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> おれは二代目パン屋さん
タイトル | おれは二代目パン屋さん | |
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著者 | 水城 昭彦 | |
出版社 | ポプラ社 | |
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春休みさいごの日。いつものように、サッカークラブの練習をおえたあと、亜弓(あゆみ)がいきなり 「きょうでわたしサッカーやめます」 なんて言い出した。三才のときから、亜弓といっしょにいるおれ・達也(たつや)も、もちろん寝耳に水の話だ。 おれの家で昼ごはんを食べるときも、亜弓はなかなか口をわろうとしなかった。サッカーの練習の帰りに、こうしておれの家でサンドイッチをいっしょに食べるのも、ようちえんの時からのこと。おれのうち、といっても、すんでいるのは、おじいちゃんだ。おじいちゃんは、ここで40年ものあいだ、「浪漫堂(ろまんどう)ベーカリー」 というパン屋をひらいている。おれのうちのサンドイッチがうまいのは、おじいちゃんが作るパンのおかげなんだ。 「で、どうしてなんだよ、サッカーやめるっていうのは?」 だって、亜弓は女だけど、うちのサッカークラブの中ではとびぬけて上手かった。亜弓のあとをうめられるフォワードなんて、おれは知らないんだ。 「うーん、びみょうなニュアンスをつたえるのは、むずかしいんだけどさ。ひとことでいっちゃうと、女の子らしくしようってことかな」 思わずむせた。亜弓ほど、女の子って言葉が似あわない女の子、めずらしいと思う。だけど亜弓は、がんとしてゆずらなかった。 「いいじゃん、いまのままで」 その日の夜。おじいちゃんが、とつぜん 「店をたたむ」 って話をはじめた。最近は大手パンメーカーの作る安いパンに負けて、店の売り上げはだんだん少なくなっていた。 「わしのパンも、そろそろダメだ。どこにも負けない自信があったが、お客さんに見向きもされなくなったらおしまいだよ」 ようちえんの時からつづいてきた、日曜日の亜弓とのランチも、春休みをさいごにおわった。おじいちゃんの家の庭にも、パンの焼けるかおりがしなくなる日が、くるのかもしれない。いろんなものが、ずっと同じままつづくわけがない。そんなかんたんなことに、おれは去年まで、気づかずにいたんだ。そのことが、たまらなくふしぎだった……。 【 浪漫堂ベーカリーのおいしいアンパンを作ってみたい。そう思った達也は、うまれてはじめてパンを焼き、パンづくりのたのしさを知っていきます。浪漫堂ベーカリーをまもるために、いったい何ができるだろう? 少しずつ大人になりながら、自分をさがしていく達也のすがたが、とてもすてきです。なんともさわやかなラストシーンも、おたのしみに。】 |