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5年生の今月の本


ベンガル虎の少年は…… タイトル ベンガル虎の少年は……
著者 斉藤 洋
出版社 あかね書房
 

 ある日、とつぜんに父さんがいいました。 
「いやな。そろそろ、少年になまえをつけなきゃいけないころだと思うのだがな。どんなもんだろうか。」

 ベンガル虎の少年は、それをきいてとてもビックリしました。とうとうその日がきたのです。 ベンガル虎の一族は、赤ちゃんが生まれても、男の子だったらすぐには名前をつけません。少年になってしばらくしてから、名前がつけられるのです。でも、その前に、旅に出なければなりません。旅に出て、広い世界をよく見聞きしてからでないと、一人前だとはみとめてもらえないのです。少年は、自分にもついに旅立ちのときがきたのをさとりました。

 さて、息子の出発にあたって父さんのロビバルから 「ベンガル虎のこころえ」 が伝えられました。
「ベンガル虎こころえ、ひとおうつ。ベンガル虎は、つねに勇気を持つこと! ベンガル虎こころえ、ふたあつ。ベンガル虎は、つねに知恵(ちえ)をはたらかせること! ベンガル虎こころえ、みいっつ。ベンガル虎は、つねに礼儀(れいぎ)を重んじること!」

 旅立ちの儀式(ぎしき)がぶじにすむと、さいごに父さんはいかにももったいぶった感じで威厳(いげん)たっぷりに、こんなことを注意しました。世界じゅうで一番危険な動物は人間である。とくにおとなの人間はひじょうに危ない。ただし、老人と子どもは別である。なぜなら、老人と子どもには虎の言葉がわかるから。
「いいか、少年よ。このこと、決して忘れてはならない。」

 少年は暗い夜道を歩きながら、「人間」 について考えました。人間はおくびょうだけど、なにをするかわからないときがあるからこわいのだ、と父さんは言っていました。
「なにをするかわからない人間が虎みたいに強かったら、さぞこわいだろうなあ」

……そんなことを思ったときです。少年は、以前、父さんから虎になった 「リチョウ」 という人間の話を聞いたことを思い出しました。人間の世界でえらくなれなかったのがくやしくて、くやしさのあまり虎に変身してしまった 「リチョウ」 は、人間でも虎でもおかまいなしにおそいかかる、すさまじく凶暴(きょうぼう)な虎だということでした。暗い森の中を一人ぼっちで歩いていると、いつ 「リチョウ」 が飛び出してきはしないだろうかと不安になってきます。そのときでした。ガサリ。ガサリ、ガサリ。……やぶをゆらして、向こうから何かがやってくるのがわかりました。

「あの木のゆれ方は大きな動物だ。人間かな。いや、ちがう。」
「人間じゃなくて大きな動物っていえば、虎しかいないじゃないか。」

 もしかして 「リチョウ」?

――少年は、胸をどぎまぎさせながら身がまえました……。

【 ひょんなことから旅の行き先を 「中国」 にえらんでしまったベンガル虎の少年は、いくつもの山脈を越えて、はるか北の国、まだ見ぬ中国をめざしてひたすら歩き続けます。行く先々で出会ったのは、虎の言葉がわかる人間の女の子、ベンガル虎を山より大きいと思っている早とちりのアモイ虎、威勢(いせい)はいいけどそよ風みたいな雷しか落とせない子どもの竜……。おもしろい話を求めて中国にやってきた少年ですが、はたしてその願いはかなえられるのでしょうか。ゆかいでふしぎな少年虎の物語がはじまります。
 物語に出てくる虎になった人の話とは、「人虎伝」 というお話のことです。中島敦(なかじま あつし)という日本の作家は、これをもとに 『山月記(さんげつき)』 という小説を作りました。とても短いお話ですが、主人公 「リチョウ(=李徴)」 の孤独やかなしみがよく伝わってきて、いろいろなことを考えさせられます。少しむずかしい言葉が使われているかもしれませんが、こちらもぜひ読んでみてくださいね。】

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