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> 月夜に消える
タイトル | 月夜に消える | |
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著者 | 佐々木 赫子 | |
出版社 | 小峰書店 | |
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ある日ぼくは、自分のアパートの共同郵便(ゆうびん)受けの上におきわすれられているラジコン・カーを見つけた。だれのものかは、すぐわかった。ぼくは、とっさにそれをつかんで階段(かいだん)をかけ上がっていた。ぬすむつもりはなかったのに、持ち主が住む3階でぼくは足を止めなかった。だが4階を通りすぎようとしたとき、そこに住む和田(わだ)さんというおじいさんと顔を合わせてしまった。ぼくはドギマギしてその場を逃(に)げ出す。自分の家に帰ったものの、ラジコン・カーをぬすんだことが和田さんの口からアパートじゅうに広まりそうな気がして不安になった。 夜中に目をさましたぼくは、ラジコン・カーをすててこようと決心する。月夜だった。こっそりと団地の芝生(しばふ)を歩くぼくの前に、次々と姿(すがた)をあらわした、たくさんのネコ。ぼくは好奇心(こうきしん)にかられ、ネコのあとをついて行った。だがネコに気を取られて、植えこみのかげにいただれかの背中(せなか)にぶつかりそうになる。和田さんだった。のらネコにえさをやっていたのだ。団地では禁止(きんし)されているため、夜中にこっそりと――。ぼくの手から、ラジコン・カーが音をたてて落ちた。 3階の子のラジコン・カーがなくなったという話は、すぐアパートじゅうに広まった。だが、ぼくがぬすんだといううわさは、ついに立たずじまいだった。ぼくも、和田さんがのらネコにえさをやっていることは、だれにも言わなかった。 そんなある日、和田さんが階段から落ちてけがをし、 入院することになった。和田さんは、救急(きゅうきゅう)車にのせられるまぎわにぼくを呼(よ)び、玄関(げんかん)のカギをわたしてネコのことをたのむ。 ぼくは病院に和田さんをたびたび見舞(みま)っては、 ネコの話をするようになった。ふたりで共謀(きょうぼう)してきまりを破っているのが心地(ここち)よく、楽しかった。 だが団地では、自治(じち)会の人たちがネコ狩(が)りをする手はずを決めていた。ある夜、ぼくが呼んでもネコは1ぴきも出てこなかった。あきらめて帰ろうとするぼくの前に、突然(とつぜん)あらわれたネコたち、そして和田さん。だが、ぼくの声など聞こえないかのように、和田さんはネコたちに囲まれて遠ざかっていき、やがて、消えた。和田さんが病院でなくなったのは、ちょうどその晩(ばん)だったということだ。 【 普通の生活の中で、ふと垣間(かいま)見える非日常の世界をえがいた小品4作を収録。子どもの心の動きがていねいにえがかれた質のよい読み物です。書店でも手に入りますが、たいていの図書館にありますから、図書館で借りて読むことをお勧(すす)めします。小学館文学賞受賞作。】 |