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6年生の今月の本


お菓子放浪記 タイトル お菓子放浪記
著者 西村 滋
出版社 講談社
 

  七つの年におかあさんが胸の病気で死んで、十歳の時、おとうさんが死んで、みなしごになってしまったわたしはいくつもの孤児院(こじいん)を転々としました。なぜ、転々としたかというと、孤児院を逃げ出そうとしてばかりの厄介者(やっかいもの)だったからです。

  その日、わたしは初めて脱走に成功しました。

  脱走に成功した私は、立ち読みをしてみたりと外の空気を味わい本当に倖せだったのですが、大衆食堂の前を通りがかった時、その倖せはあぶなくなりだしました。空腹がついにごまかせなくなってしまったのです。

  わたしはとうとう、菓子屋の店先から袋菓子をポケットへしのびこませようとし、刑事さんに肩をポンとたたかれました。

  その日は大みそかで、私は留置場で新年を迎えることになってしまいました。

  しかし、三日たっても、孤児院から引き取りにきてくれませんでした。

  一週間がたって、わたしを捕まえた遠山という刑事さんがわたしに会いにやってきました。
「いろいろ交渉してみたがダメだった」

  逃げた上に盗みをするような者は孤児院に引き取ってもらえないそうなのです。

  私は少年審判所にいれられ、どこかの施設に送られることになりました。

  少年審判所に向かうバスの出るバス停で遠山刑事さんが紙袋をわたしに突きつけました。
「バスがくるまでに食べてしまいなさい」

  袋の中には菓子パンが二つ入っていました。ひとりで二つもの菓子パンを手にしたことのなかった私には、この菓子パンが忘れられないものになりました。

  わたしは少年審判所から盗みや傷害といった罪をおかした不良少年を収監する施設に送られました。この施設は、なにかあればすぐ子どもを殴(なぐ)る指導員が権力をふるっている恐ろしいところでした。

  しかし、わたしはここに務めている院長の遠縁の若い保母(ほぼ)さんの富永先生という先生の存在に救われました。

  富永先生は就寝前の一時間、娯楽室(ごらくしつ)にあるオルガンで「からたちの花」や「この道」といった曲を弾き唄(ひきうた)ってくれるのでした。

  その歌の中でも、「お菓子と娘」という歌がわたしのお気に入りでした。この歌を聞くと、やさしくほほえむ人々がいる世界が空想されるのです。そのほほえむ人の中には遠山刑事の顔も見えました。

【 わたしが終戦を経て、おとなになるまでの物語。ドラマにもなり、2011年には映画化もされたロングセラー作品です。美しいお菓子のような人になって欲しいという作者の願いが心にしみいる物語。】

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