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5年生の今月の本


ザリガニ同盟 タイトル ザリガニ同盟
著者 今村 葦子
出版社 学習研究社
 

 5年生になって、ついにめぐりあったビッグ・チャンス。ああ! 小さいときから何度、ぼくはこの池で、だれかがザリガニをつかまえるのを見て、くやしい思いをしてきただろう! だけどこんどこそは、ぼくの番だ。あの池には、ザリガニの数よりも、ザリガニをねらう子どもの数の方が何十倍も多い。だから、ザリガニをつかまえるのは大変なことだなんだ。しかも、ぼくが見つけたのは池の主のような大物だった。 親友のカッペイといっしょに、必死になって走り、家へもどった。ザリガニをつかまえ、飼うために必要なものをそろえるためだ。

「まだいるかな」
「いるにきまってるさ」
「あそこは、あいつの巣あななんだ」
ぼくはするどいナイフのような目つきで池のある一点だけを見つめた。そのとき、しゃがみこんでいるぼくらの頭のてっぺんから、
「ぼうやたち」
という声がおちてきた。

「ザリガニつりか?」
「ええ」
「そこの、巣あなの?」
「……ええ」
ひょろひょろにやせた、白髪(しらが)頭のじいさんだった。

「な……おねがいだ。あれを見のがしてやってはもらえまいか。あれはわたしのなかまなんだ」
「ザリガニがですか」
びっくりしてカッペイがきいた。
「そうだ。 あれもわたしも、今日まで、どうにかこうにか生きのびてきた。年より同士が、 ひっそりと、ここで会って、ぶじをたしかめあう。それがわたしの日課なんだ。あれのなかまたちは、もうほとんどが子どもたちにとられて、すがたを消した。……・・な。あれを、見のがしてやってくれないか」

  ぼくは、まじまじと、じいさんを見つめて、ばっかじゃないだろうかと思った。わたしとあれだって? たったひとつの楽しみだって? とても正気とは思えなかった。この池のザリガニは、つかまえた者のものなんだ。早い者のかちなんだ。それがルールだった。それが、あんなへんなじいさんのために、チャンスをとりにがすだなんて……。

  ぼくとカッペイは、帰ったふりをし、じいさんがいなくなってからザリガニをとった。ザリガニは、見たこともないような大物だった。帰り道、ぼくらはほとんどしゃべらなかった。なぜだか、ひどく腹(はら)が立つような、ひどくがっかりしたような気がしていた。

  ぼくは、そのザリガニを<帝王(ていおう)>と名づけた。近くで見ると、それはザリガニではなく、古代の怪獣(かいじゅう)のようだった。水槽(すいそう)に顔を近づけて、まじまじと見る。すると、ぼくの帝王は、太古の世界を支配する巨大(きょだい)な王者になった。しかし、いったん帝王のそばをはなれると、心に雑音がまじるのだった。あのじいさんの声が聞こえてくる……。

【 きっとみなさんは、「ザリガニを池にかえすにちがいない」と思うでしょうね。そのとおり。じいさんは大変に喜び、ザリガニの池の秘密(ひみつ)を教えてくれます。そして、じいさんと三人で「ザリガニ同盟」を結成します。そのとき、じいさんの命はあとわずかしか残っていませんでした。】

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