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6年生の今月の本


クリスマス・キャロル タイトル クリスマス・キャロル
著者 ディケンズ
出版社 岩波書店
 

 スクルージは、とんでもなくけちで気むずかしい老人だった。スクルージにとって大切なことはお金であって、なれなれしくすることなんか大きらいだった。人情などはらいのけ、この世の人ごみをおしわけ、かきわけていく……それこそ、スクルージには”最高の生き方”なのだ。

 クリスマス・イブの夜。くらい部屋の中でいすにすわっていたスクルージは、家じゅうの呼び鈴がひとつ残らず鳴り出すのをきいて、びっくりぎょうてんした。言い知れぬおそろしさにふるえあがった。呼び鈴は、鳴りはじめたときと同じように、いっせいにぴたっと鳴りやんだ。すると今度はどこかずっと下のほうから、ガランゴロンという音が聞こえてきた。音は階段をのぼり、まっすぐスクルージの部屋のほうへやってきた。

「そんなばかな。わしは信じないぞ。」

 それでも、”そいつ”が立ち止まりもせずに、重いドアをつきぬけ、部屋に入りこんで、目の前にやってきたときには、スクルージの顔色は変わった。幽霊は、七年前に死んだスクルージのたった一人の友人・マーレーと同じ顔だったのだ。マーレーの幽霊は、しっぽのように長い長い鎖(くさり)を体じゅうにまきつけ、ひきずっていた。

「あんたは、鎖をかけられているが、どうしてなんだ?」
 スクルージは、ふるえながら言った。
「わしがつけている鎖は、生きているあいだに、自分の手で作りだしたものだ。輪をひとつずつ作り、一メートル、二メートルとつないでいった。それを自分の意志で体にしばりつけ、自分の意志でつけて歩いているのだ。」
 スクルージは、ますますふるえた。
「おまえの鎖は、すでに七年前のクリスマス・イブに、重さも長さも、わしのと同じだった。そのあとも、せっせとつないできたのだから、今ではとてつもなく重いものになっているぞ!」
 スクルージは、すっかりうろたえてしまった。マーレーはつづける。
「まだおまえには、わしの運命をのがれるチャンスと望みがある。おまえのところに、三人の精霊(せいれい)があらわれる。」

 その精霊の訪問(ほうもん)を受けることが、スクルージが救われるただひとつの方法だと言う。マーレーの幽霊が空に消えてしまっても、スクルージには、今起こったことが夢なのか現実なのか、さっぱりわからなかった。

 そして、時計が一時の鐘(かね)を打ったとき。部屋にぱっと光がさして、ベッドのカーテンがひきあけられた。
「わたしは、過去のクリスマスの霊(れい)だ。」
「遠い過去の?」
「いや。おまえの過去のだ。」

 霊はスクルージの腕(うで)をつかみ、彼をあっというまに、いなかの道へつれて行った。あたりは晴れて、寒い冬のま昼。地面には雪が積もっていた。
「これはおどろいた! ここでわしは生まれたのだ。子どものころ、ここに住んでいたのだ!」

【 ディケンズがこの本をかいた当時、イギリスでは産業革命がはじまり、農村から流れてきたたくさんの労働者(ろうどうしゃ)たちは、まだ整備されていないひどい環境のもとでくらしていました。貧しい労働者の子どもたちは、満足に学校に行くことも、学ぶこともできませんでした。ディケンズは、「無知は人間を破滅(はめつ)に導く。人類を救うものは教育だ」と熱心に考え、幸福な者や豊かな者、力のある者は、社会の不正を正すためにあらゆることをすべきだという信念をもっていました。彼の書く物語が、こうした人々の意識に働きかけ、イギリス社会を変えていく力になったのです。

「メリー・クリスマス」という言葉を使ったり、クリスマスにおくり物をしあったり、というような、クリスマスを祝う慣習(かんしゅう)が今のように広まったのは、この「クリスマス・キャロル」がきっかけだと言われています。またディケンズは、クリスマスになると、貧しい人々から、くだものや野菜などのおくり物をたくさん受け取り、人々はディケンズの名前をきくと、「神さまの祝福がありますように!」と言ったということです。】

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