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4年生の今月の本


今江祥智ファンタジーランド タイトル 今江祥智ファンタジーランド
著者 今江 祥智
出版社 理論社
 

 吉本くんは、劇団(げきだん)のなかでも最年少の19さい。彼がもらった役は、なんと「死体」の役だった。「死体」は、ぶたいに出ているのに、せりふも動作(どうさ)もなく、おまけに動いてはならないむずかしい役。しかも、まばたきもできないので、ぶたいにいるあいだじゅう、ずっと目をつぶっていなくてはならないのだ。

「これもちゃんとした役だから」

 えんしゅつの西田さんにそう言われた吉本くんは、もくもくとけいこにはげんだ。そのけっか、せりふも動作もまったくない「死体その一」は、お客のあいだでもなかなかの評判になった。そして、しばいを続けていくうちに、吉本くんは目をつぶっていても、お客のしせんをはっきり感じることができるようになっていった。

 そんなある日のこと。いつものように目をとじて、死体になりきっていた吉本くんは、とてもつよい視線をかんじて、お客にわからないようにうすく目をあけた。それはひとりの少女だった。

  食いいるようにぶたいに見入っている少女。その、こぼれそうなほど大きな目は、いままで吉本くんが見てきたどのお客のものよりも美しい目だった。うすく目をあけていては、たちまちみやぶられそうなほどの強い目の光だったので、吉本くんはいそいで目をとじ、死体にもどった。けれど、もう一度、その少女をみたくてたまらなかった。それほど、なにか強い引力のようなものを、その瞳(ひとみ)は持っていた。

【 ぜんぶで19本のものがたりがおさめられています。今回しょうかいしたのは「美しい瞳」というタイトルです。どれも幻想的(げんそうてき)で、ちょっときみょうなお話ばかりです。】

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