仰と吏の兄弟に、父親の雅史が、夏休みに、勤務地であるロシア連邦のモスクワに連れて行ってやろうと言った。仰と吏は、最初の言葉を聞いたとき、耳を疑った。父親の田舎は仙台だから、兄弟は幼いころから夏は、お墓参りをかねた七夕見物に決まっていた。

ぼくも、お兄ちゃんの意見に大賛成。今年は別のところがいいな」　
吏は小五。いつまでも子どもあつかいされることに抵抗する年齢に成長していたのである。

　そんなふたりだったから、父の言葉はまさに青天のへきれきであった。夏休みに入った翌日、仰と吏は、父親の雅史といっしょに、成田空港を旅客機でたった。そして、モスクワ――。目に入るすべてのものが、想像していた以上に巨大であり、道路も広場も日本では考えられないほど広くてゆったりとしているというのが、第一印象だった。