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5年生の今月の本


風、つめたい風 タイトル 風、つめたい風
著者 レズリー・ノリス
出版社 小峰書店
 

 十四歳の誕生日の朝、ジェイムズは台所でお父さんと顔を合わせました。お父さんはジェイムズの肩に手をやり、同情するように息子の顔をみつめると、かなしそうに言いました。
「十四歳か。わが家の男たちにとっては、常に悲しい記念日なんだ。そう、悲しい日なんだ。」

 ジェイムズを食堂のいすに座らせると、お父さんは言いました。
「わが家の男たちは、十四歳になると、どんな恐ろしい事実にも耐え(たえ)られるとみなされてきた。世代から世代へ、父から子へ、この秘密は明かされ、そして伝えてゆく。そう誓ってきた。そのことは、いろんな形で人生に暗い影を落とし、わたしたちを悲しみにみちた男にしてきたかもしれない。でも、みんな耐えてきた。きみだってできるはずだ」

 それを聞いたジェイムズはものすごく不安になります。一体ぼくはどんなおそろしいことを聞かされるんだろう?ひょっとしたらぼくは禁じられた出生の子孫なのかもしれない。ジェイムズはかすれた声で「話して」 と頼みました。でも、お父さんはさも気の毒そうにくり返すばかりです。
「できればなにも話さずに、そっとしておいてあげたいんだ」 
「いいかげんにしてよ」
  ジェイムズがしびれをきらしてそう叫ぶと、お父さんはついに告白しました。
「サンタクロースなんて、ほんとうは、いないんだ」

 それを聞いたときのジェイムズの顔がどんなだったか、想像できますか? ジェイムズはお父さんが誰もいない朝の庭で、バラの花にやさしく話しかけているのを知っています。花壇(かだん)に遊びにやってくるつがいの鳥を、「ワドル夫妻(ふさい)」 と呼んでいることも知っています。でも、お父さんは庭をおとずれる鳥達のなかに、青い稲妻のように光るカワセミが加わったことに、まだ気づいていませんでした。

 ある日の午後、ジェイムズはおばあさんのいる病院に行きました。お父さんは、白いベッドの上で眠るおばあさんの手をとり、優しく話しかけましたが、反応は何一つありません。おばあさんは、もう話すことも動くこともないのです。息子や孫がどれだけ近くにいても、もうおばあさんにはわかわないのでした。うつむくお父さんの背中を、ジェイムズは黙って見つめるしかありませんでした。帰りの車のなかでも、お父さんはずっと押し黙ったまま、ひと言も口をきいてくれません。なんとかしていつもの陽気でとっぴょうしもないお父さんに戻ってもらいたい。そう思ったジェイムズは、ある 「なぞかけ」 を思いつきます……。

【 この本には、上に紹介した 「カワセミ」 のほかに、表題作「風、つめたい風」 の二つの作品がおさめられています。どちらもすぐに読んでしまうことの出来るお話ですが、短い物語の中に、主人公の心の成長がしっかりとえがかれています。また、お父さんを元気づけるためにジェイムズが考えた「なぞかけ」には、ユーモアがたっぷり。相手を思いやる気持ちがあれば、かなしみはきっといやされる。そんなふうに思えるお話です。】

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