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タイトル | ボルピィ物語 | |
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著者 | 那須田 淳 | |
出版社 | ひくまの出版 | |
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小学5年生というと、 11才の勇(いさむ)は、夏休みを西ドイツのミュンヘンというところですごすことになった。そこには建設会社につとめるお父さんがいるのだ。けれど、でかける直前になって、長野にいるおじいちゃんがケガをして病院にかつぎこまれたという連絡があった。お母さんと妹はさっそく看病(かんびょう)に行くことになった。つまり、ドイツには勇一人で行くことになったのだ。 どきどきしながらミュンヘン空港に降り立つと、迎えにきてくれているはずのお父さんがどこにもいない。かわりに、乗客サービスからこんな伝言がとどいた。“どうしてもミュンヘンまで行けません。「シュリーア・ゼー」まで来てください。” ……「シュリーア・ゼー」? 勇は聞いたこともない地名にどぎまぎしながらも、なんとかそこへたどり着く。 その小さな村の駅に降りたったのは勇一人きりだった。そのとき、待合室のドアが開く音がして、黒い髪の男の人がちらりと見えた。「父さん……?」 勇は影につられるようにして駅を飛び出し、いつのまにか丘の上にひろがる牧草地(ぼくそうち)まで来てしまう。 夏草のつんとしたにおいと、青空の下でのんびりとしっぽをふるまだらの牛が、勇にはなつかしく思えた。おじいちゃんがいる長野の清水谷を思いながら景色にみとれて歩くうちに、勇は白い霧(きり)がたちこめる山道にまよいこんでしまう。もうどこがどこだかわからなくなった勇が、どうしようこのまま死んでしまうのかな、と本気で考えはじめたそのときだった。 白い服を着た少女が、勇をのぞきこんでいた。彼女の名前はアンナ。勇と同い年のこの少女のおじいちゃん、ヨゼフさんは、おどろくことに勇のおじいちゃんの古い友だちだった。ヨゼフさんはこの美しい村でからくり時計を作っている。木くずが散った部屋の中、メガネをかけたヨゼフさんが大きな手でノミをふるうと、ただの板がたちまち鳩(はと)時計の屋根に変わっていく。 テーブルの上の小さな人形たちも、ヨゼフさんの手にかかると音楽に合わせて楽しそうに踊りだすのだった。遅れてやってきたお父さんに、長野のおじいちゃんから預かってきた小箱をわたすと、中から小さな銀の登山用方位磁石が出てきた。磁石の裏には花をかたどったようなふしぎな模様(もよう)が描かれていた。お父さんの通訳によると、昔勇のおじいちゃんとヨゼフさんが一緒に冬の穂高(ほだか)に登ったとき、ヨゼフさんが忘れていったものだそうだ。ヨゼフさんはなつかしそうに磁石をながめていたが、やがてそれを勇にくれた。その夜、ふと目をさました勇は出窓のカーテンのすきまからきみょうなものを目にする。緑色の帽子をかぶり、革のズボンに長靴をはいた小さなやつが、こっちをのぞいていたのだ。怒ったような、怖がっているような表情で……。 「夢かな……。」 それが夢などではないことを、そのときの勇は、まだ知るよしもなかった。 【 ドイツの森のその奥に、金色にかがやくふしぎなわき水がある。それは小人たちの水。命の水。でも、彼らを知らない人間たちが、その水を枯らそうとしていた。霧にかくれてひっそりと暮らす小人は、ふしぎな運命にみちびかれてやってきた二人の子どもたちに願いをたくす。水は戻るのか?小人と人とは昔のように共存できる日がくるのか? 何百年も生きる小人たちは、人間がどんな歴史を歩んできたかをしっかりと見つめています。戦争をし、森を破壊し、小人たちを知らず知らずのうちに追いつめていった人間たちを、彼らはどう思っているのでしょうか。ナゾをとくカギが、ヨゼフさんの方位磁石にかくされています。】 |