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> カモメの家
タイトル | カモメの家 | |
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著者 | 山下 明生 | |
出版社 | 理論社 | |
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「ナイフをとぐんは、いたしい(むずかしい)んど。うっかり手をすべらしでもすると、おのれの指でサシミをつくることになりかねんど。からだじゅうの神経を指先に集中させんとのお。ほかのことを考えよっちゃだめなんど」モリユキさんのことばを思い出しながら、アキラは流しでナイフを研(と)いでいた。アキラにとって、このナイフはただのナイフではない。フジ子姉ちゃんからもらった、大事な大事な肥後守(ひごのかみ)だ。 小さいころから自分をかわいがってくれたフジ子姉ちゃんは、本当ならこの春中学を卒業して島の高校へいくはずだった。それなのに、カイカイジーのたくらみで、大阪の紡績(ぼうせき)工場へ就職することになったのだ。 カイカイジーは、アキラたち漁師の家にお金や炭を貸しつけてくらしているケチな老人で、島のだれもがきらっている。けれどもこの島で漁をしているかぎりカイカイジーにさからっては生きていけない、と大人たちは口をそろえて言う。 フジ子姉ちゃんが大阪へ行かなければならなかったのも、みんなカイカイジーのせいなのだ。 「アンチキショウ……」 うらみをこめながらナイフをといでいたアキラの指先に、痛みが走った。そのとき、とつぜん飼い犬のマンタがほえ出した。そのほえ方がいつもとぜんぜん違っていたので、アキラはすぐにピンときた。 急いで玄関先に向かうと、思ったとおり、そこには去年とかわらないボロボロの軍服を着たヨッちゃんの姿があった。でも、そのとなりには見たことのない少女が一緒に立っていた。ミイと呼ばれたその少女は、ばさばさのおかっぱ頭にうすいまゆ毛で、光線の加減だろうか、顔色が白や緑に見えた。そして、カモメのような真剣な目をしていた。 |