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5年生の今月の本


とんばら村からワチニンコ タイトル とんばら村からワチニンコ
著者 吉本 直志郎
出版社 講談社青い鳥文庫
 

 頓原(とんばら)村は、山の中にある人口1,001人の小さな村だ。その頓原小学校の笹賀(ささが)分校に通っている健太郎(けんたろう)たち上笹賀の11人は、特に仲がいい。

  5年生の健太郎は、あるとき、町のつり道具屋で、振(ふ)り出しざおというものをはじめて見た。のばすと背たけの3倍にもなって、たたむと30センチくらいにおさまる魔法みたいなさおだ。こんなさお、笹賀の子はだれも持っとらん。ええなあ。健太郎はさっそく父ちゃんにねだった。
「あほう。あんなさおは、自分で金もうけができるようになった人間がもつもんじゃ。がきの身分で、ぜいたくこくな。自分で作れ」
――これが返事である。それでも健太郎はあきらめきれず、分校でもつりざおの話ばかりしていたら、とうとう分校のみんながつりざおをほしがるようになった。

「それならみんなで金をかせいで買(こ)うたらどうじゃ」
という分校長のひと声で、健太郎たちはわらびやフキとりを始めた。農協にひきとってもらってお金にするのだ。何か月もがんばって、ようやくさおが買えるだけのお金ができ、いよいよ、そのさおで魚つりをする日曜日がきた。さおがいいので大漁(たいりょう)だ。石のかまどに火を起こし、次から次へと魚を焼く。

 そこへ、ひとりだけ太郎淵(たろうふち)でねばっていた6年生の勝彦(かつひこ)が顔色を変えてもどってきた。
「なんか知らんが、でっかい魚がおるんじゃ。だれか太い糸もっとらんか」
するとその場にいたばあちゃんが言った。
「そりゃあ、太郎淵の主(ぬし)かもしれん」
そして、気味のわるい声で、
「この村には、いたるところに神や妖怪(ようかい)がおって、おまえたちを見とるんじゃ」
ばあちゃんの言葉がほんとうなら、ひとつその妖怪たちに会ってみようじゃないか、と健太郎が言いだし、夏休みになったら肝(きも)だめしをしようということになった。

【 頓原町という実在の地名が島根県にあります。この作者は広島育ちですし、村の子どもたちも「広島弁(べん)っぽい」言葉を話すので、舞台(ぶたい)はそこか、とつい思いますが、頓原村は架空(かくう)の村です。村にはなぜか縁起(えんぎ)の悪い人がいたり、トホホな事件(じけん)が起こったりもしますが、それも楽しい風景の一つです。何よりいいのは、村のおとなが、言葉づかいは乱暴(らんぼう)でも、温かく説得力のある存在(そんざい)として描(えが)かれていること。ひと夏、頓原村に帰ってみたいです。なお、この本は、現在書店では手に入りにくくなっています。図書館で借りて読んでください。 】

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