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5年生の今月の本


雷のあとに タイトル 雷のあとに
著者 中山 聖子(作) 岡本 よしろう(絵)
出版社 文研出版
 

 玄関の、厚みがある木の引き戸の横には<藤堂晴臣>と書かれた表札がかけられているけれど、この家にはもうだれも住んでいない。お母さんのお兄さんであるハルおじさんは、今年の二月にとつぜん死んでしまったからだ。
 わたしは、ランドセルのポケットから取り出した鍵で引き戸を開けて中に入った。「また来たよ」とつぶやいたら、写真の中のハルおじさんが、眼鏡(めがね)の奥の目を細めた気がした。建築士だったハルおじさんはよく住宅模型を作っていた。今、だれも住む人のいなくなったハルおじさんの家にひとりでいても、ちっともさびしくないのは、きっとずらりと並べられた住宅模型があるからだ。
 キッチンの小窓から入ってくる風に乗って、下校途中の小学生たちのはしゃぐ声がかすかに聞こえた。咲ちゃんと茉莉香はもう家に帰ったかな、と考えて、雨にぬれた犬のように頭をふった。それからすぐに、ふたりのことなんてどうだっていいし、と思い直して窓の外に目をやった。

 咲ちゃんと茉莉香がおそろいのペンケースを持っていることに気づいたのは、その日の算数の時間。となりあって座り合うふたりの席に、同じように机の端に置かれたペンケースが目についたのだ。
 淡いレモン色の布製のペンケースは、先週公開されたアニメ映画を観に行くと先着でプレゼントというものだった。ふたりで観に行ったんだ、と思ったら、しめった雨雲が胸いっぱいにふくらんだような気がして息苦しくなった。

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