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4年生の今月の本


今江祥智メルヘンランド タイトル 今江祥智メルヘンランド
著者 今江 祥智
出版社 理論社
 

 顔かたち、育ち、毛なみからもちろん気だてまで……。兄弟にはよくあることだけれど、その2ひきのねこも、ずいぶんとちがっていた。

  何がちがうといって、兄さんねこのほうは、とにかくせっかち。食事をもらうとすぐに、まるで犬みたいにがつがつ食べてしまう。弟ねこは、反対にのんびりやでおっとりしているけれど、兄さんねこのやさしくあまいなき声とは似ても似つかぬ、あひるのようながらがら声だった。

  そんな2ひきを飼うことになったばあさまは、じゃれあう2ひきをうっかり見まちがえてしまった。せっかちな兄さんねこに「アンダンテ」(ゆっくりと、という意味)、あひるのようながらがら声の弟ねこに「カンタービレ」(歌うように、という意味)と名づけたのだ。名前が反対ならぴったりなのに、とだれもが思ったのだが、もうておくれだった。

「おまえ、ほんとにアンダンテかいなあ。名まえどおり、もっとゆっくりたべなはれや。」

 そう言われても、舌と足のほうでかってにうごいてくれるのである。ケーキなんてひと口でペロンとのみこんでしまうから、味もよくわからない。カンタービレのように、時間をかけてミルクをのみほし、ケーキもすこしずつ上品に、かわいらしくかじれるようになりたい……と、アンダンテはどのくらいなやんだことか。

 反対にカンタービレだって、声をあげてなくたびに、
「それが歌かいな。名まえどおり、もっと歌うように ―― ないてみなはれや。」
ときまって言われるものだから、なやみになやんだ。

  せめてアンダンテの、あのあまいやさしい声の半分でいいからなくことができたらなあ……と思うのに、どうみてもあひるか、かえるにしか聞こえない声しか出てきてくれないのだ。おっとりとおちついて、たぶん、りっぱなねこに見えるだろうぼくが、いい声でなけたなら、もっとねこらしく見えるにちがいないのにもう……と、こんなぐあいで毎日はすぎていった。

 そんなある日、2ひきにとって大きな事件がおこった。いままで「しゅみ」というものがなかったばあさまが、すもう見物をはじめたのだ。

  夜ふかしをして、テレビのスポーツ・ニュースで大すもうダイジェストを見るようになったばあさまに、2ひきもおどろきながらつきあった。そしてそのうち、2ひきは勝ち負けのときのきまり手をおぼえはじめ、庭でただじゃれるだけでなく、すもうの手口をつかって遊びはじめたのだ。

  なにしろ、まわしがないからやりにくく、下手をすると、あいてのわきばらにつめをたてることになったのだが、2ひきはすもうが楽しくて、けいこにはげんだ。それこそ、のらねこはおろか、ちょいとしたのらいぬ相手にやっても勝てそうなくらいになるところまで。そして、大ずもうの千秋楽がおわった夜のこと ――

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