ、使えればいいから。》
 でもかってに体を使われるのはこまる。
《じゃあ、三つ。おれの願いが三つかなったら、ぬける。》
 真一の声は真剣だった。ふいにぼくは、真一がかわいそうになった。ちょっとぐらいなら、体をかしてあげてもいいかなあ。

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