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6年生の今月の本


おき去りにされた猫 タイトル おき去りにされた猫
著者 アドラー/著 足沢良子/訳
出版社 金の星社
 

 十三歳のチャドは、小さな別荘(べっそう)の丘の上にいた。この別荘はチャドのお父さんのものでも、お母さんのものでもない。チャドにはもともとお父さんがいないし、チャドのお母さんは、チャドとはいっしょに暮らしていない。けれど、これまでチャドが暮らしていた、どの里親のところにも、お母さんはたずねてきたし、ちゃんと約束した。
「今度来る時には、連れて行くからね。」
お母さんがそう言うたびに、チャドはお母さんの言うことを信じた。でもお母さんは決して、チャドを連れて行かなかった。そしてある日、手紙を一通よこして、お母さんはチャドの前から消えた。

 この夏、チャドはソレニックさんの一家といっしょに暮らすことになった。チャドはこれまで、こういう人たちをいつも喜ばせてきた。家の子どもと仲よくしたり、命令されるままに「お母さん」と呼んだり……たとえその人たちが、チャドを好きでなくても。

 でもそういう人たちはみんな、夏が終わると、チャドをケースワーカーに放り返した。チャドは里親を喜ばせることをやめた。そんなことをしなくても、チャドがきちんとお金をかせげるようになれば、お母さんはチャドといっしょに暮らしてくれる。きっとお母さんは、最後にはチャドのところに来てくれるはずだ。

 チャドは丘の上で、猫(ねこ)を待っていた。初めて猫を見たとき、猫は低いナラの木とクマコケモモの間に消える前に、じっと丘の上から別荘を見下ろしていたのだ。どこかの飼い猫のようではなかった。だれの世話にもなっていない、たくましいのら猫。チャドも、そうなりたいと望んでいた。けれど、猫は用心ぶかく、いつもチャドのことを警戒していた。

 ある日、砂浜で釣(つ)りをしている老人の近くに、猫がすわっているのが見えた。チャドの心は、おどった。
「ねえ。あれ、おじいさんの猫?」
「いいや、あれはただの、のら猫だ。」
「でもきっと、おじいさんが好きなんだよ。あいつは、ぼくのそばへは来ないんだ。」
すると老人は言った。
「もしおまえだって、ほんの子猫の時に捨てられたらそうなるさ。夏の別荘を借りる人たちは、夏が終わるといつも何匹か、のらたちをおいてく。動物に食べ物をやっていいことをしたと思っとるが、うちへ帰る時には連れて帰りたがらない。」 

 老人は、こののら猫に、いつもつった魚をやっているのだった。
「じゃ、おじいさんも、そういう夏の人たちと同じだね……この猫に食べ物やって。」 
すると老人はしばらくだまったあと、口を開いた。
「わしはな、一年じゅうここにおる。だからこいつは、わしが施(ほどこ)し物をやるのを、あてにできる。夏の人たちは、自分たちを信頼するようにさせておいて、急におき去りにする。そこにちがいがある。わかるか?」
老人は、大きなかれいと小さな魚をつり、小さなほうを猫にやった。

 しばらくすると、猫はチャドの指のにおいをかぎ、のどをなでさせるまでになった。チャドはうれしくて、にっこりした。けれど、銃(じゅう)で猫を撃とうとしたり、毒入りのえさで猫をころそうとしている人がいることを知る。なんとかしなければ、おそかれ早かれ、猫はころされてしまうだろう……。

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