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5年生の今月の本


ゆうすげ村の小さな旅館 タイトル ゆうすげ村の小さな旅館
著者 茂市 久美子
出版社 講談社
 

 ゆうすげ村に、ゆうすげ旅館という一軒の旅館があります。年をとったおかみさんが、ひとりできりもりしています。おかみさんの名前は、原田つぼみといいます。

  五月、若葉の季節でした。ゆうすげ旅館は、林道工事の人たちがとまりにきて、ひさしぶりに6人もの滞在のお客さんがありました。若いころなら客の6人ぐらい、何日泊まっても平気でした。でも年でしょうか。ふとんをあげたり、おぜんをもって階段(かいだん)をのぼったりするのが、つらくなってきたのです。

  買い物の帰り道、重い買い物袋に音をあげて、ついひとりごとを言いました。
「せめて、今とまっているお客さんが帰るまで、手つだってくれるひとはいないかしら……。」

 よく朝、色白のぽっちゃりとしたむすめがやってきました。
「わたし、美月(みづき)っていいます。お手つだいにきました。」
「えっ?」
つぼみさんは、きょとんとしました。すると、むすめは、
「わたし、耳がいいから、きのうのひとりごとがきこえたんです。」
といいました。
 そして、去年(きょねん)から、山のなかにあるつぼみさんの畑をかりている、宇佐見(うさみ)というひとのむすめだと名のりました。それから、畑でとれたウサギダイコンを、
「父さんからです」
といってさしだしました。

 むすめは、よくはたらきました。そうじも洗濯もさっさとして、まるで昔から、手つだってきたみたいなのです。
「わたし、料理がとくいなんですよ。」
そういってつくった晩ご飯は、ふろふきダイコン、ダイコンサラダ、焼き魚にたっぷりのダイコンおろしと、ダイコンづくし。

「今晩は、ダイコンづくしで、だいじょうぶかしら。お客さんが食べてくれるといいけど……。」
つぼみさんは、祈る(いのる)ような気持ちで思いました。

 ところが、食後、おぜんをかたづけてみるとびっくり。どのお皿も、ぺろりとなめたようにきれいなのです。
「いやあ、おいしかった。」

  お客さんのひょうばんがあまりよかったので、そのまた翌日も、献立(こんだて)はダイコンづくしになりました。すると、ふしぎなことがおこりました。お客さんが、仕事で山にはいると、小鳥の声や動物の立てる音が実によく聞こえるというのです、そういえば、つぼみさんも、同じです。

  遠くの小鳥の声や、小川のせせらぎ、みんなが寝静まると、はるか遠くの山の上をふく風の音さえ、どのあたりをふいているのか、ききわけることができるほどでした。

【 二週間後、お客さんがいなくなってから、むすめがだれなのか、ダイコンがなぜあんなにもおいしかったのか、耳がよくなったのはどうしてか、すべてがわかります。ゆうすげ旅館を舞台(ぶたい)として、心のうるおう、とっておきの話、十二編。どれもきっと楽しめること請け合い(うけあい)です。】

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