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タイトル | ゆうすげ村の小さな旅館 | |
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著者 | 茂市 久美子 | |
出版社 | 講談社 | |
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ゆうすげ村に、ゆうすげ旅館という一軒の旅館があります。年をとったおかみさんが、ひとりできりもりしています。おかみさんの名前は、原田つぼみといいます。 五月、若葉の季節でした。ゆうすげ旅館は、林道工事の人たちがとまりにきて、ひさしぶりに6人もの滞在のお客さんがありました。若いころなら客の6人ぐらい、何日泊まっても平気でした。でも年でしょうか。ふとんをあげたり、おぜんをもって階段(かいだん)をのぼったりするのが、つらくなってきたのです。 買い物の帰り道、重い買い物袋に音をあげて、ついひとりごとを言いました。 よく朝、色白のぽっちゃりとしたむすめがやってきました。 むすめは、よくはたらきました。そうじも洗濯もさっさとして、まるで昔から、手つだってきたみたいなのです。 「今晩は、ダイコンづくしで、だいじょうぶかしら。お客さんが食べてくれるといいけど……。」 ところが、食後、おぜんをかたづけてみるとびっくり。どのお皿も、ぺろりとなめたようにきれいなのです。 お客さんのひょうばんがあまりよかったので、そのまた翌日も、献立(こんだて)はダイコンづくしになりました。すると、ふしぎなことがおこりました。お客さんが、仕事で山にはいると、小鳥の声や動物の立てる音が実によく聞こえるというのです、そういえば、つぼみさんも、同じです。 遠くの小鳥の声や、小川のせせらぎ、みんなが寝静まると、はるか遠くの山の上をふく風の音さえ、どのあたりをふいているのか、ききわけることができるほどでした。 【 二週間後、お客さんがいなくなってから、むすめがだれなのか、ダイコンがなぜあんなにもおいしかったのか、耳がよくなったのはどうしてか、すべてがわかります。ゆうすげ旅館を舞台(ぶたい)として、心のうるおう、とっておきの話、十二編。どれもきっと楽しめること請け合い(うけあい)です。】 |