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星空のシグナル|6年生|小学生のための読書案内|家庭学習研究社

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6年生の今月の本


星空のシグナル タイトル 星空のシグナル
著者 横山 充男
出版社 文研出版
 

「学校がこわくってさ。ものすごくおなかがいたくなるんだ。薬のむと、すこし楽になる。でもそれだけなんだ。薬にたよっちゃうと、だめになる。」
  どきっとした。 「だめになる」 といった由加のことばが、由加自身にむけられている気がした。 

 伸一(しんいち)は、この春に私立光陽学園に入学したばかりの中学一年生だ。 幼稚園から大学まであって、同じ敷地(しきち)内に女子中高・短大も一緒にあるこの学園に伸一が入学したのは、母が紺色の詰めエリの制服をとても気に入っていたこと。それから、どちらかというと気の弱い伸一には、上品(じょうひん)そうで平和そうな光陽学園の生徒たちの姿が、自分には合っているように思えていたからだ。

 期待で胸をどきどきさせながら始まった中学校生活。けれども伸一をまっていたのは予想以上にきびしい現実だった。成績の良し悪しが何よりも大事なこの学校では、毎日が授業、宿題、テスト、授業、宿題、テストのくり返しだった。
 中学校に入学したら伸一はサッカークラブに入るつもりだった。山に野鳥を見にいくつもりだった。でもクラスわけで成績が一番下のCクラスになるのがこわくて、勉強以外はなにもできない。あこがれていた電車通学でも手にする本は文庫本ではなくテキストばかりになった。
 銀ぶちメガネをかけた担任も、紫のアイシャドーをぬった英語の先生も、勉強のできない生徒にたいしてあまりにもつめたくいじわるだ。周り中みんなが敵に見える……だんだんと教室のふんいきが悪くなっていく。

 そしてある日とうとうみんなの不満がばくはつした。“いじめ”がはじまったのだ。いつも成績のいい中井と成績のわるい沢野が標的(ひょうてき)になり、二人はクラスの者から無視されたりゴミを投げつけられたりするようになった。息苦しい学校生活のなかで伸一はだんだんと学校に行くのがいやになる。そんなとき出会ったのが由加である。小学校の同級生で同じ光陽学園の女子中学校に通う由加は、もうずっと学校を休んでいるという。町で再会したとき由加はショートカットの髪とくちびるがまっ赤だった。(制服を着た由加はどこから見ても立派な女子中学生に見えるのに、なぜ学校に行かないのだろう。)

 やがてだんだんと由加の家族のことがわかってくる。そこには、伸一が思いもよらなかったような由加の悩みがかくされていた。あるとき由加がこんなことを言った。「公園なんかでさ、一、二歳の子どもがよく遊んでるよね。」 「見てるとおもしろいんだ。ちっちゃな子ってさ、ときどきベンチにすわっているお母さんのところへ走っていって、ひざの間にこすりつけるようにして顔をうずめるの。あれさ、おかあさんの安心エネルギーを吸収してんだよ。それからまたはなれていく。冒険のはじまりなんだ。でもちっちゃい子ほど長つづきしない。すぐにお母さんの安心エネルギーをもらいにもどるんだ。子どもって、ああやって大きくなるんだね。」 「だけど、お母さんの安心エネルギーで訓練できない子はどうなるんだろ。強い子ならいいけど、エネルギーをもらわないと冒険にでられない子は、どうすればいいんだろ。」 男ことばで明るくふるまう由加がそんなことを言った。

 「伸一はちがうよ。すごく健康だよ。おかあさんからはなれて、冒険にでようとしてるもん。伸一が今感じてる苦しさは、あたしから見るととてもすてきだよ。学校だって、いやなことばかりじゃないだろうし。」

  たしかにそうだった。伸一には不器用なりに自分のことを見守ってくれている家族も、ほっとできる場所もあった。(そうだ、がんばれるだけがんばろう。) 伸一は由加のことばに勇気づけられるようにして、クラスを変えるために 「ある暗号」 をつかうことを思いつく。

【 来年の春からいよいよ中学校に進学するみなさんにとって、伸一の悩みや葛藤(かっとう)には共感できる部分がたくさんあると思います。伸一の学校生活、クラス、先生、そして由加はいったいどんな方向にむかっていくのでしょうか。ぜひ、読んでみてください。】

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